宮本恒靖インタビュー
子供たちの未来を見据えるまっすぐな視線
2014/05/13
スポーツ界だけでなく、日本の子供たちの未来を見つめるその眼差しの奥に、クールな外見とは対照的に、宮本恒靖さんの熱くてアクティブな本当の姿が垣間見えた。
もうすぐワールドカップ。FQ JAPANでは今週から5週にわたってサッカー(元)選手の父親ぶりを公開。第1回はW杯2大会でキャプテンを務めた宮本恒靖氏だ。
サッカー日本代表キャプテンを務めた経験から生まれた冷静かつ深い洞察力。それは、引退後も、むしろパワーアップしている印象。スポーツ界だけでなく、日本の子供たちの未来を見つめるその眼差しの奥に、クールな外見とは対照的に、実は熱くてアクティブな本当の姿が垣間見えた。
海外で暮らした1年間は家族にとっても貴重な経験
昨年の9月からイギリス、イタリア、スイスに出向き、FIFAが運営するスポーツ学に関する大学院の修士課程、「FIFAマスー」を修了した宮本さん。イギリスでは単身赴任、イタリア、スイスでは家族を伴っての4人暮らしを経験。イギリスでの一人暮らしは集中できたが、どこか寂しさも感じたという。
「いつも一緒にいた人たちが周りにいないのは、やっぱり寂しかった。だからイタリア、スイスのときは、家族のおかげで自分らしく過ごすことができました。でも、その分やらなければならないことも増えるわけですから、大変なこともありましたね。長男を現地の学校に通わせるために手続きをしたり。また、賑やかになりますから、テスト勉強のときは、〝これが終わったら一緒に遊ぶから、頼むから静かにしててくれ〞って真剣に思ってました(笑)」。
宮本さんは10歳の長男である恒凜(こうりん)君と、6歳の長女、馨子(かおりこ)ちゃんの2人の父親。恒凜君は父親の影響を受け、サッカー少年としてすくすく育っている。昨年行われた宮本さんの引退試合には、父親と同じ背番号5を背負ってピッチに登場。見事ゴールも決めている。
「交代選手の中に息子が見えたんで、〝あれ?〞と思って(笑)。あのサプライズには、本当にビックリしました。息子はヒデ(中田英寿)ともマッチアップしてましたけど、誰だか分からずにプレーしてたんじゃないかな(笑)。でも、そんな経験ができるなんて、本当に幸せ者だなと思いながら見てましたね。もちろん、父親としても誇らしかったですよ」。
嬉しそうに目を細める宮本さんだが、息子がサッカー選手になることを望んでいるわけではないという。
「僕は〝サッカーが上手くなりたい〞〝トップでプレーするにはどうしたらいいか〞ということを常に考えていて、その連続の中でプロになることができた。僕が息子に望んだところで、彼が積極的にそう考えなければ伸びることはできない。積極的になれて集中できるものがサッカーなのであれば頑張って欲しいし、もちろんそれがサッカーじゃなくてもいい。これから出会ういろいろな対象から、何かひとつを見つけて、それに集中してくれればいいと思っています。もちろんそれが野球だったら〝なんで?〞って思うかもしれませんが(笑)」。
そんな宮本さんが子供たちに伝えたいのは集中力を持って物事に取り組むこと。サッカーでもあっても、もちろん他のことであっても、だ。
「勉強はもちろん、食事もそうだし遊ぶ時だってそう。例えば1時間あるとして、勉強をダラダラと30分やって残りの30分で遊ぶんだったら、集中して10分で終わらせて50分遊べるでしょと。集中力は、何をするにしても一番大事だと子供たちにはいつも言っています」。
夫婦+息子が魅せる家庭内カバーリング
現役時代は遠征などで家を空けることが多かった宮本さんだが、子育てを奥さんに任せるという意識はなく、できるだけ積極的に参加した。
「特にそうしなきゃいけないと思ったわけでもなく、それが普通だと思ってました。家事だって、任せっきりにせずに僕が掃除をしたり。うちは気付いた人がやればいいよねっていうスタンスですね。特にルールを決めているわけでもなく、自然とそうなった。サッカーだったら、お互いの領域をカバーし合うのは当たり前。お互い補完し合わないと戦えない。夫婦もそうだし、家族もそう」。
最近は夫婦の連携に長男・恒凜君が加わり、宮本家のディフェンスはさらに鉄壁となった。
「空港で重たいスーツケースを運ぶときに、息子がカートを取ってきてそれにスーツケースを乗せて運び始めたんです。昔は自分がカートの上に乗っていたのに、今はそれを押すようになった。知らない間にこんなこともできるようになったんだなと、ちょっと驚きましたね」。
日本の子供たちに向けたアクティブなメッセージ
宮本さんは2008年から大人と子供のコミュニケーションを増やし、子供たちの可能性を広げることを目的とする「KIDS SAVER(キッズ・セーバー)」というプロジェクトに立ち上げメンバーの1人として参加している。プロジェクトに参加するのは、さまざまな分野で活躍するスペシャルな大人たち。宮本さんはもちろん、サッカーを通じて、日本全国の子供たちに、メッセージを伝えている。
「子供は誰にとっても大事な存在であり、彼らに対して、大人はいつも君たちの側にいてあげられる存在なんだというメッセージを伝えたかった。昔と比べて、大人と子供の関係が少し希薄になっている気がします。昔は近所に怒ってくれる怖いおじさんがいたけど、今はいませんよね。だから〝自分が思ったことを子供たちに伝えていこう〞という意識は強くあります。例えば現役時代だったら、子供たちが〝宮本、宮本!〞って言いながら寄ってくるわけじゃないですか。そういときに〝それは違うよ。ちゃんと『さん』を付けて呼びなさい〞と叱ったりね。子供たちには〝宮本うるせえなあ〞なんて思われたかもしれませんけどね(笑)。コミュニケーションをちゃんととって、思ったことをしっかりと伝えることって、大事なことですよね」。
修士(マスター)となり、さらにグローバルな視点を手に入れた宮本さん。その大きな瞳には、スポーツ界の未来はもちろん、子供たちの未来までもが映っているのだ。■
PROFILE
宮本恒靖/TSUNEYASU MIYAMOTO
1977年2月7日大阪府富田林市生まれ。10歳で本格的にサッカーを始め、高校時代はガンバ大阪のユースチームに所属。高校卒業後ガンバ大阪入団と同時に同志社大学へ進学。日本代表では各世代でキャプテンを務め、2002年ワールドカップ日韓大会、2006年ドイツ大会ではチームを牽引。2011年12月に現役引退を発表、17年間の現役生活にピリオドを打つ。今年7月にはFIFAマスターの修士課程を修了。サッカー界へのさらなる貢献が期待されている。
※FQ JAPAN vol.28(2013年秋号)より転載
(2014.5.13up)
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