産後のママはどんな状態? 妻を支えるために知っておくべき『産後ケアの基本』
2022/08/31

出産後は、赤ちゃんのケアだけに目がいきがち。でも出産という大仕事を終え、慣れない育児に奮闘する産後ママの負担は、心身ともに絶大だ。産後ママの心とカラダをサポートする“産後ケア”にはパパの協力が必須。出産前から正しい知識を身に着けて、心の準備をしておこう。
What is“ 産後ケア”?
産前から産後に変化する女性の心とカラダ。環境の変化も相まって、産後の女性には大きな負荷がかかるもの。
“産後ケア”とは、産後の大変な時期、心とカラダ、そして子育て環境も含めた産後の女性への包括的なケアのこと。ママ自身が心身ともに健康であることは、家族のみんなの幸せにもつながるのだ。
想像以上に全身がボロボロ……
産後ママのカラダを知ろう
出産は、まさに命をかけた大仕事。産後ママのカラダには、様々な傷や不調が生じている。なかでも最も大きいダメージを受けているのが、子宮だ。胎盤が剥がれたあとの子宮壁には、直径30cmほどの円形の損傷ができ、見た目にはわからなくても実際、大ケガを負っているのと同じ状態に。産後、ゆっくり寝て養生する必要があるのは、このためだ。
「産褥期」とは、妊娠前の状態にカラダが完全にもどるまでの産後6~8週間のことを指すが、回復には個人差があり、産褥期が終わってもなかなか体力が戻らない人も。赤ちゃんのお世話も大変な時期なので、パパを筆頭に周囲がしっかりサポートすることが大切なのだ。
産後ママのカラダ
骨盤 「出産で開ききった骨盤は、産後グラグラした状態。骨盤底筋群が伸びて断裂するなどのダメージを負うことで、尿もれがしばらく続くことも。
お尻 ホルモンの影響や腹筋が弱まることが原因で、産後ママは便秘になりがち。また、出産時のいきみや子宮の痛みにより、痔になることも。
乳房 授乳によって、乳首は傷だらけに。母乳の分泌が盛んになると、乳腺が張り、ズキズキとした痛みを感じるように。
お腹 出産したのにヘコまないお腹、妊娠線や黒ずみが残る皮膚など。外見の変化が産後ママにとって大きな悩みの1つになることも。
子宮 見た目にはわからなくても、出産によって大ケガ同然のダメージを負っている。出産後1ヶ月ほどは出血が続く。
肩 育児の緊張や、首の座らない赤ちゃんを抱っこする時の不自然な姿勢などによって極度の肩こりに。
肌 目元のクマや脇、乳首などの黒ずみ、肌の色が濃くなることも。
……他にも、髪の抜け毛、筋肉痛、眼精疲労、腱鞘炎、筋力低下などカラダのあちこちで不具合が!
産後ママはガラスのハート
メンタルの変化について理解する
ピリピリ、イライラしたり、落ち込みやすくなったり……。産後ママが情緒不安定になるのには、理由がある。
妊娠中は、妊娠を継続させるためのホルモン(エストロゲン、プロゲステロン)が大量に分泌され、妊娠前の数百倍にまで上昇。しかし、これらのホルモンは分娩することで急に分泌が収まり、母乳を作るホルモン(プロラクチン、オキシトシン)の分泌が一気に高まる。まるでジェットコースターのように急激なホルモン分泌の変化によって、心が不安定になってしまうのだ。
そのため、パパはいつも以上に思いやりを持ち、優しく包容力のある対応を。産後2~3ヶ月から1年ほどかけてホルモンバランスが整っていくにつれ、ママの心も少しずつ安定していくはずだ。
メンタルの変化
● ワケもなく涙が出て止まらない
● 漠然とすべてが不安
● いつもの自分じゃないみたい
● 赤ちゃんがかわいいと思えない
● ちょっとしたことですごく傷つく
● 孤独感とプレッシャーに押しつぶされそう
● やる気が出ない
● 外に出たくない
※記載の心身的症状は個人によって異なります。夫婦でしっかりコミュニケーションをとり、上記産後ケアリストをはじめかかりつけの医師や助産師に相談しましょう。
パパができることはたくさん!
家庭内で産後ケアを実践しよう
産後、ママの生活は一変。心身ともに疲労が蓄積している中、ほぼ24時間体制で赤ちゃんのお世話をすることになる。その辛さをひとりで抱え込んでしまわないよう、周りがしっかりケアしてあげることが大切だ。
夫婦間でも家事育児の分担が当たり前になってきた昨今、「仕事さえしていれば自分の役割は果たした」と考えるパパは少ないはず。とはいえ、「お手伝い」感覚では、産後ママの発火ポイントになってしまうことも。「できるときに」「できることだけ」やればいいというスタンスから抜け出すことが重要だ。
「何をすればいいかわからない」という人は、次のTO DOリストを参考に。実質的な家事育児以外にも「話を聞く」「情報を収集する」など、パパができるケアはたくさんあるのだ。
育児TODO
□沐浴:沐浴やお風呂は、パパが担当する家庭も多い。赤ちゃんとのスキンシップのためにも◎。
□おむつ交換:おむつ漏れして汚れた衣類を、ぬるま湯で洗うところまでできるようになったら一人前。
□ミルク授乳:新生児期は、2~3時間おきの授乳が必要。パパがミルク授乳を1回でも代わってくれたらママはその分休養できる。
□着替え:気温に応じた服選びから行うこと。赤ちゃんは暑がりなので着させすぎに注意。
□抱っこ:泣いている時など、ずっとママが抱っこしていると腱鞘炎のリスクが。パパも代わってあげよう。
□寝かしつけ:寝かしつけはママの仕事との決めつけはNG。赤ちゃんがギャン泣きしてもめげないこと。
□離乳食づくり:シンプルで簡単な離乳食づくりなら、料理が苦手なパパでもできるはず。
家事TODO
□食材や生活用品、育児用品の買い出し:通勤前後の買い出しが難しければ、ネットをうまく利用したい。
□料理/洗濯/掃除などの家事分担:「お手伝い」感覚から抜け出すには、しっかり役割分担をするとスムーズ。
□上の子のお世話:兄弟がいる家庭では立派な育児サポートに。ママの負担は大きく軽減される。
□アルバムづくり:目の前のことで精一杯になりがちなママに代わって、記念として残したいアルバムづくりを。
その他TODO
□産後の不安や苦痛の除去(話を聞いて対応する)
□外出の付き添い
□祖父母との連絡調整
□保育サービスや保育施設のリサーチ
□育児グッズの情報収集
□緊急連絡リストの作成
□災害時のための防災用品の準備
□産褥期に必要な届け出などの対応
□学資保険の情報収集
□マッサージ
限界まで無理をしないこと
専門家にサポートを頼む
核家族化が進んだことで、産後すぐから夫婦ふたりで子育てを始める世帯が増加。夫婦だけで子育てを抱え込んだ結果、産後ママのみならずパパまで産後うつを発症する例も。十分な産後ケアを行うためには、専門家の力を借りるのも有効だ。
地域の子育て支援センターや母乳外来、助産院などのほか、注目が高まってきているのが、産後ケアに特化した「産後ケアリスト」や「産後ケアセンター」などのサービス。気兼ねなく相談してみよう。
産後ケアリスト
産後ケアの知識を持ち、多方向からママを支援する専門職のこと。一般社団法人日本産後ケア協会による「産後ケアリスト認定講座」を受講し、 認定試験に合格した専門家たちが、悩みの尽きない産後ママをサポートしてくれる。サポートやサービスの内容、利用料金は産後ケアリストにより異なる。
産後ケアセンター
出産後の育児支援を目的とし、母親と赤ちゃんが一緒に過ごせる宿泊型ケア施設のこと。看護師、助産師を中心に臨床心理士、産後ケアリストなどの専門職が24時間体制で産後ママのケアに当たってくれる。産後ママの休養と体力回復に向けてさまざまケアと癒しのプログラムも。
一般社団法人日本産後ケア協会
産後の女性の心とからだをサポートする産後ケアという概念の普及に尽力。専門職「産後ケアリスト」の育成、産後の母子をケアする「産後ケアセンター」の促進などに取り組むことで、少子化対策、地域の子育て支援、虐待防止への貢献を目指している。
一般社団法人日本産後ケア協会
〒102-0094 東京都千代田区紀尾井町4-1 新紀尾井町ビル3F
TEL:03-6272-3542
メールアドレス:jimukyoku@sango-care.jp
教えてくれた人
一般社団法人日本産後ケア協会代表理事
大久保ともみさん
子育てでは、区のサービス、民間ベビーシッター、実母、友人、保育園など、ありとあらゆる社会的資源を駆使しながら仕事との両立を経験。子育てサービスが溢れる社会を目指して、2013年3月5日(産後ケアの日)に協会を設立。
FQ JAPAN VOL.64に転載