時事・コラム

多様性って何? 親が正しく学ぶべき「マイノリティ教育」の本質

子を育てる立場として、差別や偏見の対象となるマイノリティをどう受け入れるべきか。それにはまず、大人がダイバーシティについて深く正しく理解しなければならない。首都大学東京教授・宮台真司の「マイノリティ教育」に関するコラム前編。

共同体的な感受性を
持たない

マイノリティ教育について考える場合、自閉症から見ていくのが分かりやすい。昔は幼児だけが自閉症になると考えられましたが、「精神障害の診断と統計マニュアル」(DSM)が整備されるに従って枠が拡がり、アスペルガーや注意欠如・多動症(ADHD)などを含めて「自閉症スペクトラム」(ASD)と呼ばれるようになりました。現行DSM-5では広汎性発達障害も含まれるようになって、自閉症スペクトラムに当たる人が全人口の1割いると判明しました。



かくして、疾患ではなく「神経学的(ニューロロジカル)マイノリティ」(NM)なのだと捉えられるようになり、それを含む全体を「神経学的ダイバーシティ」と捉えるようになります。最近の研究ではASDが人類が生き残る上で重要な機能を担っていた事実が分かってきました。説明します。

映画『レインマン』で有名ですが、ASDの人たちの中にはサヴァン症候群を伴う人がいます。見たものを一瞬で覚えたり、楽譜が読めないのに音だけでピアノを数日で引けるようになるなど、特異な能力を発揮します。また病跡学によれば、アメリカ歴代大統領の7割がDSM-5的にはASDと診断されます。人口1割のNMをそうしたイメージで捉えてほしいのです。

人類は1万年前までハンティングをしながら集団で遊動しました。数十万年間の遊動生活でハンティングの先頭に立ってきた人たちの能力がASDに関係するのではないかとされています。人がやめろと言っているのにやめずに進む能力や、言葉にならない何かを察知する能力。一口で言えば「共同体のルールに従わない」ということです。

それを含めてASDの全体的特徴を抽象化すれば「媒介を嫌う」こと。社会は社会システム(一貫した決まりのシステム)に媒介され、人は人格システム(一貫した性格のシステム)に媒介されますが、そうしたものに捉われないのです。約束を守らず、時間を守らず、仕事のとっかかりと手離れが悪く、皆とワイワイするのが苦手で、人の話を聞かないなど。実は僕はすべてに該当します(笑)。

隘路にはまりこむ
マジョリティ

そもそもダイバーシティ(多様性)は、自然淘汰を生き残る進化論的合理性ゆえに温存されてきました。人間を含む多くの生物は有性生殖します。動物ならオスとメスの生殖です。でも30億年に及ぶ生物史では比較的最近の話。かつては無性生殖つまり分裂でした。これは同じ遺伝子のコピーだから次第に劣化し、適応的な進化の速度も遅い。そこでダイバーシティをもたらすべく、メス配偶子とオス配偶子を遺伝子的にシャッフルするようになった。それが有性生殖です。

有性生殖で、無性生殖では失われるダイバーシティが保たれ、生存確率が上がりました。様々なバリエーションを生み出し、多様な環境に適応できたからです。有性生殖こそ最初のダイバーシティです。

現状を見ても、与えられた環境に全人間が適応する訳でなく、適応できない人もいます。でも環境は否応なく変わり、これまで環境に適応してきたトライブ(種族)が生きにくくなり、適応しづらかったマイノリティトライブが新しい環境ではメジャートライブになる。でもその結果、別のマイノリティトライブが新たに生まれる。そうやって人類が変化しながら続いてきた。だから、生物的・文化的なダイバーシティを疎み、NMを差別する者は、単に「反人類的な間抜け」なのです。

今や北欧では4人に1人が体外受精で生まれます。男性の精子数が少なくなりすぎたからです。周知のように全哺乳類で精子が減少しつつあります。こうした自然的事情や、テクノロジーの発達で、どのみち子供の生まれ方、ひいては有性生殖の在り方が、多様になるでしょう。

古くから帝王切開か自然分娩かという出口=出産のダイバーシティはありましたが、今後は入口=受精のダイバーシティが重要なポイントになります。出口と入口だけじゃない。本体つまり子宮で妊娠するという形もどのみち多様化します。それを踏まえて100年のスパンで考えれば、男と女の二値的性別が維持される可能性は少ない。トラディショナルな男と女に対し、ニュータイプの男と女や男女中間体が、社会的に認知されるでしょう。

LGBTはまだセクシュアリティ(性的欲求)のバリエーションにすぎませんが、それを超えて、まず生物有機体として性別カテゴリーのダイバーシティが拡がり、それが社会的に認知され、社会的にも非二値的カテゴリーが登場するでしょう。LGBTはダイバーシティの単なる入口です。

いま「バイオ(生物的)ダイバーシティ」と「ソーシャル(社会的)ダイバーシティ」を区別しましたが、制度と自明性(当たり前さ)の変更が必要なので、後者は遅れがち。だからこそ前者つまり「バイオダイバーシティ」が進化的合理性を有する事実を、1人ひとり認識することが大切です。

そうした認識が拡がればーーいずれは拡がるし、拡がらない国は滅びますがーー、同調圧力に負けない合理性への信念が生まれ、現存の社会に適応できる人間ほど優れているという発想に陥らずに済みます。どのみち社会は変化しますが、その方向性次第では、NMが生き延び、社会に適応しすぎた社会的多数派(マジョリティ)が隘路にはまるでしょう。

~続く~

DATA

宮台真司


1959年宮城県生まれ。社会学者。映画批評家。首都大学東京教授。公共政策プラットフォーム研究評議員。東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了(社会学博士)。『日本の難点』(幻冬舎)、『14歳からの社会学』(世界文化社)など著作多数。


FQ JAPAN VOL.48より転載

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