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子供に「死」を教えるにはどうしたらいいの? 宮台真司が教える死生観とは

「死ぬのが怖い」という人は多いだろうが、「死」を恐れる必要はない。そう思えるには、子供に「生は死を前提にしている」「宇宙はいつか無くなる」ことを教えるのが大切だと、社会学者の宮台真司氏は指南する。

「人間が存在できる期間は
とても短い」ことを知る

大人になるほど「死ぬのが怖い。何とか生きたい」という人はたくさんいます。無駄に「死」に恐怖を抱かないようにするためにも、子供に対して「死」をどう教育すべきかが大事です。結論からいえば、個人の問題として「死」を捉えることをやめてもらうということに尽きます。

子供が小学生になるころに僕が教えるのは、宇宙には終わりがあることです。地球はもっと早く終わります。あと10億年以内に単細胞を含めて生物が一切いなくなります。簡単にいえば、海の水がマントルに引き込まれてほぼ無くなり、プレート移動が止まり、マントル対流が止まり、地磁気が失われ、自転が止まって、灼熱地獄になるからです。

こうして地球の生物がいずれ死に絶えることを教えます。多細胞生物の元になる「カンブリア爆発」は5億年前に起こったので、既に道のりの三分の一を経ました。宇宙の生物も死に絶えます。太陽のように生物を育める寿命100億年の中型恒星は、太陽が生まれた46億年前に比べて今は10分の1しか生まれず、今後ますます生まれなくなります。

宇宙そのものも意外に早く終わります。一定の速度で膨張していた宇宙が60億年前から突然加速膨張を始めたため、220億年後には原子や量子までバラバラになるというビッグリップ理論が有力になりました。ビッグバンで宇宙が始まったのが138億年前なので、これも道のりの三分の一を経ました。

地球は終わり、宇宙も終わります。人間が存在できる期間は、宇宙の寿命からみれば一瞬です。個人の死より怖いと言えば怖い。でも子供には、どうせ終わるものがなぜ存在するのかと問います。すると子供には奇蹟の感覚が湧いてきます。こうして、個人の問題への閉ざされから、外に開かれて抽象度が上がり、死の捉え方が変わります。

生の捉え方も変わります。昨年の中高生の自殺者数は史上最大でした。だから大切です。すべての生は死を前提に存在します。僕と妻が出会って子供3人が生まれたのは、出会う前に他の場所で人々が死んだからです。さもなければ僕は別の女性と出会っていたでしょう。僕が早く死ねば、若い妻は別の男性と出会って家族を作るでしょう。

大古の昔から生物の世界では死を前提とした生の流れが続いています。似た話ですが、人類という種が今あるのは6回の生物大絶滅の御蔭です。絶滅後の生態学的ニッチ(すきま)に進化の大爆発が起きて、新たな種が多数に生まれることの繰り返しでした。こうした事実を早い時期に子供に伝えるのが大切です。小学校低学年であれば理解できます。

宗教は「死」の悲しみに耐える
処方箋にはならない

生と死の意味を子供に分かりやすく伝えるには、映画やアニメをベースにするのもいいでしょう。最近ならば劇場版『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』でしょうか。ある人がいろんな理由で世間から姿を消して何年も経つ。するとその人を愛していた家族や恋人がいても、やがてその人の不在を前提にして人生を生きるようになります。しかし、ひょんなことからその人が生きていることがわかった場合、どうするべきか。

お互いの不在を前提としてすでにお互いの世界が作られているなら、それを尊重して会わない方が良いという倫理観があり得ます。人がいなくなれば悲しい。でもやがて人は不在を前提にした人生を積み上げ、それが一つの自分の世界になるのが当たり前です。

この作品はそうしたことを考えさせます。これは人が死んだ悲しみをどう耐えるかという重要な問題につながります。人を失うのは悲しいことなので「死んだ人はどこに行くのか」というところから天国や地獄という宗教的観念が生まれました。それはそれで大切ですが、今の社会ではリスクがある考え方であることを知っておくべきです。

現代人はそうした宗教的観念を共通の前提として生きていません。個人が宗教に頼るのは自由ですが、宗教を死の悲しみを解決する処方箋として子供に渡すのは納得できません。なぜなら子供が大人になって「神様なんていない」という考え方に変わった場合、責任がとれないからです。

僕は無神論者ではなくクリスチャンで、宗教的観念を生きています。でも、自分の価値観を押し付けません。子供には地球や宇宙についての事実を話します。人類の存在が――まして個人の存在が――偶発的な小さいエピソードであることを知らせ、だからこそ抱くことができる奇蹟の感覚を体験してもらいます。つまり体験デザイナーの役目をします。

ネットには、地球の誕生と終焉、宇宙の誕生と終焉についての多数の動画があります。これらを子供と一緒に見ながら、質問に答えます。それを2~3ヶ月くらい続ければ、子供は腑に落ちます。地球は丸いという事実に適応するのと同じく、地球や宇宙の死という事実に適応します。こうして個体の死を、地球や宇宙の中で考える癖ができます。

すると、地球環境の持続可能性についても、死との関わりで考えられるようになります。地球に住める人口が限られているので、誰かが死ななければ新しく生まれてこられません。新しく生まれてこられない人類なんて地獄です。だから不老長寿を望むことは倫理的に馬鹿げています。それは子供でも理解できます。

長寿化と人口爆発が表裏一体であるのを理解するのも大切です。人口が過大になれば人々が食糧不足などで苦しみます。全ては流れで、新しい生命が生まれてくるのは死ぬ生命があるからです。そうした置き換えがなければ進化もありません。これは個体のレベルでも種のレベルでも同じです。

劇場版『鬼滅の刃』が好評です。人はいつか死ぬからこそはかなく美しい存在だと思えることが、子供たちに伝わったからでしょう。地球も宇宙も死滅することが分かっています。それが当たり前なのだと捉えるところから、「自分はやがて死ぬが、それがどうした」という構えが得られます。死に右往左往する人間は、例外なく自己中心的なヘタレです。

PROFILE

宮台真司(SHINJI MIYADAI)


1959年宮城県生まれ。社会学者。映画批評家。首都大学東京教授。公共政策プラットフォーム研究評議員。東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了(社会学博士)。『日本の難点』(幻冬舎)、『14歳からの社会学』(世界文化社)など著作多数。


FQ JAPAN VOL.58(2021年春号)より転載

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