つまらない大人にならないために『キャンプ体験』が必要な理由
2021/10/08
新型コロナの影響で流行しているキャンプ。子供にとってキャンプの体験はどのようなメリットをもたらすのだろうか。首都大学東京の宮台真司教授にお話を伺った。
焚き火に料理、
キャンプ体験で子供が豊かに
新型コロナの影響でキャンプが流行しています。僕も学生たちと合宿キャンプをします。外で仲間と美味しいご飯を食べられるし、川でも遊べ、周囲も探検できる。アトラクションの費用がかからず、コストパフォーマンスが高い。キャンプほど圧縮された遊びはありません。
夜のキャンプファイヤーもお勧めです。先日YMCAキャンプに講師として参加しました。小豆島近くの余島という無人島の私有地で、火を使うアトラクションができます。200万年前から火を使ってきた人類は、火を囲むとフレンドリーになり、やがてフュージョンします。それが遺伝子的に方向づけられています。
その意味で火の体験は重要です。なのに、今はIHキッチンの浸透などで火を見る機会が減りました。家にマッチもなく、停電でロウソクを焚くこともありません。近所が疎遠になったので共通感覚がなくなり、焚き火をすれば通報されます。火をめぐる環境が悪化しました。
僕が東大助手だった90年頃まで、代々木公園の花見では、どの宴会グループも焚き火をしました。火が好きな僕が仕切る教員グループはオイルを使いましたが、巡回中の警官が近づいてきても「火が大きすぎないか」と注意するだけ。「消せ」とは言いませんでした。
そんな時代に思春期を過ごした人は幸せです。今の子供は遺伝子的な「火のパワー」を学ぶ機会がありません。ヒトの遺伝子的能力は学習によってだけ開花するのに、残念です。
木を上手に組めば夜通し焚き火ができます。学生たちが集まり、寝袋を持ってきて「ここで寝てもいいですか?」と聞いてきます。「夜通し見張っているから大丈夫」と言えば集まって寝ます。火の体験は貴重な共通体験を与えます。日本人は共通前提がないと本音で話せませんが、火の共通体験は強力なアイスブレイキング機能を果たします。
今の子供たちにとって料理はお手伝いの範囲で、食事がルーティン(繰り返し)になりました。キャンプで一緒に料理し、火や食について、先史に遡り、地球全体に想像力を拡げて語り合う。それが子供たちを「社会への閉ざされ」の外に解放します。
アトラクションの1つに虫取りを入れてもいい。初めは嫌がっていた子供たちも、やがてバンバン虫を取り始めます。環境からの呼びかけ(アフォーダンス)に体が自動で反応するようになります。これも「閉ざされ」からの解放で、後の性愛能力を高めてくれます。
森のガイドさんにキャンプ場周辺の植物について聞くのもいい。虫取りが上手な大人でも植物のことは知りません。例えば春の若い芽は全て同じに見えますが、ガイドさんは一瞬で「この芽はあの植物だから食べられる」と教えてくれます。すると、のっぺらぼうな森が多彩な色を帯びて現れます。
社会は平板ですが、世界は色に溢れます。
こうした体験ができないと子供はどうなるか。想像力がない、コミュニケーションも平板、遊びもシステムに依存しないとできない、恋愛も下手、というつまらない大人になります。現になっています。キャンプは大人たちの工夫次第で何でも体験させられる場所だと意識しましょう。
PROFILE
宮台真司(SHINJI MIYADAI)
1959年宮城県生まれ。社会学者。映画批評家。首都大学東京教授。公共政策プラットフォーム研究評議員。東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了(社会学博士)。『日本の難点』(幻冬舎)、『14歳からの社会学』(世界文化社)など著作多数。
FQ JAPAN VOL.59(2021年夏号)より転載