考える育児。損得で動く人は、いざとなれば人を裏切る
2018/05/10
父親は永遠にサポーターで終わるのか? 社会学的視点で子育てについて語る、宮台真司の「オトナ社会学」。連載第1回は「家出」ができる子に育てよう。法と言葉の奴隷とは何か。『ウンコのおじさん』の著者であり、首都大学東京の宮台真司教授に話を聞いた。【Part4】
【Part1】イクメンはやっぱりファッションだった!? 3児のパパが語る
【Part2】自分以上の子供を育てるには? 法の奴隷、言葉の奴隷からの脱却
【Part3】考える育児。大規模定住化が生んだ差別と尊敬の原因
クズ化を止めるのは無理
損得で動く構造的な問題
これからグローバル化が進めば格差化、貧困化が進み、仲間は寸断され、仲間から調達していた便益はAIなどから獲得するようになります。仲間はますます空洞化していくので、さらに法の奴隷が増えます。これは数十年から百年単位であらがえない動きです。あらがえない人がクズになります。
そのため、社会という荒野で生きる中でいかに仲間集団を作り、いかにクズ化しないかにならないか。昔、私はこれに世直しという言葉を使っていましたが、マクロにはそれはまったく無理だと分かりました。とすると、恋愛を手掛かりにして扉をこじ開けて、仲間への自己犠牲的な構えを取り戻せるかと思いましたが、それもダメでした。
正確に言えば、男性はもうダメです。女性は子育てをする、あるいはすることを期待されています。子育ては交換より贈与、バランスより過剰です。性別的な違いの中にそれが刷り込まれ、免疫化されています。高校生の女子に、正しいことに敏感な男と損得に敏感な男、どちらを彼氏にしたいか質問したところ、100%が前者を選びます。損得で動く人は、いざとなれば人を裏切るのを知っているからです。
社会全体の劣化で、性愛的な劣化だけを直すことはできません。すべては共通しており、同性の損得を越えられない人が、恋愛なんかできるはずありません。カップルがよく受験勉強で忙しいから別れるという話を聞きますが、こんなのはクズ同士の会話です。たしかに両立可能性という問題は常につきまといますが、仕事が忙しいからといって家族へのコミットメントを止めるという選択肢はありえません。
しかし、現に損得がなければ、仲間も恋人もできないという構造的な問題が眼前に横たわっていいます。そんな損得で動くクズを少しでも改心させるのは、やはり今のところは“近所のへんなおじさん”=ウンコのおじさんが現代社会には必要なのです。
PROFILE
宮台真司
1959年宮城県生まれ。社会学者。映画批評家。首都大学東京教授。公共政策プラットフォーム研究評議員。東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了(社会学博士)。『日本の難点』(幻冬舎)、『14歳からの社会学』(世界文化社)など著作多数。
Text » KOUSUKE OONEDA
FQ JAPAN DIGEST VOL.44(2018年春号)より転載