【ランパード】チェルシーFCの大黒柱を徹底取材
2013/08/29
父子で立ち向かう逆境
そこで深まる2人の絆
土曜日の朝ともなれば、学校のぬかるんだピッチを無垢な子供たちが駆け回る。我が子がいつしかプロのサッカー選手になることを夢見て、息子たちを応援しにたくさんの親がグラウンドに足を運ぶ。
だが、ランパード親子はそんな彼らとは少し事情が異なった。なぜならランパードのキャリアは、父親がアシスタントマネージャーを務めるウェストハムのユースでスタートしたからだ。ホームグラウンドで昼夜、息子と一緒にいて、我が子のプレーについて、他の子供と同様に客観的な判断を下さねばならなかったのだ。
「息子が私と同じクラブに所属していることから問題が起きたんだ。『私がいるから息子はウェストハムにいられるんだ』なんて言う輩がたくさんいた。『身びいきだ』ってね。ありとあらゆる中傷をされたし、我慢ならないような野次を飛ばされることもあったよ。正直傷ついたけど、ウェストハムに22年間いたから、サッカー選手ならこの手のことは避けられないと覚悟していたよ」。
親子で同じチームにいることに悪口を言う人間もいたが、『無視しろ』とだけ言ったことをシニアは今でも克明に覚えている。
「イングランドの歴代随一のキャプテンだったボビー・ムーアと一緒にプレーしていたときの話をしたんだ。観客は、時折、卑劣な野次をボビーに飛ばしていた。私は息子に『ボビーはウェストハムで最も愛された偉大なヒーローだった。しかし、それでもミスをすれば野次られたんだ。だから気にすることはない。うまく受け流すんだ!』ってね。こればかりは私の言葉を信じてくれるのを祈るばかりだった」。
しかし、シニアの心配はよそに、ランパードは逆境を乗り越えた。そうした境遇が彼の精神力を強くし、周りを黙らせようと、さらにいいプレーを導いた。
「こうして今、息子が難局を乗り越えて、他のヤツが間違っていると証明したと思うと、とても誇らしかった。私の記憶が確かなら、息子がウェストハムを去るまでに、ミッドフィルダーというポジションながらチームの誰よりも多くのゴールを奪ったと思う。これでもう息子を悪く言うヤツは誰もいなかった。息子は厳しい練習と絶えることのない向上心で今の地位を築いたんだ。だから息子がチェルシーでいい成績をおさめているのも当然だと思う」。
ウェストハムから移籍したチェルシーでは、サポーターはランパードにとても好意的で、試合ではいつも応援歌を歌っている。
「それについては私からも感謝したい。ウェストハムでは一度もなかったことで、息子は、今でもあの苦境を糧にプレーしているんだ。ファンの声援は息子に自信やパワーを与え、息子はそれを最大限に自身のプレーに活していると思うな」。