時事・コラム

経済的「勝ち組」を待ち受ける2つの落とし穴とは?

日本総合研究所主席研究員の藻谷浩介さんにお話を聞く連載「里山資本主義的子育てのすすめ」。今回は日本社会に蔓延する「自由競争原理」「自己責任論」の弊害についてお話をしていただいた。(後編)

前編はこちら

社会的評価の高い”勝ち組”を選ぶか
生物学的”勝ち組”を選ぶか

「地方の教育環境は良くない。子供は東京で育てなければ、勝ち組に入れない」と考える人がいる。彼らは、マネー資本主義を当然の前提に、子供を「他人よりも稼げる人間」に育てることを目標に置いているのだろう。だが、その発想には大きな落とし穴が2つある。お金だけを尺度にすると、人間らしい生活をかえって損ねる可能性があるのだ。

落とし穴の第一は、「マネー資本主義の勝ち組は、生き物としては負け組になるリスクが高い」ということだ。子孫(=自分のDNA)を残そうと必死になるというのは、あらゆる生物種に共通する行動である。子孫を残せないのは、酷な言い方だが、「生き物としての負け組」になるということだ。それを避けたければ、出生率の非常に低い東京で暮らすことはやめた方がいい。「子孫は残さなくてもいい。自分の人生を逃げ切れるだけのお金を稼げればいい」という考え方もあるのかもしれないが、それは生き物としてはたいへん不自然だ。

不自然なものは、自然淘汰される側になる。「お金や世間の評価を得るのが勝ち組だ」と考え、「勝ち組に入りたいから深夜まで会社にいる」「妻が子育てをすればいいから家に帰らない」というような考えの人は、相対的に子供を残せない可能性が高い。そうした傾向のDNAは、やがて自然に淘汰されていくわけだ。そして、「子供が大事だ」「男も子育をしよう」という人の子孫ばかりが残る。マネー資本主義に親和性の高い性格の遺伝子は、生物学的な淘汰の中で消えていく運命なのだ。

そして落とし穴の第二は、「マネー資本主義の勝ち組は、老後は不幸せになるリスクが高い」ということである。「いい学校」を出て「いい会社」に入っても、50歳を過ぎれば肩たたきに合うのが日本である。幸運にも役員にまで残っても、60歳が普通の限界だ。社長でも65歳になればお払い箱であり、それ以降20〜30年は、貯めこんだお金を小出しにする消耗戦の中で、「いつまで生きるのか」という不安にさらされ続けることになる。

それに対して、家庭生活や他人とのつながりを重視するように育ち、対等に周囲と協働できる力を身に付けた人間は、会社を辞めても地域社会に居場所がある。人間関係の中で助け合いを紡ぎながら生きていく能力が高く、何歳になっても用済みにならない。そういう人間に育つような教育を「里山資本主義的子育て」と呼ぶことにしよう。

お受験で他人を蹴落とす能力を鍛えるほど、そこから遠ざかってしまう。人生のごく一部に過ぎない現役バリバリの時期だけに着目し、人間生活の一部を支えるに過ぎないお金だけに着目することが、近視眼的な教育を子供に受けさせることになり、その人生を後々までゆがめかねないのである。ぜひ気を付けなくてはならない。

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