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子供に本当に必要な”幼児教育”とは何か? 学歴エリートの弱点は?

「早くから良い教育を受けさせないと、子の人生は台無しになってしまう」というのは、お受験教育産業が商売のために考えた脅し文句だ。では、本当に重要な幼児教育とは何か。『里山資本主義』の著者、藻谷浩介氏のコラム。

子供にとって必要な
“幼児教育”とは何か?

忘れてはいけないが、子供が実際に社会に出て自分で稼ぐのは、幼児だった頃から少なくとも十数年後になる。人より早く、幼児の頃から小学生のような、ましてや大人のような振る舞いをする必要はみじんもない。「昔は神童、今は凡人」というのはよくあることだが、そうなってしまった理由は、「人より何年か先んずることが大事」と親が勘違いしてまったことだ。そういう親は、マラソンの最初の1キロにダッシュするよう選手に命じ、その瞬間だけ「うちが一位だ」と叫ぶ、ヘボなコーチのようなものである。

子供に、人としてやってはいけないことを教えるのは大事だ。しかし、やれないことをやらせようとしてもいずれ無理が来る。どんな英才教育を押し付けようと、生まれつきのDNAは微塵も変わらないので、性格も能力も容姿も、どうにも変わるものではない。「早くから良い教育を受けさせないと、子の人生は台無しになってしまう」というのは、お受験教育産業が商売のために考えた脅し文句だ。普通に育って普通にやっていれば食べられるのがこの世の中であり、だからこそ日本の平均寿命は世界一なのである。逆に無用なプレッシャーの下にいい子ちゃんを演じ続けるほど、まだ若いうちにうつ病になったり自殺を図ったりする危険性は高くなる。

あえて無認可で
自然保育を

筆者の旧知のある幼児教育実践者は、ある街で自然保育の無認可保育園を運営している。無認可なのは、認可を受けると彼の実践したい保育内容に制約を受けてしまうからだ。2歳児には、1年間ひたすら砂浜で遊び続けさせる。園舎もない浜辺で、日差しの照り付ける下にずっといるのは、保育士さんにとっては本当にたいへんだろうが、子供は飽きもせずに波や砂や生き物と戯れ続ける。3歳以上になると丘の上の園舎に移って、周囲の里山や畑で遊ばせる。子供たちは自分たちで育てている人参を掘り出して、さっと洗ってそのままむしゃむしゃかじるようになる。皆がそうしているので、自然に真似するのだ。人参嫌いの子供は自然にいなくなる。だがこの園では、字を習うなどの勉強はしない。

この園のモットーは「安全第二」。子供の見守りには万全は尽くすがそれでも、自然の中でとげが刺さったり、虫に刺されたり、転んだりして怪我はするかもしれない。しかしそういう経験こそ、むしろ幼児のうちにしておくべきものだと、園長は考えている。これに賛同してくれる親の子供でないと、園は受け入れない。


セルフリスペクトのある
人間を育てる

なぜこの園はこういう、ひたすら自然と触れ合わせるだけの”幼児教育”をしているのか。「セルフリスペクトのある人間を育てるためです」と園長は断言する。彼自身は関西で人もうらやむエリート中高一貫校を卒業し、東京の超一流大学を出て、毎年20人ほどしか採用しない超好待遇の会社に入社した。しかしそこで10年間ほど働くうちに、自分を含めた学歴エリートの弱点に気付いたという。「学歴のいい人ほど、実はセルフリスペクトが欠けているのです」。

お受験エリートの持つ学歴は、まだ物心もつかないうちから親の言うとおりに“いい子ちゃん”を続けてきた結果として得られたものだ。自分で考えて得たものではないうえに、何か本当に生きていくのに必要な実力を示しているわけでもない。だからこそ彼らは、社会での地位だの、年収だの、車だの、高層マンションの部屋だの、どんどん新たなシンボルを欲しがるようになる。「本当の意味での自信、自分としての矜持がないから、外面をよくすることばかりに注力し、自分より外面のいい人にはコンプレックスを持ち、自分より外面の悪い人には上から目線となり、どんどん中身のない人間になって行ってしまいます」。

そこで彼はそういう自分に決別すべく、子供が生まれたのを契機に会社を辞め、自然保育を自ら始めた。「自然の中で、誰に指図されるのでもなく自分で考え、仲間と遊ぶことで、動物や虫とは違う、他人とも違う、でも周囲の中に自然に溶け込んで生きていける自分自身というものが、自ずと形成されていく。誰でもそうなれるということを、私はずっと目撃してきました」。

読者の皆さんはどう思われるだろうか。これが人間本来の幼児期の過ごし方、里山資本主義的幼児教育だと、筆者は思う。いやそこまでする園が近くになくとも、変に小学校の真似をした学習の時間など作らず、ひたすら好きに遊ばせる保育園、幼稚園は普通にある。そういうところに普通に通わせるところから、子供の“教育”を始めてはいかがだろうか。

PROFILE

藻谷 浩介 MOTANI KOUSUKE

株式会社日本総合研究所主席研究員。「平成の合併」前の3232市町村全て、海外90カ国を私費で訪問した経験を持つ。地域エコノミストとして地域の特性を多面的に把握し、地域振興について全国で講演や面談を実施。自治体や企業にアドバイス、コンサルティングを行っている。主な著書に、『観光立国の正体』(新潮新書)、『日本の大問題』(中央公論社)『里山資本主義』(KADOKAWA)など著書多数。お子さんが小さな頃は、「死ぬほど遊んだ」という良き父でもある。


FQ JAPAN VOL.49より転載



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