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【フィンランドに学ぶ子育てと男性育休】父親と母親が160日ずつ育休を取得できる?!

フィンランドは“子育ての先進国”として知られており、同国における男性育休の取得率は約80%と、注目すべき数字となっている。こうした高い水準を支えているのは、男性も子育てしやすい社会風土や制度。フィンランドに関する著書を持つ堀内都喜子さんに、詳しく解説していただいた。

<目次>
1. 「自由で自立した暮らしが主流 柔軟性のある働き方も特徴」
2. 「家庭でも職場でも男女平等 フルタイムで働く女性が大半に」
3. 「高水準の男性育休取得率を支える 社会における雰囲気と制度」

 

自由で自立した暮らしが主流
柔軟性のある働き方も特徴

フィンランドは北ヨーロッパに位置し、日本から当地を訪れる場合、飛行機で10時間ほどかかる。日本人にとって決して身近な国とはいえず、その社会風土はあまり知られていない。フィンランドに詳しい堀内都喜子さんに、まずは当地における家族観や結婚観についてお話しいただいた。

「フィンランドの若い世代の中には、法律婚ではなく事実婚を選択する人が数多くいます。そのためフィンランドで生まれる子どものおよそ半分が、事実婚のカップルから誕生しています。祖父母、夫婦、子どもがともに暮らす『三世代同居』は、ほとんど見受けられないのも特徴の1つです」。フィンランドでは、従来の形態にとらわれない、自由で自立した暮らしが受け入れられているのだ。また、家族や結婚の形だけでなく、働き方にも特徴がある。多くの会社がフレックスタイム制や在宅勤務制を導入しており、16時を過ぎると、ほとんどの人が仕事を終えて帰宅するという。

家庭でも職場でも男女平等
フルタイムで働く女性が大半に

「フィンランドでは、ジェンダー平等が進んでおり、女性のほとんどがフルタイムで働いています。また、家庭内でも男女平等の意識が根づいており、子育てや家事は、父親と母親が協力し合ってするものだと考えられています。これを象徴するものの1つが、子どもが急病になった時の対応の仕方です。日本では、子どもが急に熱を出したら母親が看護休暇を取る場合が多いですが、フィンランドでは父親と母親が半々くらいの割合で看護休暇を取っています」と、堀内さん。

職場でも家庭でも、男女は平等。こうした考えが築かれるまでには、複数の経緯と要因があるという。「第二次世界大戦後、労働者不足により女性の労働力が必要になったことや、女性の教育レベルが高くなったことなどを背景に、女性の社会進出が進みました。また、1976年に扶養控除や配偶者控除が撤廃され、夫婦であってもそれぞれが所得税を納めるのが義務に。こうして、さらに女性の社会進出が進みましたが、これと並行して男性を対象とした、育児への参加を促す啓蒙活動が行われました」。

フィンランドの男性が積極的に育児に参加し、育休を取得している理由は、まだ他にも。次ページにて、具体的な理由を3つご紹介する。

高水準の男性育休取得率を支える
社会における雰囲気と制度

1 “トップ”が進んで育休を取得している
フィンランドで男性が育休を取れるようになったのは、1970年代のこと。しかし、当時は育休を取る男性は少数派で、そうした状況は長らく続いたという。大きな転機が生じたのは、1990年代後半。当時、フィンランドで首相を務めていたリッポネン氏が育休を取得したのだ。「この出来事は、ニュースなどで広く取り上げられたそう。また、『首相が育休を取れるなら、世間のパパたちだって育休を取れるはず』といった考えを人々にもたらしたといえます」と、堀内さん。

近年では、フィンランドのアンティ・カイッコネン国防相が2ヶ月間の育休を取得し、世界中で話題に。「フィンランドの国や企業の“トップ”は、育休の取得に対して積極的。彼らの姿勢が、フィンランドにおける男性育休取得率の向上に貢献したのは、間違いないでしょう」。

2 パパも主体的に子育てできる制度がある
フィンランドのパパ・ママと密接に関わっているのが、「ネウボラ(neuvola)」という機関。ママが妊娠している間は少なくとも8〜9回、出産から子どもが小学校に入学するまでの間は少なくとも15回、保健師や助産師といった専門家からアドバイスを受けられる機関だ。

堀内さんは、ネウボラについて次のように説明する。「2000年頃から、父親もできる限りネウボラに参加するよう呼びかけられており、今では父親と母親が一緒にネウボラを訪れるのが一般的となっています。ネウボラでは母親だけでなく父親に対しても、健康状態や仕事の状況をチェックする質問が投げかけられます。また、育児にまつわる具体的なアドバイスも夫婦一緒に受けられるので、父親も知識を得やすいというメリットも。ネウボラは、父親がスムーズに子育てに関わる上で大きく役立っています」。

3 対等に育休を取得できる制度がある
「2022年にフィンランドで、育休に関する新たな制度が施行されました。子どもが2歳になるまでの間、両親は320日間の育休を取得できるというのが、新制度のおおよその概要。父親と母親は、基本的には160日間ずつの育休を取得できます。ちなみに父親が育休を取得している間は、父親がワンオペで育児をするシーンも多々あります」と、堀内さん。

新制度が施行された目的として、男性育休の取得率のさらなる向上があるという。「父親にも、母親と同等に子どもと過ごす権利を認めるべき。父親に、より長く育休を取得して子育てに関わってほしい、といった考えが、本制度の根底にあります」。

教えてくれた人

堀内 都喜子さん


大学卒業後、日本語教師などを経てフィンランドのユヴァスキュラ大学大学院に留学し、修士号を取得。帰国後はフィンランド系機械メーカーに勤務し、同時にライター、通訳としても活動。著書に『フィンランド 幸せのメソッド』(集英社新書)、『フィンランド人はなぜ午後4時に仕事が終わるのか』(ポプラ新書)などがある。


文:緒方佳子

FQ JAPAN VOL.71(2024年夏号)より転載

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