仕事と家事・育児だけじゃない! いまのパパに求められる「しなやかな父性」とは?
2021/07/23
時代とともに父親の役割も変わる。これからの父親に求められるものとは? NPO法人ファザーリング・ジャパン代表の安藤哲也さんが語る。
父親の役割は
時代と共に変わる
「イクメン」という言葉が流行語大賞に選ばれたのは2010年のこと。東日本大震災が発生したのは、その翌年でした。私は地震発生翌月に現地に行き、支援活動に携わりました。
避難所で忙しく働いているママたちの傍らで、多くのパパたちは茫然と立ち尽くしていました。家が、クルマが、職場が、町全体が流されてしまった喪失感が、そうさせたのでしょう。彼らにとって、仕事で営々と築き上げてきたものがいかに大切なのかを思い知らされ、かける言葉がありませんでした。
あれから10年、イクメンもすっかり一般化しました。私たちファザーリング・ジャパンは、積極的に育児・家事に参加してそれを楽しむ父親を増やそうと活動を続けてきました。
育児・家事の負担がママに偏ってしまうと、多くのデメリットが生じます。共働きの継続が困難になれば世帯収入が減りますし、良好な夫婦関係を築くことも難しくなります。
そんな家庭環境が子供にポジティブな影響を与えられるとは思えません。「男性は仕事、女性は家庭」という役割分担は、すでに破綻しているのです。
一方で、時代を遡ってみると、父親と母親の役割は固定化されたものではなく、時と共に変化してきたことが分かります。
例えば、江戸時代。「昔の男性は飯・風呂・寝る」というのが一般的なイメージですが、実は江戸時代にはイクメンが多かったそうです。男性が縁側で子供と遊んでいて、その脇で妻が内職をしている、なんていうのは普通の光景だったわけです。
ママだけが育児・家事を担うようになったのは、つい最近のこと。高度経済成長期以降に専業主婦が増えたのは、単に男性一人の給料で生活が成り立っていたからに過ぎないのです。
そしてコロナ禍にある今、父親と母親の役割が再び注目されています。イクメンが今、新たなフェーズを迎えているのです。
これまでは「産休・育休を取得する」、「育児・家事に積極的に参加する」といった、特定の行動をとるかどうか、あるいは役割論として語られてきましたが、さらに一歩踏み出して、ポスト・イクメンのフェーズに入ろうとしているのです。
これからの父親に求められる
しなやかな父性
そこで期待したいのが「しなやかな父性」を持ったパパです。父性という言葉に違和感を覚える人もいるかもしれませんが、父と母=男と女は生物学上別であるというのも事実。
多様な家庭のあり方が認められるのは大前提ですが、これからの時代に「こんなパパが増えたら良いな!」というひとつの形として、「しなやかな父性を持ったパパ」を理想として提案したいのです。
「しなやかな父親」は、家父長的で厳格な父親の対極にあります。厳格の反対だから「しなやか」。また「変わることができる」という意味も込めています。社会情勢や価値観の変化に「しなやか」に対応できるパパが理想です。
では「しなやかな父性」は、どうすれば手に入るのでしょうか? これだと思う専門分野を徹底的に勉強したり、趣味を楽しんだりしても良いでしょう。会社以外の仲間と交流することで、無形資産を増やしていきましょう。こんな時代だからこそ、地域社会に出て行くのも良いでしょう。
そこできっと、色々な家庭があることに気付くはずです。高齢者を介護している家庭もあれば、シングルファザーやシングルマザーの家庭もあるはずです。
こうした人たちを孤立させないよう、地域社会が応援する。その一助になろうと奮闘するパパの背中を見ながら育てば、子供はきっと視野の広い心優しい大人に成長するに違いありません。
理想の父親像などというものは、幻かも知れません。正解は家庭の数だけあって良い。それでも、先の見えない時代にある今、求められているのは「しなやかな父性」を持ったパパではないでしょうか?
「しなやかな父性」を持ったパパは、職場におけるイクボスのような存在です。優しいだけでなく、時に愛情を持って叱咤激励し、受動的だった部下を自立的なスタッフに育てる上司、それがイクボスです。新しい時代のパパも、子供に「主体的に生きること」を教え、自立を促す役割を果たして欲しいですね。
PROFILE
安藤哲也(TETSUYA ANDO)
1962年生まれ。2男1女の父親。2006年、NPO法人ファザーリング・ジャパン(FJ)を立ち上げ代表を務める。NPO法人タイガーマスク基金代表。厚生労働省「イクメンプロジェクト」推進チーム顧問、内閣府・男女共同参画推進連携会議委員などその活動は多岐に渡る。新著は『「仕事も家庭も」世代の新・人生戦略「パパは大変」が「面白い!」に変わる本』(扶桑社)
文:川島礼二郎
FQ JAPAN VOL.58(2021年春号)より転載