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“クズ”になると幸せな人生はない! 「社会の外」に開かれた能力が失われている

20世紀の初頭から、言葉の自動機械/法の奴隷/損得マシーンになり「社会の内」に閉じ込めらる人間が増えてきた。そういう意味で“クズ”になれば、市場や民主政がデタラメになってしまう。それでは、幸せな人生を送ることはできないだろう。社会学者、宮台真司氏のコラム。

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クズになれば幸せな人生はない
シュタイナー教育の目的とは

これを社会学者ルーマンは「昔、社会は人間界を意味せず、世界が社会だった」「社会が人間界へと閉じられ、世界は社会と無関係になった」とします。文明化(大規模定住化)が始まる三千年前より昔には、そんな作法はありませんでした。

人間が、歌と区別される言葉を喋るようになって四万年。定住するようになって所有を守るために法を作るようになって一万年足らず。文明化によって次第に「社会の外」に閉じられるようになって三千年。でも日本人は文明以前の作法を保存していました。

こうした文明の病理に抗って、「社会の外」に開かれた感受性を育てるのが、デンマークで就学前の子供が森の中で自由に暮らして近代生活で失われがちな能力を育む「森の幼稚園」の目的で、読み書き算盤よりも臨界年齢(取り返しが付かない年齢)が早い感情能力を育むドイツの「シュタイナー教育」の目的です。20世紀の初頭から、「社会の外」に開かれた能力を人間が失っているとの自覚が教育界隈で進んだのです。

そうした能力があれば「社会の内」に閉じ込められることはなく、言葉の自動機械/法の奴隷/損得マシーンにならずに済みます。

言葉の自動機械/法の奴隷/損得マシーンという意味で人がクズになれば、市場も民主政も誤った帰結をもたらします。そうなっています。

これは市場や民主政の故障ではない。人がクズであれば市場や民主政がデタラメな出力をするのが当然だからです。加えて、人がクズになれば、幸せな人生もありません

なぜか。理由を人類史的に再確認します。人間は言葉以前には歌を唱っていました。悲しい歌を聴けば悲しく、楽しい歌を聴けば楽しくなります。

でもゲノム変異を背景に歌から言葉が分離します。言葉には、歌にある「mimesis(感染)」がありません。それでも文明以前には言葉は歌のように用いられた。言語学者ヤコブソンによれば「prosy(散文)言語」より韻や喩を用いる「poetic(詩的)言語」が優位でした。


「ケガレ」「ハレ」の社会が
1980年代から急速に崩れた

一万年前からの定住化で、定住を支える収穫物のストックを守るために法が生まれ、集団規模が大きくなります。

定住以前(遊動段階)に法はなく、他の猿類と同じく仲間意識と生存戦略を継承するだけで足りました。集団規模は150人を超えません。

法を守って大人数で集住するのは、かつてと違いすぎて不自然。定住を保つという目的で仕方なく法を作ったのに、目的を忘れて「正しさのために法を破る」こともできなくなる。だから祭りをして、言外のシンクロ/法外のシンクロを通じて、法を守る生活が「仮のゲーム」にすぎないのを忘れないようにしました。

つまりケ(気)→ケガレ(気枯れ)→ハレ(ハレ)の循環があったのです。

ケは気=エネルギー。その枯渇が気枯れ=ケガレ。ケガレを晴らす気の再充填がハレ=祭り。祭りには定住を拒絶する被差別民が聖なる存在=エネルギーを持つ存在として呼ばれます。

話を日本に戻すと、なぜ芸能の民に被差別民が多かったのか。なぜ祭りのテキヤ(デミセ業者)はヤクザなのか。それらは祭りの普遍的ルーツを伝えているのです。昭和に生まれ育った僕ら世代の一部はそうした祭りの本質を肌身で知っています。

先進国だった日本に例外的に残った循環的な定住社会は、1980年代に急速に進んだジェントリフィケーション(環境浄化)で崩れます。「新住民化」と呼びます。

増加する外来居住者が、安心・安全・便利・快適の旗印の下、古い営みを駆逐したのです。

鮮明に記憶しますが、公園から箱ブランコや回旋塔が撤去され、屋上や放課後校庭は立入禁止になり、小川や運河が暗渠化・鉄柵化され、打上げ花火の水平撃ちが禁止され、組事務所や店舗風俗やエロ自販機が撤去され、今世紀までに今みたいになりました。

ちなみに1980年代後半からの「いじめブーム」の背景に、旧住民と新住民の対立がありました。最初は旧住民子弟が新住民子弟をいじめ、やがて逆転して新住民子弟が旧住民子弟をいじめました。1990年代のフィールドワークを通じて確かめたことです。


PROFILE

宮台真司 SHINJI MIYADAI


1959年宮城県生まれ。社会学者。映画批評家。首都大学東京教授。公共政策プラットフォーム研究評議員。東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了(社会学博士)。『日本の難点』(幻冬舎)、『14歳からの社会学』(世界文化社)など著作多数。


Text >> 大根田康介

FQ Kids Learning vol.1より転載

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