虐待や差別は、”他人事”ではない……命を預かる「親の使命」
2018/12/26
目黒区の虐待事件は
命を預かる意識の欠如
もう一つ、悲しい事件が話題になりましたね。目黒区で5歳の女児が両親による虐待で亡くなってしまったのです。あまりに悲しい事件ですが、これも他人事で済ませてはいけません。産業医・精神科医として勤務していると、育児中の方から「思わず手を出そうとしてしまった……」「物を手に取って暴力をふるいそうになった……」と相談されることが少なくありません。幼児虐待のヒヤリ・ハットは、そこかしこで起こっているのです。
そうした相談が特殊な方から寄せられるわけではない、ということを知ってください。会社員としてだけでなく、パパ・ママとして一生懸命で真面目、幼児教育に熱心、しっかりと家事をこなしている、という方に、幼児虐待ヒヤリ・ハット経験者が多いのです。こうした方達は真面目ですから、より努力をします。ところが努力は必ずしも報われるわけではありませんから、仕事や子育てが上手く行かないときもあります。そんなとき、相談者さんは、自分に腹を立て、焦りが生まれ、その感情が子供に向かってしまうのです。
私からのアドバイスは、“他人と比べるのをやめること”と“肩の力を抜くこと”の2つ。昔から「親がなくても子は育つ」という言葉があります。周囲の人の助けを借りて、また子供自身の力で、子供は育つことができます。少しリラックスすれば、子供と過ごす貴重な時間を楽しめるはずです。
そして最後に、絶対に忘れてはいけないことをお伝えしておきます。そもそも子供は、生きていくうえで必要な“衣食住”において、親に絶対的に依存しています。どれほどフランクな家庭であっても、それは動かしがたい事実。この事実がある以上、親子が対等に話し合える、という関係を築くのは相当に困難です。ですから、先に挙げた“他人と比べない”、“肩の力を抜いて”と共に、自分は子供から見れば絶対的強者なのだと肝に銘じ、“命を預かっている”、“命を守っている”、という意識を常に持ち続けてほしいのです。
PROFILE
香山リカ RIKA KAYAMA
東京医科大卒。精神科医。豊富な臨床経験を活かして、現代人の心の問題を中心に、新聞や雑誌など様々なメディアで発言を続けている。著書に『ノンママという生き方 子のない女はダメですか?』(幻冬舎)、『50オトコはなぜ劣化したのか』(小学館)など。
Text >> REGGY KAWASHIMA
FQ JAPAN VOL.48より転載