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日本人は子供の未来を考えていない!? たった3%の男性育休取得率にみる深刻な問題

倫理的に間違った秩序のもとで
人は幸せになれない

日本の学校では、多数の質問を先生にぶつけたり、先生に異論や反論を述べることが、奨励されるどころか抑止されます。他方、他の先進国では異論や反論が出てこない教室は「腐っている」と捉えます。ドイツでは「質問しないのなら、お前は存在しないのと同じ」と教えます。日本はまるで逆。質問を連発すると「どうして他の人は質問しないのに、お前ばっかり」と責められる。

先の山岸俊男氏の統計が示す通り、日本人には価値観がない。「価値観を持つ個人」の価値観を変えられても「価値観がない大人」を「価値観を持つ大人」に変えるのは不可能です。ならば現実的処方箋は、子供たちをまともな共同体に埋め込み直すこと。大人たちが家族や近隣をまともな共同体にするミクロな努力であれば実るかもしれない。共同体を通じて、共同体に流されずに共同体に貢献できる個人を育てられます。

ドイツは全体主義への反省から、ドイツ人一人一人が各国から尊敬されるように育たない限りドイツ再興はあり得ないと合意しました。そこから日本と対照的な「質問しないのなら、お前は存在しないのと同じ」という教育に、上からの改革でシフト。他の人間たちや動植物になりきることを奨励する「森の学校」や「シュタイナー教育」の実践が、下から拡がりました。



ただし、テクニカルな細部よりも、それで子供の幸福度が上がる事実に注目すべきです。1ヶ月前にユニセフが発表したように、日本の子供の幸福度は先進国で下から2番目。大人の幸福度も過去40年に渡って90位台から40位台で、やはり先進国で最低。日本より貧しくても幸福度が高い国はいっぱいあります。経済が豊かで、犯罪が少なくて安全でも、人は幸せにはなれないということです。

人は、仲間に埋め込まれ、仲間に育まれ、仲間に恩義を感じ、仲間にリターンを返そうとし、仲間に感謝され、失敗しても讃えてもらえることで、幸せになります。共同体が空洞化する以前の日本にはありました。今は皆無。理由は「社会の穴を経済で埋めている」からです。だから「経済が回らなくなると社会の穴に人が落ちて死ぬ」。実際、自殺率は先進国では最高だし、在宅死者の4人に1人は孤独死します。

マクロには絶望的でも
ミクロにはできることがある

日本青少年研究所の高校生調査では、家族といるのが楽しい割合も、親を尊敬する割合も、親を何としても看取りたい割合も、米中の半分+α。家族の空洞化を放置してきたのが日本人。その日本人が民主主義で支える政府が、マトモな施策を打てるはずもない。浅ましい座席争いゆえに、既得権益が巨大であるほどいじれない。だから、男性育休取得率だけでなく、議員の女性割合も、社長の女性割合も、先進国で最低

僕は25年以上「社会が回らなければ、経済も回らなくなる」と言い続けてきました。逆ではない。「経済を回すために社会に穴を開ければ、やがて経済も回らなくなる」のが日本終焉の理由です。実質所得は25年間下がり続けていますが、それでも「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と呼ばれた40年前よりも上。マクロには絶望的でもミクロには「社会の穴を埋め戻す」営みに乗り出すべきです

資本主義が悪いという短絡はだめです。そうでなく、市場に参加する者の感情が劣化したのがまずい。「仲間のためにいいものを作って売る」「その努力を見ているから少し高くても仲間から買う」という感情の豊かさを取り戻そう。それがイタリア発スローフード運動で、それが拡がったイタリアの1人当たりGDPは日本を抜きました。倫理的に間違った秩序の下で生活が成り立っていても「日本のようになる」。

結論。育休取得率だけを上げようとしても無駄。全社会指標(社会の健全さを示す数値:幸福度・女性議員割合・自殺率・孤独死率・家族が楽しい率…)が最悪である理由を考え、政治が悪い以前に、政治を支える感情の劣化が問題だと気づき、気づいた者が「荒野となった社会を仲間と生きる」実践を足元から展開すべきです。損得に埋没した浅ましい存在ならぬ、倫理的存在を育てることが、鍵です。

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PROFILE

宮台真司(SHINJI MIYADAI)


1959年宮城県生まれ。社会学者。映画批評家。首都大学東京教授。公共政策プラットフォーム研究評議員。東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了(社会学博士)。『日本の難点』(幻冬舎)、『14歳からの社会学』(世界文化社)など著作多数。


文:脇谷美佳子

FQ JAPAN VOL.57(2020-21年冬号)より転載

 



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