江口洋介さん「子供の最高の遊び相手でありたい」
2015/09/10
俳優であり、プライベートでは2児の父親でもある江口洋介さん。彼が自身の仕事に対する姿勢、愛する家族や我が子への想いを語ってくれた。
最新主演作は社会問題や
父と子の絆を描いた話題作
よき父、よき仕事人でありたい。誰もがそう願うものの、現実は、ちょっとしたボタンの掛け違いで理想と大きくかけ離れていく――。間もなく公開される映画『天空の蜂』で、主演を務める江口洋介さん演じる湯原も、そんな男の1人だ。
「ヘリ設計士である湯原は、仕事に没頭するあまり家庭内がギクシャクし、奥さんともうまくいかず、子供が父親に対して送り続けていた大事なサインも見逃してしまいます。アクションシーンが満載の映画の中で、そんな父と子の関係が事件によってどう変わっていくのか。それが、この作品のひとつの軸になっています」。
1995年8月8日。湯原の設計した超巨大ヘリ〈ビッグB〉のお披露目の日に事件は起こる。ビッグBは、〈天空の蜂〉と名乗るテロリストに遠隔操作により乗っ取られ、犯人の要求をのまなければ、ヘリの燃料の切れる8時間後、原子力発電所に落下する。しかも、ヘリの機内には湯原の息子が取り残されていて……。
「東野圭吾さんの原作を読んだとき、この壮大なストーリーをどうやって映画にするのだろう、と思いました。でも、上がってきた台本に目を通すと、8時間という限られた時間の中でサスペンスを解決していくような緊迫感があり、目の前で、リアルタイムに事件が起きているかのような臨場感を味わえる、極上のエンターテイメント作品になるのでは、という期待感が大きく膨らみました。ハラハラドキドキの展開の中に、原子力発電所の設計士で、本木(雅弘)くんが演じた三島のセリフが、蜂の一刺しのように効いてくる。また、湯原と三島の関係性や、事件
の裏側にある隠された真実など見どころも多く、子供から大人まで楽しめる作品に仕上がっていると思います」。
現実から目をそらさない、やられてもやり返さない。それを子供たちに伝えたい。
フィクションの中でこそ
大切なメッセージが生きる
この映画では、原子力発電を肯定も否定もしていない。しかし、2011年3月11日に起きた出来事が日本人の記憶に深く刻み込まれている今、原発テロを主題とする映画への出演に迷いはなかったのだろうか。
「堤(幸彦)監督は、震災復興のドキュメンタリー作品も撮っていますし、監督に子供が生まれたことも関係しているのか、これまでの作品とは違うタッチで描きたいという心構えのようなものは感じました。俳優陣は僕も含め、実生活でも親である人間も多かったですし、現場を支えるスタッフみんながこのテーマを真摯に受け止めて、熱い気持ちを持って一丸となって向かって行った、という側面は確かにあります。しかし、作品としてはあくまでもフィクションであり、誰もが楽しめるエンターテインメント。台本を一読して、面白いものができるだろうという確信に近い予感もありましたし、出演に対して躊躇する気持ちはまったくありませんでした」。
エンターテインメント作品だからこそ、より大切なメッセージが伝わるという。
「アクションやサスペンスの要素が8割9割を占めていて、観ている人を映画の世界に引き込んでしまえるからこそ、三島の発する蜂の一刺しのようなメッセージが心に突き刺さるんですよね。たとえば、劇中で『みんな本当のことは知りたくないのさ』というような三島のセリフがありますが、この言葉を聞けば誰もが、今、日本が直面しているエネルギー政策の問題を想起するはずです。僕自身はこのセリフを聞き、現実の問題から決して目を背けてはいけないと、心を新たにしました。3・11から時間が経ち、流れていく日常の中で意識も希薄になりつつある今、この映画を観て、もう一度、そこにグッと気持ちが引き戻され、それぞれが何かを感じることができる。そしてそれが、決してマイナス思考ではないところが、エンターテインメント作品の醍醐味だと思うんですよね」。