「愛のムチ」は「ただの無知」
言葉を尽くせばしつけはできる
2014/10/21
体罰による自殺者が出てしまった。それまで「ある程度の体罰は必要」と思っていた人たちも態度を改めているようだ。しかし体罰は学校だけで起こることではない。家庭でのしつけにおいても「愛のムチ」なんて言葉もある。体罰せずに子供を伸ばすことは本当に可能なのだろうか。
絶つことのない体罰問題。
自他共に認める武闘派作家であり海の男でもある鈴木光司は、体罰をどう見ているのか?
恐いもの知らずの文壇最強DADが世の父にレクチャーする!
体罰は学校だけで起こることではない。家庭でのしつけにおいても「愛のムチ」なんて言葉もある。体罰せずに子供を伸ばすことは本当に可能なのだろうか。
学校や部活ではもちろん家の中でも体罰はいらない!
体罰は日本の軍隊の中から生まれた悪しき伝統。言ってみれば、日本人が戦争時代に身につけてしまった悪いクセなんだ。
断言しよう。体罰によって人は育たない。身体的な罰だけじゃない。言葉や態度による罰だってまったく無意味だよ。恐怖によって萎縮させてしまうだけ。子供は何が悪いのかを理解するどころか、自分の頭で考えなくなる。「愛のムチ」は「ただの無知」と言いたいね。
「『ダメだからダメ』なんていう親はダメ」だと僕は思う。もっと言葉を尽くすべきだよ。子供を育てる上で必要なのは、罰ではなく、叱ること。叱るといっても叩いたり、怒鳴ったりすることじゃない。徹底的に言葉で伝えるべき。言葉で伝えるためにはまず伝える側が「何が悪かったのか」を意識化しなければならない。伝える側が意識化できていないものを子供が意識化できるわけがないでしょう。まず親が「何がどうして悪いのか」を意識化して、言葉にすることによって、はじめて子供にもそれが伝わる。それがしつけというものだよね。そうやって大人が自分自身を成長させていかないと、体罰という悪しき伝統をなくすことはできない。徐々になくしていくしかないんだ。クセというのはなかなか抜けないものだから。
今、世の中が一斉に「体罰根絶!」というムードになっているよね。もちろん体罰には僕も反対だよ。だけど、「体罰を根絶しよう」と躍起になると、世の中が、実はもっと危険な状況になることが予測されるんだ。ルールで押さえつけようとしても、人間の内面にある歪みが消えてなくなるわけがない。その歪みは別のどこかに現れることになる。ファシズムによって世の中を統制しようとして、他罰的になったその世の中自体がおかしな方向に進み出してしまうという悲劇は、人類の歴史上、これまでも何度も繰り返されてきたよね。今の行政の対応を見ていると、とても危険な臭いを感じる。「厳罰化」をもって「体罰」を制しようとすること自体、パラドックスだよね。
もっと人間の内面に目を向けないと、体罰文化はなくならないと思う。親の一人ひとりが体罰の無意味さを知り、言葉を尽くす諭し方を身につければ、社会全体が「体罰不要」のいいムードに包まれていく。そうすれば、学校における体罰も自然になくなっていくはずだよ。大事なのは、みんなで「体罰禁止」と叫ぶことではなく、一人ひとりが「体罰不要」と思えるようになることだね。
<作家 鈴木光司の男塾>
第一回 モテる男は夫婦関係も円満モテない父親は山に行け!
第二回 子供の才能を伸ばすために、最初から諦めちゃいけないが、見極めは肝心
第三回 「イクメン」を自認するものは”テーマ”を持って子育てすべし
第四回 浮気はボス猿だけに与えられた特権……で、あなたは本当にボス猿?
第五回 「家族のために仕事を犠牲」はうっとうしい子育て中の父親こそガンガン上を目指せ!
第六回 溺愛されれば、子供はポジティブなオーラを放つそういう子がたくさんいればいじめは減る
PROFILE
鈴木光司
1957年生まれ。作家。2人の娘を持つDAD。1990年「楽園」(新潮文庫)で日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞しデビュー。その後「リング」「らせん」(ともに角川ホラー文庫)が大ヒット。元祖イクメンとしてFQ JAPAN創刊時より連載ページで自身の育児や愛妻術など父親としてのあり方を提言。
※FQ JAPAN vol.26(2013年春号)より転載
Photo >> HAYATO IMAI Text >> TOSHIMASA OTA
(2014.10.21up)