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宮台真司氏が勧める「モテ教育」とは? 子供を魅力的な人間に育てる方法

感受性が豊かなほど
生きにくい世の中

スイスの心理学者ジャン=ピアジェが「認知的発達理論」を提唱しました。「ある時期までに適切な入力があれば次のステージに行き、そのステージにおいてもある時期までに適切な入力があれば……」というもの。限られた期限までに入力がなければ次のステージに進めない。この期限を「臨界年齢」といいます。臨界年齢の概念を最初に提唱したのが、超感覚的認識を科学的に追求したルドルフ・シュタイナーです。

彼によれば、読み書きそろばんは臨界年齢が高い。だから後から取り返せる。でも、言外や法外の世界をどれほど深く感じ取れるか、色や匂いやリズムや音などによってどれだけ動かされるか、という感情的能力(超感覚的認識)は臨界年齢が低い。彼は7歳に一つのポイントを見出します。それまでは読み書きそろばんよりも大切なことがあると言います。それを逃せば言外や法外のシンクロはもう望めないのです。

子供時代の感情教育(感情的能力を深める教育)は、親や先生が言葉で与えられるものではありません。言葉によるハンドリングを越えた名状しがたい体験こそが必要だからです。法の外へ、言葉の外へ、と言葉で促すことはできますが、法外やとりわけ言外になると、言葉で合理的に指し示すのは難しくなります。だから、親や先生は「外」に触れる機会を開く「扉」になるしかありません。具体的にどうするのか。

かつては先生と生徒、親と子という「縦の関係」や、友人という「横の関係」以外に、近所の変なおじさんという「斜めの関係」があり、この変なおじさんと秘密を共有することで一皮むける過程がありました。今はそうした環境はありません。親や先生自身が変なおじさんを演じるのも、「斜め」ではないので不可能です。そこで、僕が実践として提案しているのが、「ウンコのおじさん」プロジェクトです。

僕は、虫やヘビやトカゲを捕まえるのを含めて、森が得意だし、昔のコンテンツを過剰記憶気味に覚えていて、どうすれば今でも見られるのかを知っています。僕みたいな人が、通学路にウンコの絵を描いて回れば、近所の子たちの人気者になって、森やコンテンツを教える機会を獲得できます。塾の先生もいいけれど、そうした「ウンコのおじさん」に子供を委ねることを、親や先生が考えればいい、ということです。


モテ教育の神髄は
「どんな女でも寝とれるような男になれ」

今は言外や法外が閉ざされつつあります。しかし人の心や身体性は言内や法内に留まらずに溢れ出ているものです。その意味で感受性が豊かな人ほど生きにくくなりつつあります。それは恋愛ワークショップをすれば分かります。女は男よりも劣化が遅いのですが、劣化していない女ほど過去や現在の恋愛に不全感を覚えています。だから劣化していない女ほど妥協しないのでステディを見つけにくくなっています。

過去30年を観察すると男は女より数年劣化が早い。「法の奴隷」「言葉の自動機械」「損得only人間」が女より多く、そのぶん「損得より正しさ」「損得より愛」から離れています。理由の一つは、社会が男に有利にできている分、女よりも勝ち負けゲームに促され、勝っていれば何でも許されるような育てられ方をすることです。社会で自己実現しにくい女が、母親になって子供をダシにした代理満足を求めることもあります。

でも現実を見る必要があります。年間の在宅死は15万人ですが、うち孤独死が公的には3万人で、一説には5万人を超えます。孤独死の8割が男で、女は翌日か翌々日に発見されるのですが、男は近所に腐臭がしてから発見されます。SNSで連絡が途絶えても来訪者がいなければ孤独死します。だから男の孤独死は20歳代から始まり、タワーマンションの金持ちでも孤独死します。勝ち組にしては惨めすぎる死に様です。

人から愛される魅力的な人であれば孤独死はあり得ません。男にはそういう人が少ないわけです。ならば男女を問わず「人から愛される魅力的な人を育てる」のが一番です。「言葉の自動機械」「法の奴隷」「損得only 人間」から最も遠いのが「人から愛される魅力的な人」です。もし自分が子供と同級生だったら、思わずスキになってしまうような人に育てるとよいでしょう。

日本以外の先進国における標的な教育では、勉強ができようができまいが、愛と正しさを貫けれる大人になれれば、人から尊敬される立派な人として人生を送れると教えます。ところが日本の親は、こんな成績だと負け組になるぞと教えます。勝ち組が社会の上位1割だとすると9割は負け組です。子供がそれを予感するから、『自分には価値ある』と答える高校生は米国57% 、中国42%なのに、日本は8%(日本青少年研究所)。

でも上位1割に入れたとしても多くが「勉強田吾作」になります。勉強のために遊びや恋愛を犠牲にしてきた人たちは、「いい就職」ができても、自分より遙かに仕事ができるのに自分よりも遊びも恋愛もできる人を見ると、嫉みで激しくディスるようになります。それが勉強田吾作です。勉強田吾作は「勝ち組」なのにモテませんが、だからこそ劣等感の埋め合わせのためにネトウヨが多く、多分一人寂しく死にます。

「モテ教育」の真髄を、誤解を恐れずに言えば、男子であれば「どんな女でも寝取れて愛される男になれ」、女子であれば「どんな男でも寝取れて愛される女になれ」です。「言葉の自動機械」「法の奴隷」で浅ましくポジション取りに勤しむ「損得only 人間」は、まともな相手にモテないし、親になっても子供に尊敬されません。「人から愛される魅力的な人を育てるのが一番」という意味をお分かりいただけたでしょうか。

PROFILE

宮台真司 SHINJI MIYADAI


1959年宮城県生まれ。社会学者。映画批評家。首都大学東京教授。公共政策プラットフォーム研究評議員。東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了(社会学博士)。『日本の難点』(幻冬舎)、『14歳からの社会学』(世界文化社)など著作多数。


Text >> KOUSUKE OONEDA

FQ JAPAN VOL.51より転載

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