注目キーワード

時事・コラム

子育てに「正解」はない。つまり「不正解」もない。

ときには「しつけ」を諦めることも必要

たとえば食事中に子供が箸を落としてしまったとしよう。あなたはその箸を拾ってあげるだろうか、自分で拾わせるだろうか。正解はない。しつけ上、どちらも正しい。

子供自身に拾わせる親は、自分でしたことの落とし前は自分でつけるという大原則を教えることになる。一方、箸を拾ってあげる親は「親切」のお手本を示していることになる。他人が落としたものであったとしても知らんぷりをしないで拾ってあげるというやさしさや心の余裕を、子供は学び取るだろう。拾わせるのか、拾うのか。親として子供に何を伝えたいかという選択だ。状況によって使い分ければいい。

また、たとえば電車の中でよくあるシーン。2〜3歳の子供が興奮して暴れたり、騒いだり。ママは一生懸命子供を落ち着かせようとするけれどうまくはいかない。周りの疲れたサラリーマンや寝不足そうなOLは露骨に迷惑そうな顔をする……。

今まさに子供が電車の中で騒ぎ出してしまったという状況において、実は親は、管理監督者として直ちに子供を静かにさせなければならない責任と、社会のルールやマナーをしつけなければならない親としての責任の両方がのしかかっている。そこで、管理監督者としての責任と、親としての責任の両方を同時に果たそうとするからジレンマに陥る。

しつけには時間も根気も必要。電車に乗った時点でできていないしつけが、電車を降りるまでにできるわけがない。周りに迷惑そうにしている人がたくさんいるなら、「しつけ」をあきらめ、「すぐさま静かにさせること」を優先する判断もときには必要だ。

つまり、たとえばあめ玉を与えて静かにさせるなどという、しつけ上は禁じ手とされることを実行する割り切りも、場合によっては必要なのだ。その代わり、あとで電車の絵本でも読みながら、「電車の中では静かにするというお約束なんだよ」などと教えればいい。

夫婦の価値観の幅が
子供の個性を育てる

夫婦で子育てしていると、パートナーの子供への接し方を優しすぎるとか厳しすぎるとか感じることもあるだろう。たとえば落書きに対して叱るのか、それとも諭すのか、夫婦といえども価値観や判断基準は異なるもの。「夫婦の判断基準を統一しないと子供が混乱する」と古い育児書には書かれているが、夫婦といえども2人の価値観を完全に統一することなどそもそも不可能。

世の中は正解のない問題ばかり。それなのに、両親が何に対しても統一見解をもっていたら、それが世の中の正解だと子供は勘違いしてしまうだろう。

両親の価値観にズレがあってこそ、初めて世の中が立体的に見えてくる。そのズレの狭間で混乱を何度も乗り越える経験を経てこそ、子供は自分なりの状況判断力を身につけるのだ。人の考え方はそれぞれ違うことを実感してこそ、多様性を受け入れる柔軟さを身につけるのだ。夫婦の価値観に幅があればこそ、その幅の中で子供の個性が育まれ、折れない心を育むことができるというわけだ。

結局のところ実は親は無力である

要するに、子育てに「正解」などない。「正解」がないということは「不正解」もないということ。親の意図とはほとんど関係のないところで、子供は育っていくのである。子供は親の思った通りには育たないが、それなりのものには必ず育つ。親がよほど余計なことをしなければ。

子供が育つ上で、もちろん親の影響力は絶大だ。しかしあえて言いたい。結局のところ、親は実は無力であると。

「わが子のために」とあれこれ考え手を焼くのは親の性。それは私も否定しない。しかし、求められてもいないのに親が子供のやることなすことに口を出したり手を出したりすることは、「あなたは私がいないと何もできない」というメッセージを伝えることにもなるので注意が必要だ。

結局、親がすべき一番大切なことは、子供の中に必ずある「生きる力」を信じて見守ることであるという最初の話に戻る。親のその姿勢が、子供の力を最大限に引き出す最高の励ましであると私は思う。


おおたとしまさ(TOSHIMASA OTA)

育児・教育ジャーナリスト、心理カウンセラー。株式会社リクルートを脱サラ・独立後、男性の育児、夫婦のパートナーシップ、子供のしつけなどについて執筆や講演を行っている。著書に『忙しいビジネスマンのための3分間育児』『パパのトリセツ』など。
» おおたとしまさの著書一覧


●おおたとしまさ氏の記事 一覧

https://fqmagazine.jp/tag/fathers-eye/


<新刊のお知らせ>
chichioyatachinokattou父親たちの葛藤 仕事と家庭の両立は夢なのか

おおたとしまさ 著
PHP研究所 刊
¥870+税
2016年6月18日発売

なぜ男性の「家庭進出」が進まないのか。これまでのイクメンブームの盛り上げ方に短絡的な部分があったと認めざるを得ないのではないか。ではどうしたらいいのか。仕事と家庭の板挟みに悩む父親たちの本音、彼らに殺意さえ覚えるという妻たちの本音、理想ばかりを言っていられない会社側の本音、そして冷徹に世相を物語る数々のデータからヒントを見い出す。


おおたとしまさのコラムが掲載されている「FQ JAPAN」最新号とバックナンバーはコチラから!
http://www.fujisan.co.jp/campaign/fqjapan-web/ap-pub-web-fqj

※FQ JAPAN VOL.39(2016年夏号)より転載

 

12

関連記事

育児アイテム名鑑

アクセスランキング

  1. 「自閉症は人格。治すものじゃない」映画のモデルとなった父子が今思う、社会の在り方...
  2. 日本人がセックスレスになりやすい理由は? 1年で約140回のギリシャ夫婦との違い...
  3. 旅ライターが選ぶ冬の子連れスポット6選!施設選びのポイントと注意点を紹介...
  4. 男だって泣きたい…離婚後に待ち受ける試練とは?
  5. 産後のママはどんな状態? 妻を支えるために知っておくべき『産後ケアの基本』...
  6. 子供に自信をつけさせるメンタルトレーニング
  7. 子供が親によくする質問ベスト30を紹介「なぜ空は青いの?」
  8. アドラー心理学から学ぶ! 「人が幸せを感じる”3つの条件”」とは?...
  9. SEXで大事なのは「触れあい」と「思いやり」
  10. 子供が怖い夢を見たらどうする? パパとママがしてあげるべきこと

雑誌&フリーマガジン

雑誌
「FQ JAPAN」

VOL.72 | ¥550
2024/9/9発売

フリーマガジン
「FQ JAPAN BABY&KIDS」

VOL.69 | ¥0
2023/5/31発行

特別号
「FQKids」

VOL.20 | ¥715
2024/11/9発売

お詫びと訂正

  第17回 ペアレンティングアワード