産後クライシスなんて怖くない
2015/09/01
産後クライシスを回避すると子供にしわ寄せがいく
家族療法的な視点からとらえれば、夫婦それぞれの出身家族から受け継いだ心理的な負の遺産が、産後クライシスなどの危機的状況で露呈することがある。
たとえば精神的な親離れが不十分である場合、つまり精神的に自立できておらず、依存的な性質が残ってしまっている場合、パートナーに親代わりを求めてしまうことがある。八つ当たりをしてみたり、無理難題を与えてみたり、何をしてもらっても当たり前のように振る舞い感謝の気持ちを表わさなかったり。親に甘えるのと同様に、パートナーに接してしまうことがあるのだ。まったくの無意識で。
ライフサイクルの中に埋め込まれている危機において、もともと持っていた心理的弱点が露呈する。だから、産後クライシスのような機会にしっかり相手と向き合い、自分と向き合うことが大切だ。そうすることで、自分の未熟な部分に気づき、出身家族から無意識のうちに受け継いでいた負の遺産に気づき、修正することができる。
しかし、たとえば産後クライシスをいつまでも相手のせいにして、自分と向き合うことがないと、せっかくの成長の機会を逃してしまうことになる。依存的な性質を修正する機会を逃してしまうと、パートナーに依存するのをあきらめ、代わりに子供に依存するようになる。たとえば子供の世話を焼くという役割に依存する。子供の成長を願いつつ、同時に子供が自分を不要とすることを過度に恐れる。必要以上に世話を焼くことで、まったくの無意識で子供の自立を阻害する。
子供にとってはこのうえない迷惑だ。しかし生まれたときからそうやって育てられた子供には、親の異常さはわからない。それが当たり前だと思ってしまう。ただし子供の無意識の中には常に確実に息苦しさがある。そうやって子供が追いつめられる。
産後クライシスを避けて通ると、そのしわ寄せが子供に向かうことがあるのだ。
追いつめられた子供がどんな息苦しさ、生き苦しさを味わうのかは、拙著『追いつめる親 「あなたのため」は呪いの言葉』(毎日新聞出版)をご覧いただきたい。
産後クライシスは夫婦のおたふく風邪のようなもの。回避してはいけない。
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『追いつめる親 「あなたのため」は呪いの言葉』
著 おおたとしまさ/毎日新聞出版/1000円(税別)
「あなたのため」という言葉を武器に過干渉を続ける親に育てられ、「生きづらさ」を感じ、自分らしく生きられない子供側の様々なケースを紹介。教育虐待の闇を照らし、その社会的背景を考察し、さらには、「教育とは何か?」「親の役割とは何か?」というテーマにまで踏み込む。
おおたとしまさ(TOSHIMASA OTA)
株式会社リクルートを経て独立。男性の育児・教育、子育て夫婦のパートナーシップ、無駄に叱らないしつけ方、中学受験をいい経験にする方法などについて、執筆・講演を行う傍ら、新聞・雑誌へのコメント掲載、ラジオ出演も多数。
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(2015.9.1up)