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真面目なパパほど辛い!? 現代を幸せに生きるための「男性学」とは

日本のジェンダー観は少しずつ変わりつつある。しかし、「べき論」と現実は分けて認識おかなければいけない、と大妻女子大学准教授で「男性学」の第一人者である田中俊之さんは言う。男性が男性だからこそ抱えてしまう問題に着目する「男性学」とは?

「あるべき論」を遂行する
真面目なパパが直面するギャップ

SNSでの「#MeToo」の盛り上がり、SDGsの達成目標として「ジェンダー平等」が掲げられるなど、日本のジェンダー観は少しずつ変化しつつあります。企業でもセクハラ対策のための研修が行われたり、「ジェンダー平等」がテーマの講演会やイベントも数多く開催されていますよね。「男性も育児するのが当たり前だから、“イクメン”なんて言葉は時代遅れ」なんていう声も聞こえてきます。

ですが、それはあくまで「べき論」の話。実際には、日本社会はまだまだ性別役割分業、つまり、「男は仕事、女は家庭」という価値観とそれを支える社会構造をベースに回っています。実際に先日、平日の昼間に小学校のPTAに出席したら、男性は僕のみでした。こんなふうに、「べき論」と現実は分けて認識しておかなければいけません。そうでなければ、「男性の育児参加が当たり前」と考える真面目なパパこそ、現実とのギャップに衝撃を受けるのではないでしょうか。そんなパパにおすすめしたいのが、僕が研究している「男性学」なんです。

「男性学」の始まりは
常識を疑うことから

「男性学」は「社会学」の一つの分野です。「社会学」とは簡単にいうと、「みんなが“当たり前”だと思っている常識を疑い、その背景を知り、より良い方向性を考える」学問です。その中でも「男性学」は、男性が男性だからこそ抱えてしまう問題に着目しています。

例えば、性別役割分業の背景について考えてみましょう。かつて日本は農業などの第一次産業が中心でしたから、会社で働くスタイルが一般化したのは、実は高度経済期以降。会社に雇用されると必然的に、住む場所と働く場所が分かれます。そのため家で家事育児を専門にする役割として、主婦が生まれたのです。また当時、「いつも家にいるママと、週末遊んでくれるパパ」といったアメリカのホームドラマが人気で、ある種の理想になっていた影響もあります。そうやってできあがった核家族のロールモデルが「男は仕事、女は家庭」で、なぜか今も根強く残っているのです。

他性の問題も“自分ごと”に
視野を広げ具体的な行動を

パパがこのように「男らしさ」の問題に向き合うことで、「女性には、性別がどう影響を与えているか」「セクシャルマイノリティは、どんな境遇で生きているのか」など、ほかの性についても“自分ごと”として考えられるようになります。それが家庭の幸せ、ひいては「ジェンダーの平等」という社会課題の達成にもつながっていくのです。

日本ではバブル崩壊以降、経済的に苦しくなり、パートで働く主婦が増加。現在は時短勤務をする共働き家庭も増えています。するとパパも家事参加が必須になる。つまり、夫婦共に役割が増えているのです。さらにコロナ禍を受け、仕事と育児を自宅で両立せねばならない、テレワークも増えました。共働き家族に聞き取り調査をすると、「生活が回っていない」という悲痛な叫びが聞こえます。

では、どうすれば回るのか? 6歳と2歳の息子を育ててきた僕の経験からすれば、「手を増やす」以外にありません。親族に頼るのもひとつですが、公的で安価な支援やサービスを調べておき、いざという時に借りられる手を増やしておくことが重要だと思います。

頑張りすぎずに視野を広げ、具体的な行動を起こすことこそ重要です。

ヒントになる作品

「逃げるは恥だが役に立つ」 新春SP DVD&Blu-ray

発売元:TBS、発売協力:TBSグロウディア、販売元:TCエンタテインメント
©海野つなみ/講談社 ©TBSスパークル/TBS

コロナ渦の妊娠・育児生活を描いた作中には、「男性育休」がトピックとして登場する。


「終わった人」

DVD発売中
5,170円(税込)
販売:東映、発売:東映ビデオ

「男は仕事」という価値観のもと生きてきた主人公の、虚しい定年後の生活と後悔がリアルに描かれている。

【まとめ】
●「べき論」と現実は違うものと認識する
●“当たり前”を疑って、その背景を学び、より良い方向を考える
●自分の抱える男性問題に向き合えば、他の性の問題も“自分ごと”になる

PROFILE

田中俊之

社会学者。大妻女子大学人間関係学部准教授。男性が男性だからこそ抱えてしまう悩みや葛藤に着目した「男性学」研究の第一人者として各メディアで活躍するほか、行政機関などにおいて、男女共同参画社会の推進に取り組む。著書に、『男子が10代のうちに考えておきたいこと』(岩波書店)など。


文:笹間聖子

FQ JAPAN VOL.63(2022年夏号)より転載

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