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インタビュー

斎藤工が“妊娠している男性”を演じる? ドラマ『ヒヤマケンタロウの妊娠』に見る、想像力の必要性

「人生は、思いがけないことの連続だ――」。広告代理店でエリート社員としてスマートに生きるヒヤマケンタロウが、予想外の妊娠ライフに悪戦苦闘する社会派コメディ『ヒヤマケンタロウの妊娠』が、Netflixシリーズで世界独占配信中! FQでは、主人公・桧山健太郎を演じた斎藤工さんと、原作者の坂井恵理先生にインタビュー。

男⼥の役割の固定観念の逆転
このドラマは今、⽣まれるべくして⽣まれた

坂井恵理先生
“自分の代わりにパートナーが妊娠・出産して気持ちを知って欲しい”と、一度は考えることがあることがあるかもしれません。40歳で出産した私もそうでした(笑)。このテーマは女性読者に素直に受け入れられると思いました。」
原作コミック『ヒヤマケンタロウの妊娠』では、桧山の仕事はレストランチェーン企画部の部長。ドラマでは広告代理店のエリート社員という設定に置き換えられている。
坂井恵理先生
ドラマでは桧山を広告代理店の社員に設定したのは、実に秀逸だと思いました。私が漫画を描いた当時は、広告表現に関して女性が声を上げるようなことはまだ多くはありませんでした。桧山の職場を広告業界にすることで、日本社会が抱える問題点が見事、浮き彫りにされたと思います。
原作コミック『ヒヤマケンタロウの妊娠』が発売されたのは、今から約10年前の2013年。当時は今ほど差別的な表現をなくすPC(ポリティカル・コレクトネス)※1の考え方は日本に浸透しておらず、ジェンダー平等の実現が目標のひとつとして組み込まれているSDGs(持続可能な開発目標)が国連サミットで採択されたのも2015年のこと。

女優・歌手のアリッサ・ミラノ氏が、「セクハラや性被害に遭った人は、”Me Too” と声をあげて」と、「#Me Too」が社会現象になったのが2017年。世界経済フォーラムが2019年12月に公表した「世界ジェンダーギャップ指数」では、日本は153カ国中121位と先進国の中でも著しく低い順位となった。そんな社会背景を受けて、2022年4月、ジェンダーバイアス(性別役割についての固定的な観念)、アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)をテーマにした『ヒヤマケンタロウの妊娠』という作品がNetflixシリーズとして日本から世界へ配信される。

※1 ポリティカル・コレクトネス(英:political correctness、略称:PC)
政治的・社会的に公正・公平・中立的で、なおかつ差別・偏見が含まれていない言葉や用語。職業・性別・文化・人種・民族・宗教・ハンディキャップ・年齢・婚姻状況などに基づく差別・偏見を防ぐ目的の表現、およびその概念を指す。

 

どんなに予測と準備をしても
人はスマートには生きられない
(斎藤工)

妊娠は、価値観が大きく変わる人生最大のライフイベントともいわれている。ヒヤマケンタロウを演じた斎藤工さんは、このイベントをどのように疑似体験したのだろう。
斎藤工さん
「どんなに準備をしていても、大小問わず必ず “まさか” が僕の40年間でもやってきました。自分が妊娠をするという “まさか” は残念ながらありませんが、常に頭の中では傾向と対策に占有されています。Netflixシリーズ『ヒヤマケンタロウの妊娠』は、現代人の “まさか” が訪れた時の脆弱さがリアルに描かれています。“まさか” が起きた時、その人の本質がまざまざと出るものです。僕自身、普段からいろんな心の鎧(よろい)を身につけていて、もしかしたら普段から、本来あるべき自分とは全く違う理想の自分を演じようとしているのかも、と思いました。

摩擦が起きないよう何かが起こるのを回避するのが、“スマートに生きる” ことのように言われていますが、そこに価値は本当にあるのだろうか? 桧山は、これまでの自分の価値観が大きく揺さぶられていきます。そういう意味で、桧山は現代のシンボリックなキャラクターであると感じました

妊娠して、それまでの桧山の価値観と優先順位が少しずつ変わっていくさま。“命” という揺るぎないテーマに、大きくゆっくりと覆されていく桧山のグラデーションを意識しながら演じました。」

全てを自分でコントロールできる
そんなふうに思わないほうがいい
(坂井恵理)

坂井恵理先生
「ドラマでのヒヤマケンタロウは、予測と準備があればスマートに生きられると信じています。私自身、妊娠・出産を経験する以前は、全てを自分でコントロールして、マイペースに仕事をしていました。自分のペースを乱されるのがすごく苦手なタイプでしたので。

ところが子供が生まれると、そんな考えは全く通用しません。出産後は、隙間で仕事をしたりなど、マルチタスクが求められるようになって、自分のペースを乱されることにずいぶん慣れました。

妊娠・出産・育児だけではなく、今後、自分が病気になるかもしれませんし、親の介護が始まるかもしれません。そうするとこれまでと同じようには生きられなくなります。誰の身にも予測不能なことが起こるのです。だから “自分のペースに全てを合わせられる“ なんて思わないほうがいいな、というのは子供を産んで身に染みて感じたことです。」

母の強さに社会は甘えてはいけない。
僕たち一人ひとりがサポートできる
(斎藤工)

斎藤工さん
僕自身が“意識なき加害者”の立場になっていることが多々あるのかもしれません。妊婦さんはこうなんじゃないかなと想像はできても、その実態を体験することはできません。桧山を演じてみて、実態と想像との残酷なまでの乖離を感じました。

僕は、ある日、ものすごい雨の日にベビーカーを押した女性が、とある駅からずぶ濡れになって乗車された日のことを今でも忘れられません。女性の背中はびしょ濡れでした。その姿を見た瞬間、このお母さんが何を大切に守っているのかがわかって、涙が出そうになりました。

命を守るのは当たり前であるという価値観。そして、自分より優先する実体があるという事実。この体験は、母の強さを感じた出来事でした。その強さに、僕たち、そして社会全体が甘えてはいけません。

どんなサポートができるか、探せば社会全体でできることはいくらでもあります。僕たち一人ひとりが手伝うこともできます。“お母さんは強いよね” という言葉に、誰もが母から産まれた身として、また今はトランスジェンダーの男性の方から生まれる人も増えていますが、そういった“母、強し” という言葉に、日本社会は甘えてしまっていると実感しました。」

Netflixの制作現場で行われた
リスペクト・トレーニングで
斎藤工が感じたこと

斎藤工さん
「Netflixがドラマを作るようになって、ハリウッドでは当たり前だった撮影前のリスペクト・トレーニング※2が日本でも行われるようになりました。先日まで僕が監督する現場でも、リスペクト・トレーニングは必要!と思ってプロデューサーに掛け合って実現しました。

桧山のシャツに母乳が滲み出るシーンがあるのですが、それまでの僕だったらラフな人間なので、カメラ前でメイクさんにやってもらっていたかもしれません。でも、これではリスペクトが足りないと気づき、裏でやりましょうとなりました。こんなふうに現場でリスペクトし合うきっかけになることが多々ありました。

日本の現場はリスペクト・トレーニングがまだアジャストできてないなと感じます。今も進行形で映像業界のセクハラ・パワハラは問題になっていますが、現場に子供を連れて行ったらいけないとか、なにかこう “耐え忍ぶことに美徳” があります。これは日本人の良さだとは、僕は全然思っていません。むしろいろんな輝きが失われています。でも、少しずつではありますが、徐々にリスペクト意識が日本でも広がってきていると感じています。

※2 リスペクト・トレーニング
互いへの「リスペクト」「尊重しあう気持ち」を現場の共通認識として持つことを目的とした取り組み。ある行為がハラスメントであるか白黒をつけるものではなく、相手への「リスペクト」が前提にある行為・言動なのかをと自問し、立ち止まって考える筋肉を鍛える。Netflixの制作現場では、監督やプロデューサー、役者をはじめ、撮影クルー、美術スタッフ、ケータリング業者に至るまで、関係者全員がこのトレーニングを受講するまで撮影はスタートされない。なお、トレーニング内容は適宜調整されていくものであり、常に内容を改善していくものである。

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