スピリチュアルにハマるママの心理とは?精神科医が語るその理由とパパにできること
2022/01/23
ママに限らず、スピリチュアリズムに傾倒してしまう人は少なからずいる。では、ママを惹きつける心理というのはどんなものなのか。精神科医の香山リカ先生に聞いた。
なぜハマってしまうのか?
スピリチュアルが果たす役割
いつの時代でも、スピリチュアリズムに傾倒してしまう人は少なくありません。東京2020大会の文化プログラムに出演予定だった絵本作家の方が直前に辞退したのは、作品において描かれていた「子供は親を選んで生まれてくる」といったスピリチュアリズムと通じる考えが批判を受けていたことが一因にありました。
また、似たような胎内記憶を描いた映画がロングランを続けていることを、ご存知の方もいらっしゃるでしょう。スピリチュアリズムへの傾倒は誰にでも起こりうることですが、それが少なくないママを惹きつける、その心理を見ていきたいと思います。
最初に、今でも忘れることができない、私自身の経験からお伝えしましょう。それは発達障害を持つ子を育てる親御さんたちの会で講演した時のことです。その講演で私は「発達障害は誰のせいでもない。断じて、親の責任ではない」と話しました。それは自分を責めないでほしい、と願ってのことで、もちろん科学的にも根拠のあることです。
その講演に続く質疑応答で、1人の女性が「私の子供は発達障害です……だけど私の子供は、こんな私を選んで生まれてきてくれた! 生まれる前の記憶も持っていて……」と、もの凄い勢いで話をされたのです。
もちろん頑張っているママの意見を「科学的にいうと……」などと否定はせず、「気負わずに、頑張りましょう!」と返すのが精一杯でした。
その時に気付かされたのは、ママが直面している重い現実です。「辛い。でも応えなければ……」心の支えがなければ耐えられない現実に立ち向かうために、自分を納得させるロジックを求めていたのではないでしょうか?
そして胎内記憶などのスピリチュアリズムには、(その是非はともかくとして)そういう役割があるのか、と気付かされたのでした。
スピリチュアリズムが一部のママを支えている、というのは、日本において未だに「妊娠・出産・育児は女性の役割」という古い価値観が根強く残っていることが、影響しているように思われます。
当コラムでも度々、妊娠・出産・育児の負担が女性に大きくのしかかっている、とお話してきました。もちろん変えよう、という流れは出来つつありますが、それでも社会の仕組みは旧態依然としています。まずは、そこを変え、精神的に追い詰められる女性を減らすことが大切です。
「非科学的=悪」ではない
救いを求める声を聞き逃すな
スピリチュアリズムだけでなく、もう1つ気になるのが、自然、というワードです。自然出産、あるいはフリースタイル出産といった、一般的ではない出産の形が、一部のママの間で支持されているようです。
それらの出産の是非は問いませんが、少なくとも、何かあった時に医療行為を受けられる状態で行われるべきです。
確かに、妊娠や出産は神秘的であり、時として科学では説明がつきにくいことが起こります。「不妊治療を辞めて妊娠を諦めたのに、その直後に妊娠した」などというのは、その最たる例でしょう。また、出産はママにとって文字通り命がけの行為です。
そのため、母親になろうとする女性やその家族は、昔から、神社に願掛けに行ったり、お守りを貰いに行ったりと、科学に依らない何かに頼ってきました。それらを含めて、非科学的=悪だと決めつける必要はありません。
とはいえ、スピリチュアリズムや自然派、といった考え方を妄信してしまうと、最悪の場合、家庭生活や日常生活にも支障をきたすことがあります。
それを防ぐことができるのは、パートナー=パパです。ママが信じているものを否定したり、言い負かしたりする行為はNGです。それよりも、ママが抱えている悩みに耳を傾けて、我がこととして家事・育児に取り組んでください。そうすれば、ママが抱える孤独感は軽減されるはずです。
こうして考えてみると、スピリチュアリズムに傾倒するママの存在は、妊娠・出産・育児を一身に背負わされた女性からの、救いを求める声だと受け取ることができます。日頃からママと積極的にコミュニケーションを取り、過度にストレスが掛からぬように努めましょう。
大切なパートナーが非科学的な何かにすがらなくても済むように……。
PROFILE
香山リカ
東京医科大卒。精神科医。豊富な臨床経験を活かして、現代人の心の問題を中心に、新聞や雑誌など様々なメディアで発言を続けている。著書に『ノンママという生き方 子のない女はダメですか?』(幻冬舎)、『50オトコはなぜ劣化したのか』(小学館)など。
文:川島礼二郎
FQ JAPAN VOL.61(2021年冬号)より転載