育休取得がゴールではない? SDGsの目標8「働きがいも経済成長も」の達成のために
2022/01/03
持続可能な開発目標SDGsの目標8「働きがいも経済成長も」。持続可能な企業社会の確立には、多様性推進が不可欠。誰もが気兼ねなく産休・育休、介護休暇や有休を取得できる、合理的で人に優しい職場づくりを目指そう。
SDGsが示す目標は
男性育児の推進と合致する
日本社会に限定していえば、戦後以来ずっと経済成長を追い求めたものの、バブル崩壊以降、右肩下がりが続いています。その苦況にあって「自分の心や家庭の平和を投げ捨ててまで経済を盛り返すことが正しいのか?」と、疑問に感じていた人は少なくないはずです。
そんな中、2015年の国連サミットで持続可能な開発目標SDGsが示されました。その8番目の目標が、「働きがいも経済成長も」です。
私たちファザーリング・ジャパン(以下、FJ)は、働くパパに対して適切なワークライフバランスの確立や育児参加を提案してきました。また、「社会全体での子育て」を提唱し、男性の産休・育休制度の創設に尽力してきました。
近年はさらに進んで、社会を良くする=会社を変える、という思いから、育児に理解のある上司=イクボスの養成に取り組んでいます。これらはすべて、子供たちの世代により良い社会を残すためのもの。FJの活動はSDGsとピッタリ合致しています。
昔ながらの日本型雇用=終身雇用に基づく仕事偏重社会では、上手くいかないことが明らかです。日本型雇用とは、言い方を変えればメンバーシップ制=身分契約。「言われた仕事はなんでもやります。何があっても休みません。転勤辞令に異議は唱えず単身赴任も当たり前」。そういう文化を作ってきました。これでは核家族化が進み価値観が多様化した現在、持続可能ではありません。
持続可能な企業社会の確立には、多様性推進が不可欠です。女性はもちろん、それぞれに異なるライフステージにある社員や、障がいのある人も働きやすい、ダイバーシティを尊重した経営がスタンダードになってきています。
また、働き方に応じて賃金を得るジョブ型雇用も増えてきています。ジョブ型雇用とは、仕事上の責任は個人にあり、その働きに応じた報酬を得る、というもの。低賃金で働かされる非正規雇用の存在は看過できませんが、一方で既にメンバーとなって居座り高給を食む「働かないおじさん」対策としては有効です。
「育休を取得すること」は
ゴールではない!
ダイバーシティが尊重され、産休・育休制度も整った今、何が求められているのでしょうか? それはSDGsの目標にある「働きがいも成長も」です。
企業には、バブル崩壊を知らずSNSの時代に生まれたZ世代の価値観を受けとめることが求められます。これからは、自分の成長にビジョンを描けるような企業でなければ、優秀な人材から選ばれなくなるでしょう。
「働きがいも成長も」を実現するキーパーソンが、イクボスです。独身時代には好きなだけ仕事に時間を割けた人も、子供ができて育児が始まると、途端に制限が掛かる。その中で同等の成果を挙げ続けるには、生産性を向上させるしかありません。その手助けをするのがボスの役割です。
例えば、育児と仕事を両立した事例を伝えてあげること。時間の使い方や、妻との育児・家事分担など、経験者の視点から語るのです。より広い目で見れば、イクボスには「どこでも通用する人材を育てる」という意識が必要です。それができれば業績はおのずと上がります。職場における安心感と満足度が高まり、個人も組織も成長するに違いありません。
一方で、イクボス研修で最近耳にするのが、働く側の意識の問題です。企業側の努力もあり、働きやすさは改善されつつありますが、それに甘えてはいけません。
労働者の正当な権利である有休や産休・育休の取得には、段取りというものがあります。仕事に穴を開けず、同僚に過度な負担を掛けぬよう、取得する側も配慮したい。それができずに権利ばかり主張する社員と経営者との間で板挟みになる、いわゆるボスジレンマに陥っている管理職が少なくないのです。
子供が生まれた男性も育休を取得することがゴールではありません。もちろん取得するパパと、彼のファミリーは恩恵を受けるでしょう。そのうえで取得者は、誰もが気兼ねなく産休・育休、あるいは介護休暇や有休を取得できる、合理的で人に優しい職場づくりを目指しましょう。それが「働きがいも経済成長も」につながるはずです。
PROFILE
安藤哲也
1962年生まれ。2男1女の父親。2006年、NPO法人ファザーリング・ジャパン(FJ)を立ち上げ代表を務める。NPO法人タイガーマスク基金代表。厚生労働省「イクメンプロジェクト」推進チーム顧問、内閣府・男女共同参画推進連携会議委員などその活動は多岐に渡る。新著は『「仕事も家庭も」世代の新・人生戦略「パパは大変」が「面白い!」に変わる本』(扶桑社)。
文:川島礼二郎
FQ JAPAN VOL.61(2021年冬号)より転載