パパにも企業にもメリットがあるのになぜ? 中小企業の7割が男性の育休取得義務化に反対
2021/02/18
企業にとってもメリットがある男性の育休取得。「取りたいのに取れない状態」が無くならないのはなぜか? NPO法人ファザーリング・ジャパン代表の安藤哲也さんが語る。
男性の育休取得義務化問題
そこに誤解はないか?
私が代表理事を務めるNPO法人ファザーリング・ジャパン(FJ)では、男性の育休取得はパパ・ママ・ベビーにとって、ひいては日本社会全体にとっても望ましいことだと考え、普及・啓発のために活動しています。
ところが、日本商工会議所のリサーチでは、「中小企業の7割が男性の育休取得義務化に反対」だったそうです。驚かれた方も少なくないと思いますが、以前から中小企業に関しては男性の育休取得の難しさが伝えられていましたので、FJでは冷静に受け止めています。
プレパパの皆さんにはぜひ覚えておいていただきたいのですが、そもそも男性育休は既に労働者の権利として確立されていて、条件を満たしていれば、申請を受けた企業は育休を取得させる義務があります。もちろん申請する・しないは労働者側の自由です。
今回話題になっている「義務化」は、企業が男性従業員に育休取得を促すことを義務化するものであり、育休取得を義務化するものではありません。つまり、取りたいのに取れない状態を無くしていこう、というのが今回の説明義務なのです。
男性に育休を取らせると
企業にもメリットがある
実は、育休取得は企業側にもメリットがあります。というのも、育休期間中は給料を払わなくて良い=人件費を抑えられるからです。従業員はその期間、労働者の育児休業開始時賃金日額×支給日数(通常30日)の67%を、雇用保険から受け取ります(育児休業の開始から6ヶ月経過後は50%になる)。
私達FJの実感では、コロナ禍によって里帰り出産ができず、出産前後に遠方の実家から助けに来てもらうことが難しい今、男性育休の取得は増えています。
過日行われたイクメン甲子園の決勝スピーチにおいて、育休を取得したトヨタの男性従業員が登壇していました。トヨタグループはイクボスの育成に積極的で、若い人が活躍できる会社にしようと改革を進めています。日本を代表する企業であるトヨタでも男性社員が育休を取っているとなれば、下請け・孫請け企業も取りやすくなります。
今では一般的になったクールビズだって、最初は官公庁から大企業、そして一般企業へと浸透して行きました。男性育休は今、ようやく大企業で取得しやすくなってきた。次は中小企業の番です。
いずれ対応することになるのなら、先にやってしまった方が得です。中小企業であっても、そうした制度が整っていればリクルーティングで有利に働き、優秀な人材を確保しやすくなります。職場全体において働き方改革=業務の見直しを行い、業務効率を向上させるチャンスでもあります。
また、今後さらに進む高齢化社会においては、介護と仕事の両立が社会問題化するのは必至。それへの対応にも繋がります。
男性育休の取得増加は
長い目で見れば得になる
男性育休の取得が進まない原因の1つに、キャリアに傷がつく心配があげられます。しかし、あと数年もすれば、きっと育休を取得する男性従業員が多数派になります。そうなれば、キャリアが傷付くことはありません。今は勇気が必要です。
もう1つの原因が収入ロス。前述のように、現行法下で保障されるのは本給の約7割。これを10割にすべくFJでも動いていますし、積水ハウスなどの一部企業は満額となるよう補填しています。
ただ、一時的に所得が下がることを恐れていてはいけません。プレパパには、育休取得のメリットにこそ目を向けて欲しい。パパにとって育休は、生まれて来てくれた我が子と濃密に触れ合う絶好のチャンスです。
ベビーが大きくなって物心がついたころ「パパは育休を取ったんだよ!」と聞いたら、きっと喜ぶはず。そうした積み重ねが、思春期の良好な関係にもつながりますし、夫婦関係の強化・良化にもつながります。
ママの負担が減ればキャリアが伸びて、世帯収入が増える可能性もあります。生活がラクになる上、リスク分散にもなりますし、パパのキャリアデザインにおける自由度がグッと増します。キャリアの傷や一時的な収入減など、人生100年時代を迎えた今、大したことではありません。男性の育休取得は、長い目で見れば絶対に得なのです。
PROFILE
安藤哲也(TETSUYA ANDO)
1962年生まれ。2男1女の父親。2006年、NPO法人ファザーリング・ジャパン(FJ)を立ち上げ代表を務める。NPO法人タイガーマスク基金代表。厚生労働省「イクメンプロジェクト」推進チーム顧問、内閣府・男女共同参画推進連携会議委員などその活動は多岐に渡る。新著は『「仕事も家庭も」世代の新・人生戦略「パパは大変」が「面白い!」に変わる本』(扶桑社)
文:川島礼二郎
FQ JAPAN VOL.57(2020-21年冬号)より転載