出生数が初の90万人割れ……少子化が進む今、パパ達は何を考えて生きるべきか?
2020/01/05
昨年末、厚生労働省による2019年の国内出生数推計で初の「90万人割れ」が発表され、大きな衝撃が走った。少子化がますます進むこれからの時代、日本のパパ達は何を考えて行動していくべきか――。NPO法人ファザーリング・ジャパン代表の安藤哲也さんが語る。
カネカはブラック企業?
大企業の男性育休
男性の産休・育休の法整備が進んでいるのは、ご存知の通り。もはや希望すれば誰もが、育休を取得できる時代になろうとしています。
ところが実際の取得率は、わずか6%……これが現実です。男性の育休取得を阻んでいるのは誰なのか? 先進的な企業では積極的に男性の育休取得を進めることで成果をあげています。
一方で遅れた企業は……これは大変。前号の香山先生のコラムで話題になった「育休から職場に復帰した直後に転勤を命じられた」と社員の妻がSNSで呟いたカネカの炎上。あっという間に社会の敵であるかのように叩かれ、株価も下落してしまいました。
実はその件の前後、私はカネカとコンタクトを取っていました。人事担当社員が「育児中の男性社員を幸せにする人事制度を作りたい」ということでした。法制度を良く勉強しているし、先進的な取り組みをしている企業の社員と交流して情報収集にも積極的でした。さあ、これから、という時に、炎上してしまったのです。
日本の大企業ではボトムアップで話を進めるのは難しい。優秀で勤勉な社員が何かを進めようとしても、管理職や経営層のどこかでボタンの掛け違いが起こると、それだけで止まってしまう。カネカはブラック企業なのではなくて、大企業病が発露したのでしょう。
カネカの炎上騒動は、大企業に対しては、良い教訓になると思っています。男性の育休取得という社会の潮流に逆行しようとしたら、株価を下げてしまった。これは経営者にとっては一大事です。今後は、よりスムーズな育休取得が進むものと思われます。
止まらない少子高齢化
その背景にあるものとは
2019年12月24日に厚生労働省が発表した人口動態統計の速報値によると、2019年の出生数は86万人。2016年に年間100万人を割り込んで大ニュースになりましたが、それからわずか3年で10万人以上も減ってしまったことになります。
これには構造的な要因があります。いわゆる団塊ジュニア世代が出産適齢期を越えてしまったこと、つまり、親となる世代の人口が減少局面に入ったことが、直接の原因として考えられています。
人口の減少は国の存続にも関わる大問題ですから、政府も手をこまねいているわけではありません。待機児童を減らす取り組みは継続的に行われていますし、直近では、幼保無償化も始まりました。詳細は内閣府が公開している「幼児教育・保育の無償化 特設ホームページ」に譲りますが、育児の経済的3負担を減らすことで親となる意欲を高めよう、という制度です。
まだ始まったばかりの制度ですので混乱も見られますが、大きな流れは育児の負担を減らす方向に進んでいます。「1人目の子供は意思、2人目は夫の協力、3人目は経済」なんていう言葉がありますが、国は意思と経済に訴えているわけです。
男性による育児参加もまた、そうした取り組みの1つです。共働きでなければ家計が回らない現代において、ママだけの力では家事と育児は到底こなせません。そこでパパの出番だ、というわけです。
男性側でも価値観の多様化が顕著に見られます。長く勤めても昇進しない、昇給しないことが増えて来た昨今、幸せを家庭や育児に見出すパパが増えてきているのです。
私は仕事柄、日本全国の地方自治体職員の方とお話をする機会があるのですが、「若手の地方公務員の間で、昇進試験の受験者が減っている」と聞きました。それもあちこちの地方自治体で、です。比較的給与が安定している地方公務員ですらコレですから、一般企業の社員の気持ちは推して知るべしでしょう。出世ではなく、仕事以外に価値を見出す従業員は、今後もより増えていくと思います。
男性社員を含めた企業の考え方が変わり、育休の取得が当たり前になれば、きっと少子化への対策にもなるはずです。
令和時代は、社会が大きく転換する時なのです。
PROFILE
安藤哲也 TETSUYA ANDO
1962年生まれ。2男1女の父親。2006年、NPO法人ファザー リング・ジャパン(FJ)を立ち上げ代表を務める。NPO法人タイガーマスク基金代表。厚生労働省「イクメンプロジェクト」推進チーム顧問、内閣府・男女共同参画推進連携会議委員などその活動は多岐に渡る。新著は『「仕事も家庭も」世代の新・人生戦略「パパは大変」が「面白い!」に変わる本』(扶桑社)
Text >> REGGY KAWASHIMA
FQ JAPAN VOL.53より転載