目をそらさない。育児と介護を考えよう。
2016/11/15
父親であると介護はいつかやらなければならないもの。そんな介護と育児の経験が互いに与えるポジティブな影響を1歳の女の子を育て、介護経験のある森島さんに伺った。
介護は、僕らパパにとっていつかやらなければいけないものですが、まずは介護経験者である森島さんが介護に関わることになった経緯を教えて下さい。
私が介護に関わることになったのは、妻側の家族で介護が行われていたからです。
妻の母方の祖父母が要介護認定を受けたのは今から10年近く前だったと聞いています。まず、妻の母が祖父母宅に週2回から3回通って介護をするようになったそうです。その後、祖父の要介護度が高くなったことで、通うだけでは十分に介護をしきれなくなり、妻の両
親が祖父母と同居をはじめました。
私が結婚したのはこの頃で、2012年末のことです。2014年に妻の実家近くに新居を構えて2人暮らしをはじめ、同じ年に娘が誕生しました。
あくまで介護を行う主体は義母でしたので、私が担ったのは限られた内容です。例えば、義理の祖父が病院に行く時に祖母と一緒に留守番をしたり、箸を自由に扱えない祖父にご飯を口まで運んだり、トイレまで一緒について行ったり。
2年前に祖父が亡くなった時、義母が泣いているのを見ました。その涙には、亡くなった悲しみだけでなく、介護をしなくて良いという状況になったことに対する安堵の気持ちもあったのではないかと私には感じられました。要介護度が低いうちは家族で引き受けることもさほど難しくはないかもしれませんが、要介護度が進んでくると次第に負担が大きくなっていくため、義母にとってはかなりの負担となっていたのではないかと思います。そんな経験を経て、仕事に限らず、介護という領域で何か自分にできることがないか探し始めました。
ご家族の介護以外ではどのようなことを?
会社で開かれている社会の課題を取り上げる「ダイバーシティ」に関する不定期の講座で、介護についての回に参加したり、地元で開かれている認知症サポーターの講座に参加したり、介護施設で1日体験介護をしたりしました。今の自分にできる範囲で介護に関する知識や経験を増やして、少しでも世の中の役に立つことができれば、と考えています。
育児と介護の経験は互いにどんな影響を与えましたか?
子供にとって祖父母や曾祖父母と会う機会が増えることは良いことだろうと思っているのですが、私が思っているよりも孫やひ孫は可愛いみたいで(笑)、父母や祖父母の心の満足度にも貢献できているのでは、と思っています。
育児って思い通りにいかなくて大変なことも多いですけど、介護を経験したことで、育児の大変さを相対化することができるようになりました。体験介護をした時の一例ですが、一緒に散歩する時間を長くしたことで介護を受けた方の体の新陳代謝が良くなって快眠できた、ということがありました。「子供の成長」という喜びが見えやすい育児と違って、介護は現状を維持するという面が強いので、介護する側がまいってしまうというネガティブなこともあると思います。でも、介護と育児はどちらも相手に良い影響を与えられるやりがいに満ちていて、介護に対してもポジティブに考えられるようになりました。
なるほど。これからの介護に対してはどうですか?
今は夫婦でお互いの時間や意識を合わせながら、送り迎えや家事育児を分担しているのですが、子供がもっと大きくなったら、育児の時間は少なくなっているはずです。今、仮に育児に1日5時間かけているとすると、そのまま介護の時間にスライドできる。つまり、育児をすることで、介護に投資する時間の準備はできているという自信が生まれました。それに、自分の両親、義理の両親が介護が必要になった時の話が自然に出てきます。介護はいきなり始まるものですが、気持ちを含めた準備をしておくことができるようになりました。
現在は、祖母の介護が続いています。認知症ではありますが、要介護度も高くなく、1人でできることがまだまだたくさんあります。祖母と一緒にいられる今の幸せを噛みしめて、育児に介護に、日々を大切に過ごそうと思っています。
森島雄平
1984年生まれ。東京都在住。夫婦共働きで1歳の女の子を育てるパパ。妻の実家の介護に関わったことから、仕事以外で介護に関する講座を受けるなど、介護に関して積極的に活動中。
※FQ JAPAN VOL.40(2016年秋号)より転載