【パパの育休】仕事への影響を抑えて1ヶ月の育休取得が可能!専門家が詳しく解説
2024/09/27
年々、認知が進んでおり、一般的なものとなりつつある男性育休。その具体的な取得状況や、今後の取得率の推移について、専門家が解説。また、取得率を向上させる上で役立つアクションも教示してもらった。
取得率は過去最大を記録
一方で取得期間に課題も
厚生労働省が発表した「令和4年度雇用均等基本調査」の結果を見ると、企業などで働く男性の育児休業の取得率は、約17%となったことがわかる。この結果について、広中さんは次のように言及する。
<男性の育児休業取得率の推移>
男性の育児休業取得率は、低い水準ながら上昇傾向にある。
出典:「令和4年度雇用均等基本調査」
「17%というのは、過去最高となる数字。年々、男性育休の取得率が上がっている点も踏まえると、日本社会で男性育休は確実に浸透しつつあるといえます」。しかし、この事実を受けて、やみくもに喜ぶことはできないという。理由は、もう1つの“数字”にある。「『令和3年度雇用均等基本調査』の結果を見ると、令和3年度に合計1ヶ月以上の育休を取得した男性は、全体の3割程度しかいないのがわかります。育休を取得した男性のおよそ半数が、2週間未満しか育休を取っていないのです」。
<男性の育児休業の取得期間>
育児休業の取得期間については、女性は9割以上が6か月以上という結果が出ているが、男性は約5割が2週間未満と、短期間の取得が中心となっている。
出典:「令和3年度雇用均等基本調査」および「育児・介護休業法の改正について」(厚生労働省)
広中さんいわく、合計1ヶ月間の育休は、比較的取りやすいという。「2022年に『育児・介護休業法』が施工され、『産後パパ育休』と呼ばれる制度が新しく設けられました。『産後パパ育休』とは、子どもの生後8週間以内に、合計4週間の育休を2回に分けて取れる制度。つまり『産後パパ育休』を活用すれば、仕事への影響を大きく抑えながら、合計1ヶ月間の育休を取ることが可能です」。
「産後パパ育休」という有用性の高い制度があるにも関わらず、合計1ヶ月以上の育休の取得者が全体の2〜3割にとどまっているのはなぜか? 広中さんは、こう解説する。
「さまざまなアンケート調査や私自身のリサーチから、育休を能動的に取得する男性はまだまだ少なく、『勤務している会社の上司に勧められたから』といった理由で育休を取得する人が多いと感じています。そういった意識が、育休を取得したとしても最低限の短い期間のみ、という現状につながっているのでは」。
企業側が育休の取得を勧める背景には、「育児・介護休業法」の改正により、労働者が1000人を超える大企業では、育休取得状況の公表が義務化されたことがある。これに加え、投資家の間で「ESG投資」が常識となりつつあるのも、企業側の育休推進に拍車をかけているそう。「環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)に配慮している企業に投資するのが、『ESG投資』。男性の育休取得率も、『ESG投資』を行う投資家から注目されるポイントとなっています」。
近い将来、男性の育休取得率が
急上昇する可能性も
前述した通り、企業などで働く男性の育児休業の取得率は、約17%をマーク。広中さんいわく、この数字から、大きな変化が起きる可能性を読み取れるという。
「アメリカの組織理論家である、ジェフリー・ムーア氏が提唱した『キャズム理論』というマーケティングに関する理論があります。この理論の中で、トレンドをいち早く取り入れる『アーリーアダプター(初期採用者)』は、市場全体の13.5%おり、トレンドに乗り遅れまいとする『アーリーマジョリティ(前期追随者)』は、市場全体の34%いるとされています。また、『アーリーマジョリティ』に受け入れられたのを機に、トレンドが急激に世間に浸透するともいわれています。この『キャズム理論』に当てはめると、男性育休の取得率は、『アーリーアダプター』の割合を超えています。すでに『アーリーマジョリティ』の間でも受け入れられ始めているので、近い将来、急激に男性育休が日本で浸透していく可能性があります」。
また、学生を中心とする若い世代の間では、男性育休の取得率は、就職先を選ぶ上で重要なチェック項目の1つになっているようだ。「学生を対象とした求人情報サイトを見ると、男性育休の取得率が高い点を、魅力の1つとしてアピールしている企業が数多く見受けられます」。若い世代にとって、テレワークや副業は当たり前のものとなりつつあり、これを導入しているかどうかが就職先を決める判断基準に。そしてテレワークや副業と同様、男性育休の取得率も企業の魅力を測るポイントになっているという。学生を中心とする若年層は、将来、子育て世代となる。「彼らが子育て世代に仲間入りする頃、男性育休の普及にさらに拍車がかかることは、容易に想像できます」と、広中さん。
<Z世代の男性育休への意識調査(2022年実施)>
全国の18歳から25歳までのZ世代の男女500人に、「産後パパ育休が10月1日から施行されるが、男性も育休を取得すべきか」という質問をしたところ、全体の35.4%が「あてはまる」、40.2%が「ややあてはまる」と回答。また、「男性も育児をするのは当たり前だと思うか」という質問に対しては、全体の約8割が「男性も育児をするのは当たり前」と回答。
出典:BIGLOBE「Z世代の仕事と育児に関する意識調査」
独自の育休制度の導入を通して
企業ブランディングも可能
今後、男性の育休取得率はおのずと高まっていく可能性が高いが、引き続き、育休取得率の向上を目的とした啓蒙活動に力を入れていくのが大切だという。「男性が育休を取りやすい雰囲気づくりをするには、企業の上層部をはじめとする“トップ”からの働きかけは必須です。男性社員に育休を取得するよう勧めるのはもちろん、企業として、男性社員の育休取得を推進している姿勢を強調するのが大切です」。
ちなみに、独自の育休制度の導入を通して、企業のブランディングをすることも可能だという。「最近では、社員が育休をとったら同僚全員に一時金を支給するという制度を導入し、メディアでも取り上げられた企業がありました。育休を取得すると、残された同僚に負担がかかるというのは、育休にまつわる問題の1つ。一時金を支給する制度は、こうした問題を軽減する点で優れており、画期的です。また、このユニークな制度の導入によって、社内だけでなく世間に対しても企業の魅力をアピールできたはずです」。現行の育休制度の特徴や問題点を把握し、独自の育休制度を設けることで、男性育休のさらなる普及に貢献できるばかりでなく、企業の魅力も向上させられるはずだ。
Pick up!
「定型パターンからの選択方式」を採用
ひろぎんホールディングスの男性育休方針
原則として、以下①②のいずれか、またはそれに準じた取得を推進
①1ヶ月以上の育児休業取得(分割可)
②5日以上の育児休業取得+1ヶ月以上の短時間勤務制度利用
広島の地域総合サービスグループ「ひろぎんホールディングス」は、独自の育休制度を導入している企業の一つ。同社では「男性が育児を目的に早く帰宅する風景を当たり前にしたい」という考えのもと、短時間勤務の取得も盛り込んだ複数の「推奨取得パターン」を作成。短時間勤務を併用するパターンを用意することで、長期の育児休業の取得が難しい人も育児する時間を確保できるように。また、育休の取得計画書である「出産予定報告」上の育休取得率は100%になった。
教えてくれた人
広中秀俊さん
大学卒業後、ミサワホーム入社。2児の父親であり、厚生労働省から「イクメンの星」に認定される。「育休で日本を元気に、世界を平和にする」をミッションに、男性育休が当たり前になる世の中を目指し、自治体や企業向けに研修やコンサルを展開する。2024年からは東京都教育委員会にて、子どものICT教育を推進。「育Qドットコム株式会社」(19-q.com)代表取締役社長。
文:緒方佳子
FQ JAPAN VOL.71(2024年夏号)より転載