男性育休取得は離婚回避につながる?経済学者・山口慎太郎が語る夫婦円満の経済的メリット
2023/01/02
結婚をした当初は、仲が良かった人も多いはず。しかし、離婚を回避し関係を良好に保ち続けるのは、気になる課題の一つ。円満な夫婦関係がもたらす経済的なメリットを経済学者・山口慎太郎さんに聞いてみた。
仕事を続ける女性が増え
夫婦の役割は多様に変化
夫婦にとって、離婚を回避し関係を良好に保つことは、気になる課題のひとつです。離婚の原因には、金銭問題や経済的な事情も含まれています。離婚をせず円満な夫婦関係を築くために、そもそも結婚による経済的メリットを見ていきましょう。
まず挙げられるのは、“規模の経済”という利点です。同居によって生活費を抑えることができ、快適な暮らしが手に入りやすくなります。また、古くから “分業の利益”も挙げられます。結婚することで、異なる得意分野を活かした協力関係を築くことができます。以前は、結婚後に女性が家庭に入って子育てや家事を担い、男性が外で働いて賃金を得る役割が一般的でした。当時は男性の方が高い収入を得られる時代であり、豊かな生活を享受するための役割だったと言えます。しかし近年、共働きの夫婦が増え、男女の給与格差も少なくなってきていることで、夫婦の役割は多様になっています。
父親の育児への関わりが
離婚率に関係する
厚生労働省の『人口動態調査』によると、離婚までの時期として、「5年未満」が全体の32.5%(2020年)を占めていることが判明しています。これは、結婚して初めてお互いの価値観や金銭感覚を知るためであり、“悪いサプライズ”が重なると離婚につながります。
そして、離婚には「子育て」も関わりがあります。子供の誕生によって、自由な時間や夫婦の時間が減ることや、お金の使い方が変わること、妻側に育児の負担が偏りすぎてしまうなど、家庭にさまざまな変化が起こります。子供の誕生はハッピーなことではありますが、同時に夫婦関係が不安定になりやすい危険な時期でもあるのです。
父親の育児参加のカギは、育児休暇の取得です。アイスランドでは2001年に「父親向け育休制度」を導入しており、その結果男性の育休取得率は導入前の3%から33%まで増加しました。また、離婚率への影響に関する研究では、出産5年後の離婚率が23%だったのに対し制度導入後には17%に、出産10年後では33%から29%に減少しています。
この結果から、父親の育休取得と育児参加は、先々の離婚危機の回避につながると言えます。日本でも10月の育児休業法改正により、男性育休の取得率が向上することを願っています。
同居期間別離婚率
出典:2020年に発表された厚生労働省人口動態統計より編集部にて作成
父親の育児休暇取得と離婚率への影響(アイスランド)
参考:Arna Olafsson, Herdis Steingrimsdottir, How Does Daddy at Home Affect Marital Stability?, The Economic Journal, Volume 130, Issue 629, July 2020, Pages 1471–1500,
円満な夫婦関係が
家族の未来への投資につながる
円満な夫婦関係には、経済的なメリットも考えられます。それは「長期的な投資」を行いやすくなることです。例えば、家や車の購入を検討したり、子供をもう1人持ちたいと考えたり、子供との時間を意識的に設けたり……。先々の家族のことを考えた行動が取れるようになります。夫婦関係にリスクがなく良好な状態であると、夫婦や家族の未来への投資に積極的になれるのです。
子育てには大変な場面もありますが、負担を長い期間で平準化させるという意識を持って、育児サービスを活用したり親や兄弟に助けてもらうなど、罪悪感や抵抗感を抱え込まずに負担を減らしていきましょう。子供の成長に合わせて時間やお金の使い方をアップデートしていくことが、夫婦関係を円満に保つ秘訣です。
まとめ
●パパの育児参加は離婚率を軽減し、夫婦円満のキーポイントに
●育児期の経済的負担は人生でならしていく(平準化)意識を持つ
PROFILE
山口慎太郎
東京大学経済学研究科教授。専門は労働市場を分析する「労働経済学」と、結婚・出産・子育てなどを経済学的手法で研究する「家族の経済学」。著書に『「家族の幸せ」の経済学』(光文社新書)『子育て支援の経済学』(日本評論社)など。1児の父。
文:鈴木有子
FQ JAPAN VOL.64(2022年秋号)より転載