子供の「なぜ?」はクリエイティブ思考の合図!デジタルデバイスを活用した創造力の育て方とは
2022/12/12
0から1を生み出す発想力や創造性を育てる「クリエイティブ思考」。子供たちに必要とされる能力のひとつとして注目を集めているが、どういったものなのか。アドビ株式会社CMOの里村明洋さんにお話を伺った。
子供の「なぜ?」はクリエイティブ思考の合図?
我が家には中1と小4の2人の息子がいます。とにかくYouTubeが大好きで、この間、「ユーチューバーって、どれくらいお金を稼げるの?」という質問がありました。
みなさんなら、どう答えますか?
「なぜ?」という疑問は、クリエイティブ思考が頭の中で動き始めたサインです。私はこれを絶好のチャンスと捉え、「じゃあ、iPadで動画を撮って、自分で編集してみたら? そしたらユーチューバーになれるし、お金がいくら稼げるかわかるよ」と答えました。普段なにげなく見ている1本の動画がアップされるまで、どんな工程を経ているのか。何が必要で、どんなスキルを求められるのか。それをひと通り学ぶ体験になります。
子供が発したシグナル(合図)を逃さずキャッチして、行動を促すことで、子供の挑戦のハードルが下がります。頭の中だけの思考(VR)で終わらずに、実際にアクションに移す。これがクリエイティブ思考には重要です。そういう意味で、デジタルデバイスは試行錯誤をサポートするツールになります。
わが家の子供たちの挑戦はというと、2人で遊びながら撮影から編集までキャッキャとやって、完成には至りませんでしたが、やったことすべてが彼らの宝です。「YouTubeの動画って、難しいんだな」「簡単そうだけど全然できない」という他者共感にもつながり、いずれカタチになった暁には、クリエイティブ・コンフィデンス(創造する自信)となり、また作りたいという循環が生まれます。
あともう1つ。挑戦しやすくなる環境作りとしておすすめなのは、親も一緒にやること。子供はなんだかんだ言っても、親と一緒にやるのが大好きです。それが、楽しく挑戦する1つの条件だと思っています。だから僕はいつでも本気。バスケの3on3なんて、超スパルタです。僕も学生時代バスケをやってましたから、負けられません(笑)
子供が壁にぶつかったらどうする?
父親としてできること
上の子が中学生になって、さまざまな局面で壁にぶつかることが増えてきました。創意工夫だけではどうしようもできない部分も多々あり、特に勉強では日々、苦労しています。一方で僕も同じように、わからないことや解決できないことがいっぱいあります。「できないこと」があるのは悪いことではありません。「できない」「わからない」から勉強する。だから僕も勉強をしています。
僕はいま、毎週土曜日の朝8時から10時まで英会話教室に通っているんです。たしかに、夜にお酒を飲んだ翌日に、朝5時に起きて授業の準備をするのは正直キツい! でも、子供たちに「パパも仕事で英語のミーティングをしているけど、もっともっと英語が上手になりたい」と話し、ことあるごとに「英語のレベルが上ってきたぞ」と息子に自分の進捗を報告しています。
なぜこんなふうに頑張れるのか? それは自分の父親の背中を見て育ったからです。実家が魚屋で、朝は早いし、夜は遅い。父は遅い時間に帰ってきて遅い夕食をとり、翌日の仕入れの準備を夜中までして、早朝出かけて行きました。そんな姿を知っているので、自分がしんどくなった時、「うちの親父よりかはしんどくないな」と頑張れるんです。子供はいつも親を見ています。だから自分が頑張らないと。子供が勉強で苦しんでいるなら、自分も勉強します。親父の背中が今の自分を支えてくれています。
「リアルな体験部門」を担当する
妻へ心から感謝
デジタルデバイスを子供たちに渡していると先ほどお話ししましたが、「子供たちがリアルな体験をスルーしてしまう危険性もあるのでは?」と指摘されることがあります。それについては妻にとても感謝しています。デジタルデバイスで出てきた子供たちの興味・関心を「実際に手に触れる体験」へと繋ぐ担当を妻がしてくれています。場所であったり、モノ、人、自然など、僕抜きでよく子供たちと旅行に出かけています(笑)。
デジタルデバイスはきっかけのひとつにすぎません。そこから生まれた「なぜ?」に対してアクションを起こし、実際に行ってみる。五感を使って、触れてみる。味わってみる。仮想空間だけではわからないリアルな体験が組み合わさって初めて、クリエイティブ思考の土壌が作られると感じています。
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プロフィール
アドビ株式会社 常務執行役員 兼 CMO(最高マーケティング責任者)
里村 明洋 氏
新卒でP&Gに入社し、営業からマーケティングまで幅広く携わる。Googleに転職後はマーケティングを統括。2019年にアドビに入社し、2021年5月より現職。2児の父。
取材・文/脇谷美佳子