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涙を見せない男たちが号泣するのは、”初めて我が子を腕に抱くとき”

男だって泣かずにはいられないときがある。初めて我が子を腕に抱くとき、それは普段、人前で涙を見せない男たちがまさに号泣する瞬間なのだ。連載育児小説「野郎のための妊娠ガイド」第9話。

前記事:「野郎のための妊娠ガイド」第8話はコチラ

分娩後の
シャワー・タイム

長く苦しい出産がようやく終了して、ホッとするのも束の間、彼女は助産婦さんに、シャワーを浴びるように言われるんだ。僕らにはどうも酷に思えるけどね。というのも、もし自分だったら、クラクラして立ち上がることなんてできそうもないし、疲れとだるさでシャワーなんてどうでもいいよとなってしまうはず。

でも、よく考えてみれば、分娩の間、ありとあらゆる体液が体の中から放出されるのだから無理もない。汗や鼻水、唾液なんかはもとより、血や粘液や排泄物、胎児の体を覆っていた胎脂なんかが体に付いたままでいるより、ちょっと数分頑張ってシャワーで流す方がずっといいからね。

出産
—そこから生まれた大きなもの

世の中いつも自然にことが進むとは限らない。例えば分娩台からシャワー・ルームまでの移動はさながら50年代のB級ホラー映画のワンシーンみたいだ。彼女の状態を考えれば当然なのだが、彼女は、ふらつきながら一歩一歩ぎこちない足取り。

しかし、一旦視線を落とせば、さっきまで真っ白だったはずの床のタイルに凄まじい血の跡、そして壁には、ふらつく体を支えるためについた血みどろの手の跡がくっきりと残されている。出産の場面ではかろうじて失神しなかった君も、この光景には気絶したくなるかも。

彼女自身も、出産直後のシャワーはしんどかったけど、後になれば、なんだかんだ無理してよかったと思うんじゃないかな。シャワーで洗い流せばすっきりするし、不思議と気持ちも安らいでくるだろ。何より、分娩直後のベトベトの状態で肌着を着るよりは、衛生面だけじゃなくて精神的にもいい効果があるだろうしね。

一方、君は分娩直後からシャワーで彼女が不在の間、赤ちゃんを独り占めで抱くことができるから、実はそれほど彼女に対して親身になって考えていないというのが実情かな。シャワーが長ければ長いほどその分長く赤ちゃんを独占できるからね。ましてや、帝王切開の場合は、この父子の時間がさらに長くなるんだ。

初めて我が子を
抱く瞬間

これこそ、彼女が妊娠したと判明したときから、ずっと待ち焦がれていた瞬間だ。当時は妊娠について、動揺して気持ちに確信が持てないでいたとしても、どんな子が生まれてくるのだろうかと、心底、知りたかったはずだ。髪の毛は、目は何色だろう、自分に似てるかな、それともママ似かな、なんて、いつも考えながら9ヶ月も過ごしてきて、今まさに、その子が毛布に包まれて目の前に差し出されている。この決定的真実の瞬間は、なんて言うか、本当に言葉では言い表せなくて、何を言っても大げさで月並みな表現になってしまうんだけれど、どんなことよりも超越しちゃっているんだ。

僕が娘のアリア誕生の瞬間を見たときに真っ先に頭に浮かんだのは、「あれっ、女の子!?」だった。女の子だからがっかりしたわけではなくて、ただびっくりして信じられなかった。その理由の1つは、なぜか僕は生まれてくる子は男の子だと120%確信していたということ、そしてもう1つの理由は、目の前で生まれ、泣き声を上げている本物の女の子の赤ちゃんが、僕の生命の半分を授っているという驚き。

初めて我が子を胸に抱くそのとき、人間としての強さと弱さが見えてくる。我が子を抱くということは、これまでにないくらい大きな責任を負い、もうバカをやってはいられないということだ。自分はまったく無意味で、「この子こそすべてだ」と思えるかもしれない。生まれたばかりの子を抱くというのは、つまりは身がすくむような恐怖でありながら、奮い立つような得も言われぬ感激でもあるのだ。

そう、出産は人生の最大の矛盾の1つ。子供を持つというこの世で最も自然で平凡な行いが、同時に、いかなるものとも比較にならない深遠で特別なものとなる。僕が言っていることを「ちょっと大げさだな」と感じる人もいると思うけど、実際自分がその瞬間を迎えたとき、きっと実感してもらえると思うんだ。「僕の人生は何かが欠けている」と感じていた君も、この瞬間を経験したらもうそんな風には思わなくなるはずさ。

赤ちゃんを抱くことに対する恐怖とか泣き止まなかったらどうしようとかいう不安が、この束の間のDADタイムでは魔法みたいに消えてなくなる。赤ちゃんを抱いたまま立ったり座ったりすることが自然にできるようにすらなるだろう。ベテランの父親なら「そんなの当たり前だよ」と笑うかもしれないけど、実際に自分が経験するまでは、「あんなこと自分は出来るんだろうか……」と心配だったんだよね。

 

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