子は育てるものか、育つものか?”「勝ち組」は情けない存在”の真意とは
2018/08/07
社会のなかでの失敗経験が
子供の主体性を育む
人は集団の中で子育てを行う生き物だ。クマのように母子がマンツーマンで過ごす種とはまったく違う。集団の中で反面教師も含めたさまざまな人と触れ合い、そして揉まれることで、子供は多くのことを学ぶ。その間、他人を傷つけたり、反対に傷つけられたり、いろいろ失敗も経験するだろう。
しかし、こうした失敗こそ、子供の血肉となる。主体性を持ちつつ他人とも共感できる人間、点数に依拠しない本当の自信を持つ人間へと育って行けるのだ。
「いい学校に入れて、いいお友達と付き合わせれば、子は勝ち組になれる」と考えるのは、本当に勝った経験を持たない人だろう。多様な人間と触れ合い失敗することなくして、人間の成長はない。お受験エリートコースを進ませるほど、多様な人々との交流経験や失敗経験にも乏しい人間に育ってしまう。
最近、女性記者を相手にセクハラをした某官僚や高級車でライダーを煽り、怪我を負わせた若手医師のニュースが世間を賑わせたが、彼らはいい例だ。他者への共感がなく、成績に関係ない本当の自信を得られていないのである。
そもそも「勝ち組」なるものは、代わりに負けてくれる人がいないと成り立たない、情けない存在だ。そうではなく、自分の生来のものを活かせる場を社会の中で見つけることこそ本当の人生の勝利、誰も敗者にならない勝利なのである。
PROFILE
藻谷 浩介 MOTANI KOUSUKE
株式会社日本総合研究所主席研究員。地域エコノミストとして地域の特性を多面的に把握し、地域振興について全国で講演や面談を実施。自治体や企業にアドバイス、コンサルティングを行っている。主な著書に、『観光立国の正体』(新潮新書)、『日本の大問題』(中央公論社)『里山資本主義』(KADOKAWA)など著書多数。
Text >> YOSHIKO OGATA
FQ JAPAN VOL.47より転載