香山リカ先生に聞く!育休取得率が上がらないワケ
2016/04/12
「育休制度があっても利用しにくい」というのが多くのパパの本音では? 国の施策も次第に充実してきてはいるものの、まだまだ男性の育休取得は一般的とは言いがたいのが現状だ。
育休経験がない上司は
その必要性にピンとこない
ここのところ男性の育休が話題に上がることが増えましたね。その是非とは違うところで盛り上がっている部分もあるけれど、男性の育休取得はどんどん進めてほしいと思います。妻の育児負担を軽減し、仕事を応援する有意義なものですから。
私はいくつかの企業の産業医として会社員のメンタルヘルス改善のお手伝いをしているのですが、「週1回はノー残業デーを!」などと提案しても、トップの方が「うーん……」と後ろ向きだったりするんですよね。
男性の育休にしても、上の人たちが経験したことがないから、「私の頃はなかった」と言いたくなってしまうんだと思います。なんとなくその必要性は感じている人でも、本当の意味で理解することはできないものなんですよ。
じゃあ、どうすればいいのか。理詰めで説明するよりも、損得の話をしたほうが響くようです。「育休取得率の高い企業のほうが利益が伸びている」とか、「意識の高い学生が集まる」とか。
もしくは、「フレキシブルな会社が生き残る」とかそういう話ですね。男性の育休取得者が出た企業に対する助成金制度も設けられるそうですが、それを利用するのもいいと思います。
育休を取得することで企業にもお金が入ってくるわけだから、育休を取りたいという話がしやすくなるんじゃないでしょうか。単純な精神論とか「べき論」で話をしていても、進まない問題もあります。メリットを明示することも必要なんです。
育休は義務化されてないから、どうしても後回しにされがちですが、まとまった休暇を計画的に取得できるのは大切なこと。出産や育児が控えていない社員も、メリットを感じるものなんですよ。何かあったときに休めるというのは安心材料になりますからね。
「昔は……」で始まる美談が
育児中の夫婦を追い詰める
育休推進の阻害要因の一つは、「昔はそんなのがなかったけど、苦労して育てた」という声。自己犠牲、家族の絆、母性などを絡めた美談が、「生きにくさ」につながるのは、他の場面でもあると思います。
例えば、ダブルケアの問題。今、第1子の出産年齢が上がり、親の介護と育児が重なるケースが増えてきています。育児と介護を同時にするなんて至難のわざ。夫婦で力を合わせても大変だと思います。介護休暇でも、介護保険でも、利用できるものは何でも使い、まわりの力もどんどん借りてほしいと思います。
育児をしながら要介護の親に甲斐甲斐しく接するというのは、傍から見ると美しい姿かもしれません。でも、一歩間違えば破たんします。過労で倒れるとかね。
日本の家庭は、何か問題を抱えていても、誰かに頼るのを遠慮する傾向があるような気がします。困ったときは、ヘルパーさんとか、ベビーシッターさんとかの力を借りるようにすると、ストレスも軽減されるし、家族みんなにとっていいんじゃないでしょうか。
その様子にケチをつける昔気質の人がいるかもしれないけど、まわりの目を気にしても苦しくなるだけ。遠慮している場合じゃないんですよ。
香山リカ RIKA KAYAMA東京医科大卒。精神科医。豊富な臨床経験を活かして、現代人の心の問題を中心に、新聞や雑誌など様々なメディアで発言を続けている。
●「香山リカ先生に聞く!」記事一覧
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Text » TAKESHI TOYAMA
FQ JAPAN VOL.38(2016年春号)より転載