“親バカ”デヴィッド・ベッカム「サッカーよりも家族が大切」
2013/08/30
世界有数のフットボーラー、デヴィッド・ベッカム。彼は今年、世界一のクラブチームを後にして、新しい舞台にアメリカを“ 選択”した。世界有数のスーパーDADが、サッカー後進国を選んだ本当の理由とは?限りない富と名声を手にしても、さらに彼が求めたものとは?
DAD・ベッカムの
華麗なるサイドチェンジ
日本野球界の至宝・松坂大輔投手が、60億円という移籍金でアメリカンドリームを手中にしたことは記憶に新しい。ほぼ時を同じくして、日本が誇るナンバーワン投手をはるかに超える「300億円」という契約金で渡米を決意した男がいた。
彼の名はヨーロッパサッカー界の貴公子・デヴィッド・ベッカム。サッカーファンならずとも、その名を知らぬ者はいないだろう。彼はサッカークラブチーム世界最高峰のスター集団・スペインのレアルマドリード契約切れ後の移籍先として、アメリカのMLS(メジャーリーグ・サッカー)の下位球団ロスアンゼルス・ギャラクシーを選択したのだ。噂では、セリエAのACミランをはじめ、複数のヨーロッパ強豪チームから誘いがあったとも言われている。
昨年にドイツで開催されたワールドカップで、ブラッドはすっかりサッカーにハマってしまった。それはもう、第一の養子・マドックス君を、「デビッド・ベッカム・アカデミー」に入学させたほどの熱の入れようだ。「サッカーは世界を1つにするよね。本当の意味でのワールド・スポーツだ」。彼はサッカーというスポーツに、民族間、国家間にさらなる平等を望む願いの象徴を見たようだ。
つまり彼は、それらをすべて蹴ってサッカー後進国アメリカ(ヨーロッパと比較すると、こう言わざるを得ない)に白羽の矢を立てたというのだ。
「欧州を去ったことに悔いはないし、フットボールをサッカーと呼ぶことに抵抗もない。僕には、新しい挑戦が必要だったから」。
7月14日の入団会見で5000人のサポーターを前にした彼は、力強くこう語った。が、実は彼にとってそれは、苦渋の決断以外の何物でもなかった。
移籍を決断した1月当時は、ちょうど、レアルのカペッロ監督の下で出場機会が激減した頃だ。彼はサッカー強豪国・イングランドを代表するサッカー選手でありながら、ベンチを温める屈辱の日々が続いていた。
僕の夢はかなった。
いつも家族のそばにいられるからね
「ベッカムだって衰えは否めない。お金は十分にあるんだし、そろそろ(引退)じゃないか?」「マンチェスターに戻ってくればいいじゃないか」。
――心ないファンたちは、無責任な憶測を口にする。それでもベッカムはマドリードにこだわった。その理由はこうだ。「マドリードの街も、レアルも大好きさ。子供たちにはマドリードで教育を受けさせたいと思っているんだ。そのために、現役引退後も数年間はここで生活するつもりだよ」。
彼は常々「サッカーよりも家族が大切」と話し、ピッチへのこだわりは後回しにしてきた。しかし試合に出られない可能性の高い強豪チームにしがみつくよりも、試合に出てプレイヤーとしての力を発揮したい……ついには「選手としての思いが勝った」と。この決断を素直に受け取ればこうなる。しかし、果たしてそれだけなのだろうか。
その問いに対しては、ロスアンゼルス・ギャラクシーの入団会見で彼が語ったこの言葉が答えを暗示している。「僕の夢はかなった。なぜならいつも家族のそばにいられるからね」。実は1月の決断後、レアルにおける彼のプレイは冴え渡り、“天敵”カッペロ監督の信頼をほぼ完璧に取り戻していた。
皮肉なことに、数ヶ月で退団するベッカムはレアルになくてはならない存在となっていた。この快刀乱麻の活躍によって、一時はベッカムを手放す決意をしたはずのチームも、かなりの高待遇で“引き戻し”を提案するという事態に。しかし、それでもベッカムはこの誘いになびくことはなかった。あれだけ「家族のため」とこだわったマドリードの環境を蹴ってまで、ロスを選択した本当の理由はわからない。
しかし彼の言葉をそのまま受け取れば、ロスならば「いつも家族のそばにいられる」のだという。ここからは想像の域を出ないが、彼にとってロスという土地は、彼が最も大切にする「家族」の“バランス”を取れる地だったのではないか。
サッカープレイヤーとして、自らが確実に「ピッチに立てる」。「自分のため」――これも立派な理由のひとつだろう。MLSは他国への遠征は少なく、その分「家族のそばにいられる」というのもひとつ。次に、子供にとっての、ロスアンゼルスの環境のよさ。
ベッカムに「教育を受けさせたい」とまで言わしめたマドリードと比肩するかどうかはわからないが、「子供のため」は“親バカ”ベッカムにとっては大事な要素だ。そして最後に、妻ヴィクトリアのため。ファッションビジネス界でも活躍している彼女にとってロスは非常に好都合な場所であるらしい、とのこと。
自分、子供、妻――家族を構成する、この重要な3要素がバランスよく交わった位置に、たまたまロスがあった、というわけだ。
ピッチ上のベッカムは、パスひとつで試合の流れを大きく変えてしまうという。今回の移籍劇も、家族というフィールドにおける「DAD・ベッカム」が仕掛けた、華麗なるサイドチェンジだった……とは言い過ぎだろうか。