ペットが教育に役立つのは間違い?専門家が語るペットと子育ての本当の関係性
2024/04/25
ペットを家族の一員として暮らしている家庭は珍しくない。身近な動物との関わりが幸福感の向上に寄与することは、容易に想像できる。では、子育て世帯にとってペットを飼うことにはどのような影響があるのか、改めて考えたい。
ペットとの関わりが
人間にもたらすものとは
新型コロナウイルスがもたらした自宅時間に、癒やしを求めてペットを飼う家庭が急増した。その勢力も落ち着きを見せたとはいえ、依然ペットブームという状況は誰もが認めるところだろう。改めて、子育て世帯にとってのペットとの関わりについて考えてみたい。
ペットと子育ては相性が良いのだろうか。ペットが家族にもたらすメリットや課題、ペットを取り巻く最新事情も解説したい。東京農業大学教授で、動物介在教育・療法学会の理事長を務める土田あさみ先生にお話を伺った。
「欧米では、ペットとの関わりが人間の精神的な健康に良い影響を与えることが古くから認知されてきました。盲犬や介在犬など、特別な役割を果たす動物だけでなく、一般的なペットも人間のストレスを軽減したり、自己肯定感を高めたりしてくれます。日本でも、2000年代以降くらいから、教育的・精神的な理由でペットを飼う方が増えてきました」。
とはいえ、欧米と日本では、パパ・ママの働き方をはじめとした社会構造の違いや、土地の広さなどの物理的な環境の違いもある。日本の子育て世帯に合ったペットとの関わり方を考える必要がありそうだ。
ペットが子どもの情操を育む
というのは大きな間違い!?
子どもの情操教育において、ペットの存在が大きな助けとなるのは間違いないだろう。ペットという別の生き物に興味を持ち、一緒に遊んだり世話をしたりすることは、愛情や思いやりを学んだり、責任感や協調性を育んでくれる。
しかし、子育て世帯がペットを迎えるタイミングには注意も必要だという。
土田先生によると、「ペットを迎え入れるならば、子どもの理解力がある程度育ってからがベスト」という。米国のシェルターでは保護動物の譲渡先に幼児がいることはマイナス要素になるという。
分別のつかない子どもの行動は、ペットにとってストレスになりかねない。「身の回りのことがある程度1人でできるようになってからが良い」とのこと。
また、既にペットがいる家庭に赤ちゃんが生まれた時も、注意が必要だ。「ペットが、生まれてきた赤ちゃんにジェラシーを感じることもある」という。
「兄弟姉妹との関わりと同様に、ペットにも平等の距離感が大事」と土田先生。ペットは生き物であり、子どもの情操教育のために常に都合よく振る舞ってくれるとは限らない。親子でペットを思いやって関わりながら、ともに成長していくという意識が大切だ。
「好き」と「コスト」を考慮して
責任を持って飼えるペットを
子育て世帯でペットを飼うなら、どの動物がよいのだろうか。
ペットの健康面を考慮すれば、獣医療の発達している犬や猫が安心だ。近年人気なのがウサギで、鳴くことがないので音への心配もなくウサギ自身や便はほとんど臭わない。
だが実は気が強く噛む個体もおり、犬や猫より医療費がかさむ場合も。インコなど小鳥は比較的飼いやすいペットだが、ラブバードと呼ばれる種類は愛情をかけないと問題行動を起こすこともある。
子育てとペットの飼育を両立させるには、経済的な余裕と時間的な余裕が不可欠。一般社団法人ペットフード協会の「令和5年全国犬猫飼育実態調査」によれば、犬の生涯必要経費の平均は約245 万円となっている。猫の生涯必要経費の平均は約150万円ほど。飼育経費は年を追うごとに増加の傾向にあるということも考慮しておきたい。
いつかやってくるその時のために
心がけておきたいこと
ペット飼育で障壁となるのがアレルギーだ。「普段から換気や掃除などの対策を行うことが重要ですが、アレルギーが発症すると手の打ちようがありません。獣医師でもアレルギーになる人がおり、臨床から外れることもあります」と土田先生。もしもペットを飼えなくなったら、里親を探すことも考える必要がある。
ペットの「死」からも逃れることはできない。「ペットは人間がお世話しないと生きていけないこと、そしていつか必ず死が訪れることをきちんと子どもに説明することが大事」だと土田先生は力説する。
ペットの死は子どもにも大人にも非常に辛いもの。ペットとの距離感を適切に保ち、依存しすぎないことも重要だ。
ただ、近年は食事情や住環境の進歩もあり、犬だと約15年、猫ならば約20年とされてきたペットの寿命は伸びていく傾向にある。パパママにとっては、子どもが巣立った後もペットと関わっていく必要がある。それは豊かな生きがいにもなる反面、身体能力の衰えたペットの介護問題もある。最後まで責任を持ってお世話する心構えが必要だ。
教えてくれた人
土田あさみさん
東京農業大学農学部デザイン農学科教授。特定非営利活動法人動物介在教育・療法学会理事長。日本獣医畜産(現日本獣医生命科学)大学獣医学科を卒業後、動物専用ワクチンのメーカーに勤務。退職後、学位を取得し医療技術専門学校の非常勤講師を経て、現在に至る。
文/木村悦子
FQ JAPAN VOL70(2024年春号)より転載