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インタビュー

「水曜どうでしょう」ディレクター・藤村忠寿さんが腹を割って語る!仕事と子育て

2023年10月に行われたFQJAPANと新聞協会のコラボイベント。「水曜どうでしょう」 のチーフディレクター・藤村忠寿さんをゲストに招き、働く親の悩みに寄り添うアドバイスを本音で語っていただきました。その模様を抜粋してお届けします。

 

 

嫌な上司と同じことを
子どもにしていないか

――多くの働く親にとって、仕事と子育ての両立は悩みのひとつですが、藤村さんはどんなことを意識していましたか?

テレビの世界には、「家庭の話は持ち込まない」という雰囲気があるけど、「水曜どうでしょう」の制作陣はそうした風潮を変えたいと思ってた。だから、「今日は午後から娘とプールに行くから、午前中にロケを終えるぞ」と、あえて番組中で明言して、番組に“家庭臭”を持ち込んだ。あと、子どもの運動会は、ロケの予定を入れないようにして、必ず参加したね。だって見ていて楽しいじゃない。義務感とかじゃなく、純粋に楽しみだったから、進んで見に行ってたよ。

―― 日々の子どもとのコミュニケーションでは、どのようなことに気をつけていましたか?

楽しそうに帰宅するのを意識してたね。明るい表情で「いや〜、今日も面白かった!」って帰ってくれば、子どもは必ず「何があったの?」と抱きついてきたよ。それに父親が会社から楽しそうに帰ってきたら、子どもも「私も早く社会に出たい」って思うでしょ。こっちも、子どもにはいずれは自立してほしいから、「早く社会に出たい」って思ってくれたらお互いハッピーだよね。
 
30代の頃は若かったから、子どもを叱ることもあった。「子どもの教育のために叱っている」という人がいるけど、これはもう親として終わってる。俺も自分の気持ちを収めるために怒っているのがわかっていたから、叱った後は反省しかなかったよね。
 
目についたことを「なんでできないの?ちゃんとやって!」と注意するのは、親にとってはすごくラク。でもそれって職場にいる嫌な上司と変わらないよね。上司と同じように、目上だっていう特権を振りかざして子どもを叱っているんだから。子どもに対して嫌な上司と同じことをしてないか、考えた方がいいよ。
 
子どもは甘やかしたっていいと思う。子どもを褒めて甘やかすのって、観察眼や忍耐が必要だから、実は難しいことなんだよね。相手が子どもであっても、人対人で向き合っていくべきだと思うよ。

――子どもが成長するにつれて親子のコミュニケーションはどう変わりましたか?

子どもが小学校の高学年にもなれば、親と話さなくなるっていうのは当たり前だよね。思春期だし。自分の小学校や中学校時代を思い返せば、親を完全に無視していた時期もあった。ただ、今考えるとわかるけど、反抗していたのは、家族への不安やいら立ちが強かったから。俺の両親はあまり仲が良くなくて、当時の俺にとって家庭は安心できる場所じゃなかった。不安定な家庭環境が、反抗的な態度につながったんだと思う。
 
でも、俺の子どもたちに反抗期らしい態度はなかった。子どもが大きくなったら一緒に飯を食わなくなったし、話す機会も減ったけど、だからといってコミュニケーションがないわけじゃなかったし。多分、うちは子どもにとって安心できる場所だったんだろうな。子どもとのコミュニケーションの量を増やすよりも、奥さんとけんかしたり子どもを叱ったりするのを減らして、子どもに安心感を与えてやるのが大事だと思う。

「楽しく仕事」がモットー
想定外をラッキーに転換!


仕事と子育てについて持論を語る藤村忠寿さん(右)。左は林憂平FQ JAPAN 編集長= 2023年 10月28日、横浜市のニュースパーク(日本新聞博物館)で

――子育て世代は将来への不安からこのまま今の仕事を続けていいのかなと考える人が多いようですが、仕事にやりがいを見いだすためのポイントはありますか?

30代は、与えられる仕事が多くて、「どうすれば効率的に仕事をこなせるか?」ということばかり考えがち。安直に仕事を引き受けて、苦しむ人も多いよね。そうじゃなくて、仕事をどうやって楽しくやるかを考えた方がいい。俺は「どうすればもっと楽しく、ラクに仕事できるか」って、いつも一番に考えてるよ。与えられた仕事をただ指示通りにこなしていたって、楽しくないじゃない!
 
「水曜どうでしょう」はハプニング待ちの番組。ハプニングが起きたら、むしろ「よし!」となる。こういう番組に関わったのは、良い経験だった。想定外の出来事だって手段によっては楽しいことに変えられると知っておくだけでも、気持ちが楽になるんじゃないかな。

―― 以前と比べ、働き方が多様化した昨今は、転職も、選択肢のひとつにしたほうがいいのでしょうか?

バブル経済が崩壊してから、給料がガンと下がって、偏差値の高い大学を出て、安定した会社に勤めれば安泰ってわけではなくなったよね。今や終身雇用なんて会社は約束してくれない。だから、今の会社を辞めるっていう選択はありだと思うよ。だけど辞めるなら、自分の好きなこととかやりたいことを明確にするのが大事だと思う。 今の時代、お金のために仕事するっていう考え方は、もう通用しないよね。楽しく仕事するっていうのが、一番大事なんじゃないかな。だって会社や社会の仕組みを信用するなんて、もはや無理な話。賃金が安くても楽しく働ける仕事を選んだ方がいいよね。

―― 藤村さんの著書のタイトル「週休3日宣言」も印象的です。

新型コロナウイルスが蔓延して、会社に行かなくても仕事はどうにかなるってみんな気づいちゃった。多くの人が週休2日だと思うけどそれじゃ足りないと思う。ちょっと遊びに行ったら、土日なんてあっという間に終わっちゃうんだもん。休息のための休みとは別に、人間として生きる力をつけるための休みがあと1日くらいあってもいいと思う。運動するでもいいし、畑で野菜を育ててみるでもいい。こんな思いを本に込めた。
 
俺は以前、「水曜どうでしょう」の企画で森に家を建てたことがあるんだけど、これがすごく楽しかった。3か月くらい、森の中の家に住みながら草刈りとかしてただけなんだけど。人間力をつけるための時間は大事だし、楽しいもんだよ。

 

 

情報が幅広く脚色がない
新聞って「ちょうどいい」


―― 番組の企画を練るには、情報収集が大切ですよね。日頃、どのように情報を得ていますか?

俺の情報源は、ほぼ新聞。毎朝1時間くらいかけて読んでる。新聞は、スポーツから政治まで満遍なく情報を扱っている。自分がこれまで興味がなかった情報もあるけど、そういう記事にも触れていると自然と見聞も広がっていくよね。幅広い情報をこんなにもフラットな視点で扱っているメディアは新聞しかないんじゃないかな。
 
そもそも今は情報が多すぎる。しかも、インターネットやSNSには、偏った情報が多い。情報というより押しつけ型の意見だな。情報は本来、視野を広げてクリエイティブに物事を考える助けになるもの。こうすべき”と、受け手の思考をガチガチに縛りつけるようなネットの情報に触れているだけだと、視野が狭くなってしまうと思う。そう考えると、新聞は今の時代のだからこそ価値のあるメディアだと思う。

――家庭で新聞をどのように活用していますか?
今は子どもは独立して家にいないけど、俺と妻の会話の内容は、ほとんど新聞に載っていたトピックがほとんど。「北海道で雪虫がたくさん出ているらしいね」とか、そういう感じで会話が始まることが多いね。世の中の出来事をフラットに載せてるし、新聞に載っている情報量くらいが俺にとってはちょうどいい。ほとんど新聞の情報にしか触れていないけど、俺の生活は楽しいよ。

――子どもの質問に答える時のアドバイスがあれば教えてください。

子どもに聞かれたことをネットで検索して、そのまんま子どもに教える親もいるみたいだね。後ろめたさを感じるのも当たり前だよ。だって、おかしいでしょ。子どもに質問されたら、まずは「自分で調べなさい!」と子どもに言うのが、親の仕事。子どもが聞くようなことに答えられない親も、どうなのかと思うけど。
 
それはさておき、自分が知らないことを聞かれたら、とりあえず自分で調べて理解した上で、自分の言葉で伝えたらいいんじゃない。「自分の知識」として。親も、自分で調べて理解することで成長できるし、自分の言葉で子どもに伝えられれば、後ろめたさも感じないと思うよ。
 

▶ イベント後記
藤村さんによると、新聞を読むことで視野が広がり、より柔軟に物事を考えられるようになるそう。子育てやビジネスに役立つ新聞活用法を紹介するウェブサイト「新聞科学研究所」では、全国の新聞の無料試し読みが申し込める。親として成長するツールとして、新聞を活用してみてほしい。

 

 

PROFILE

藤村 忠寿


1965 年愛知県生まれ。北海道テレビ放送株式会社コンテンツビジネス 局クリエイティブフェロー。「水曜どうでしょう」チーフディレクター。 番組の中で繰り広げられる俳優・大泉洋さんとの掛け合いは、数々の名 シーンを生み出し、ファンからも「藤やん」の愛称で親しまれている。同 番組ディレクターの嬉野雅道さんとの共著「仕事論」(総合法令出版/朝 日文庫)、「週休3日宣言」(烽火書房)など働き方にまつわる書籍を多数 執筆。現在、朝日新聞北海道版でコラム「笑ってる場合かヒゲ」を連載中。

問い合わせ

一般社団法人 日本新聞協会 企画開発担当
メール:kikaku@pressnet.or.jp TEL:03-3591-4637


写真/松尾夏樹
文/緒方 佳子

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