“3歳児神話”に根拠はない?ママの子育て専念の経済的デメリットを専門家が解説
2023/04/21
“3歳児神話”という言葉を聞いたことがあるだろうか。3歳よりも前に保育園に子供を預けると、外部からの発言が働くママを苦しめている。果たして子供が3歳になるまで、ママは育児に専念すべきなのだろうか。経済学者・山口慎太郎さんに聞いてみた。
科学的根拠は一切なし!?
3歳児神話による機会損失費用
3歳児神話とは「子供が3歳になるまでは母親は子育てに専念すべきで、そうしないと子供の成長に悪影響を及ぼす」という考え方です。「かわいそうに、こんな小さい時から保育園に預けて」。そんな発言が働くママを苦しめています。
この考え方は、エビデンス(科学的根拠)の無い「思い込み」や「民間信仰」のようなものです。近年の経済学などの研究では、それが間違いであるということをはっきりと示しています。子供の発達に関して言えば、信頼できる大人に囲まれていることが重要で、おじいちゃんやおばあちゃん、保育士でも構わないのです。
また、ママが仕事に復帰できず子育てに時間が取られてしまうことで、機会費用が拡大します。ここで言う機会費用とは、仕事に復帰することを選んだ場合に得られたであろうはずの利益を指します。経済学は、人々がなぜ・どのように意思決定をし、行動に移すかについて考える学問ですが、3歳児神話が家族の幸せに悪影響を及ぼしていることは否めません。
母親の幸福度を上げる保育園
子供の発達にもプラス
ママが働くことには家計所得の増加というメリットももちろんありますが、子供を保育園に預けることによる別の利益も生まれます。厚生労働省が行った大規模調査から得られたデータを私たちの研究チームで分析したところ、保育園通いは子供の言語面と行動面などの発達にプラスの影響があることがわかりました。さらに母親の幸福度を上げることもわかっています。子供を保育園に通わせることは「家族の幸せ」に貢献しているのです。
それでは、パパにできることは何かあるのでしょうか? それは、家族を守るために、科学的根拠のある正しい知識を身につけて実際に活用すること。そして、子育てを存分に楽しむことです。子供はすぐに大きくなり、可愛い時期はあっという間に過ぎてしまいますから。
親子関係や学力にも効果アリ
育児休業の持つ大きな力
ノルウェーの研究では、パパが育休を取得した場合、子供が16歳になった時の偏差値は1ほど上がったそうです。心理学の知見によると、生後1年間の親子のふれあいが、その後の長期にわたる親子関係に大きな影響を及ぼすことから、短い育休でも子供への影響が持続しうるということのようです。
では結論をお伝えしましょう。3歳児神話にはエビデンスはありません。子供が育つ環境はとても重要ではありますが、育児をするのは必ずしもママである必要はないということ。これは、ドイツ、オーストリア、カナダ、スウェーデン、デンマークにおける政策評価でも報告されています。育児のための訓練を受け、専門的な知識や技術を持った保育士であれば、子供を健やかに育てることができるのです。
先日、「先生、3歳児神話って、何ですか?」と学生から質問を受けました。今どきの若い人にとって、3歳児神話のようなバイアスはすでにないようですよ。
経済学が予測する育休3年制の効果
1年間の育休は母親就業にプラスの効果
シミュレーションの結果、1年間の育休が取得可能な今の制度は、ママの就業を大きく引き上げる。
育休3年制に追加的な効果はなし
今の制度を変更して、育休期間を3年間に延長することにはさほど大きな効果がないと予測された。
育休は3年もいらない
多くの人が必要としておらず、給付金がもらえる期間が1年だと、2年目以降の家計所得が大きく落ち込む。
【まとめ】
ママだけが子育てに専念すべきという3歳児神話は根拠無し。むしろ家族の幸せに悪影響を与える
子供を保育園に預けることは所得と発育の2つの利益が生まれる
PROFILE
山口慎太郎
東京大学経済学研究科教授。専門は労働市場を分析する「労働経済学」と、結婚・出産・子育てなどを経済学的手法で研究する「家族の経済学」。著書に『「家族の幸せ」の経済学』(光文社新書)『子育て支援の経済学』(日本評論社)など。1児の父。
文:脇谷美佳子
FQ JAPAN VOL.66(2023年春号)より転載