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時事・コラム

SDGsは子供たちの未来を幸せにするか? 本当の意味でのSDGsを哲学者・斎藤幸平が語る

地球環境問題の深刻化とともに、SDGsへの関心も、企業や地域で高まりつつある。いま私たち大人世代が行っている取り組みは、子供たちの未来を、果たして変えていくことができるのだろうか? 哲学者・経済思想家の斎藤幸平さんに、SDGsのもたらす未来について教えてもらった。

口先だけのSDGsは、
有害でしかない

「SDGsは大衆のアヘンだ」という力強い言葉で、資本主義の矛盾を社会へ投じる若き哲学者・斎藤幸平さん。著書「人新世の『資本論』」(集英社新書)は、気候変動や環境問題を直視する人々の心をつかみ、50万部に迫るベストセラーとなった。社会に定着した「SDGs」というワード。だがその取り組みについて、斎藤さんは大いなる疑問を投げかける。

「SDGsという言葉はここ2年くらいで日本でも広まりましたけど、実際やっていることといえばマイボトルとかマイバッグとかそのようなことばかり。結局これをやっただけでは、今の大きな気候変動の問題を変えるには、まったく足りないわけです」斎藤さんはこう続ける。「企業なども、『環境にやさしいからもっと買ってください』といって、SDGsの概念を都合のいいようにとらえ、過剰な生産をし、大気を汚染している。これではむしろ有害でしかない。問題の根本はまったく解決していないと感じるのです」

過剰な生産と消費を
「ダサい」といえる社会に

大量生産や大量消費をしながら取り組むSDGsは自己満足でしかない。斎藤さんは、そう断言する。資本主義の発達によって生み出された格差社会。こうした社会のあり方そのものにも、我々はもう少し批判的に目を向けていいのではないか、と強調する。

「『世界で最も裕福な125人』と言われる人たちが、プライベートジェットを飛ばしたりして排出する二酸化炭素の量は、フランス一国分と言われています。こうした事実に向き合う欧米の人々は、例えば新空港を建設しないとか、国内2時間半以内の移動は電車を利用する法案をつくるなど、気候変動に対する具体的なアクションを起こしています」

欧米に比べ、日本はまだまだ遅れているものの、それでも現状に気づきはじめた若い世代の間では、従来の生活とは大きく違った暮らし方にシフトしようという動きも出ている。

「高級車を乗り回して大量の二酸化炭素を出したり、ハワイに飛んで「エコな旅」したり、身を削ってまで仕事して酒を飲んで大量消費するみたいな、これまでの大人のライフスタイルが、若い世代の人にとっては『ダサい』とか『恥ずかしい』と感じるようになってきているわけです。我々は、こうした新しい価値観を彼らから学ぶべきで、今までの自分をアップデートする必要がある。産業も個人の生活も、大きな転換を伴わなければ、この大きな危機は乗り越えられないところまで来ているからです」

生活の見直しが、
地球を少しずつ変えていく

著書の中で、「脱成長」という言葉を使い、価値観の変革の必要性を力説してきた。「何でもかんでも忙しく働いて、卵さえもネットで買う世の中。これをやろうとすると結局、卵を配達するために働く人たちが何人も出てきて、極めて非効率です。こうした誰もが幸せにならない疲弊した生活はもう辞めるべきだと思うし、矛盾を感じてほしいと思うんですね」

では実際に、私たちのどんな行動が本当の意味でSDGsにつながるのか。「例えば労働時間を減らしていくことは、過剰な生産を減らすことにつながります。男性なら、減らした労働分を家事や子育てに使えば、パートナーがより働きやすい環境になるし、子どもと過ごす時間も増える。それが当たり前のようにできる社会を、私たちはそろそろ考えるべきではないかと思います」

家族との時間から
見えてくるSDGs

週休3日か4日制が理想、と語る斎藤さん。大学で教鞭をとり、研究に力を注ぎ、数々の著書を手がけながらも、家事の時間や子供たちとの会話を大切にする。「コロナ渦は、働き方の変化を考える良いきっかけになりました。以前は出張の頻度も多かったのですがそれがほとんど無くなったため、家にいる時間が増え、子育てにより積極的に参加できるようになりました。家にいればいわゆる「見えない家事」にも気が配れるようになり、パートナーとの役割分担も考えるきっかけになりましたね」

5歳と3歳になる我が子とのコミュニケーションも増え、様々な考えを深めることができたと語る。

「未来のことを長期的な視点で、自分事として考えるようになりました。ちょっとした会話の中で、彼らは気候変動などについても自然と受けとめてくれている気はします。家庭内のアクションは小さな一歩ですが、そうした家事とか子育てとかいったところに、SDGsの本丸はある。職場においてもジェンダー平等を実現していくとか、育児休業の取得がしたい部下を応援するとか、SDGsの包括的な取り組みが個人から企業、そして社会全体へ規模を広げることができてはじめて、SDGsは子供たちの未来を幸せにすることができるのだと思います」

教えてくれた人

斎藤 幸平さん

1987年生まれ、哲学者・経済思想家。東京大学大学院准教授。歴代最年少の31歳でマルクス研究界最高峰のドイッチャー記念賞を受賞。「人新世の『資本論』」(集英社新書)は新書大賞2021を受賞。近著に「天才たちの未来予想図」(高橋弘樹編著・マガジンハウス新書)。

著書

「天才たちの未来予想図」


高橋弘樹編著・マガジンハウス新書

世界が認めた4人の“若き天才”が、世界と日本はどうなっていくのかの問いに対し、「最先端の知見」をもって明快に答える。「脱成長」経済の実現を唱える斎藤さんは、深刻化する資本主義下の格差や環境問題に警鐘を鳴らし、本当の豊かさとは何かを教えてくれる。


文:甲斐 望

FQ JAPAN VOL.65(2022-23年冬号)より転載

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