子供ができれば夫婦は変わる?「良きパパ像」の理想とのギャップに苦しまない方法
2022/10/24
子供ができる前は仲良し夫婦だったのに、子供が生まれてから関係が変わってしまったことに対して、悩んでいる夫婦は少なくない。このような悩みはなぜ出てくるのだろうか。どのように乗り越えたらよいのだろうか。精神科医の香山先生に聞いた。
28歳男性。娘(1歳半)・妻との3人暮らし
「ジェンダー平等が急速に進む昨今ですが、妻が望む理想の父親像に追いつけていない自覚があります。自分が思い描いていた子育て生活ともちょっと違う気がしてきて、少し疲れてきています。妻とは今でもコミュニケーションは取れており、決して不仲というわけではありません。どういう心持ちで妻と向き合っていったら良いのでしょうか?」
子供ができれば夫婦は変わる
過渡期にある理想像
私が診ている患者さんのなかにも、「昔は仲良し夫婦だったのに、子供ができたことで夫婦関係がギクシャクするようになった……」と悩んでいる方が少なからずいらっしゃいます。この事例の方は、決して稀なケースというわけではありません。案外、多くの子育て中の夫婦に共通の悩みなのかもしれませんね。
その背景にあるのは、価値観の急激な変化です。考えてもみてください。夫、妻、父、母……昭和と今とで、それぞれの「こうあるべき」といわれた姿は、もの凄いスピードで変わってきています。欧米では子供を持つ女性が国の要職に就くことが当たり前であることからも分かるように、女性の地位や権利がかなり改善されています。日本はここで大きく遅れてしまいました。それがようやく変わろうとしていますが、今は過渡期ですから、価値観の不一致が起こっても仕方がありません。夫婦に子供ができることで、夫は父に、妻は母になる。この時、お互いの「こうあってほしい」像にズレが生じる。それはむしろ当然のことなのかもしれません。
女性の意識の変化には目を見張るものがあります。私が指導している女子学生が就職活動をする際、会社がジェンダー問題に向き合っているか、男性を含めて育休産休を認めているか、昇進や昇給に男女差別はないかなどを、しっかりチェックしています。子供を持った後も「ママとしてではなく、自分らしく生きたい!」と考えるのが当たり前の時代。「全ての女性が母になる必要はない」という考え方も、今や共通認識です。既に新しい価値観を身に付けた方がいる一方で、一部の男性は、長らく根付いてきた「男性は一家の大黒柱」から「性別に関係なく家事育児をしよう!」という価値観と、突然、向き合わねばならなくなったのです。
価値観を育む子供時代の経験も、人それぞれです。「父は全く話をしない人でしたが味があり面白い人だった」と無口だった父を懐かしむ人がいる一方で、「リーダーシップ溢れる父が鬱陶しくて嫌だった」という人もいます。夫婦とはいえ夫と妻とは別の家庭環境のもとで成長した人同士なのですから、価値観が違って当たり前です。自分のなかにある「こうありたい」に幅を持たせる=柔軟性を持つことも大切です。
なぜ家庭を築いたのか?
まずは原点に立ち返ろう
さて、ここからは事例の方へのアドバイスです。それは「原点に返りませんか?」です。そもそもなぜ、奥様と結婚して家庭を築いたのでしょうか? それはきっと、幸せになるためだったはずです。そこに立ち返れば、「理想とする父親像」なんて小さな問題に思えるはずです。
話が少々飛躍しますが、プロ野球の北海道日本ハムファイターズの新庄剛志監督=BIGBOSSの言動が頻繁に話題になりますよね? とりわけ「優勝を目指さない」という一言は、大きく報道されました。もちろん野球が勝敗を競うゲームである以上、全てのチームが優勝を目指すべきなのかもしれません。しかし、「私達はなぜ野球を観るのか」という原点に立ち返ると、BIGBOSSの言葉の真意が理解できます。私達は「楽しいから」野球を観るのであって、「優勝を目指すから」観るわけではありません。目の前の小さな勝利を追い求めても大した意味はない、とすらいえるかもしれません。
子育てにおいても、理想像を追い求めるのではなく原点に立ち返って、ママとベビーの笑顔を最優先にすることで、自ずと答えがみえてくるのではないでしょうか?
初心を忘るべからず
そもそもなぜ、結婚して家庭を築いたのか? その初心に返れば、「理想とする父親像」に惑わされることはなくなるはず。
PROFILE
香山リカ
東京医科大卒。精神科医。豊富な臨床経験を活かして、現代人の心の問題を中心に、様々なメディアで発信を続ける。『ノンママという生き方 子のない女はダメですか?』(幻冬舎)、『50オトコはなぜ劣化したのか』(小学館)など著書多数。日ハムファン。
文:川島礼二郎
イラスト:星野壮太
FQ JAPAN VOL.63(2022年夏号)より転載