人工知能は子供を虐待から救えるか? 児童相談の件数が過去最大6402件に上る
2020/04/10
虐待による痛ましい事件がなくならない。危険の予兆を早期に発見し子供の保護に繋げることが必要だ。現場では虐待以外の案件も含めて相談が増えており、緊急性を的確に判断する力がますます求められている。そのような状況でAIのサポートが有効か、実証実験が始まった。
「暗黙知」を組織共有
4月から共同で児童虐待の早期発見に向けたAIの実証実験をスタートするのは東京都練馬区と株式会社FRONTEOだ。練馬区の子ども家庭支援センターでは、子供と子育て家庭に関するさまざまな相談に応じ、相談内容に応じた専門機関やサービスの紹介、必要な調整を行っている。その件数は増加傾向にあり、2018年度には過去最大の6,402件に上った。
そのうち虐待相談は1割未満で横ばいに推移しているが、東京都児童相談センターに寄せられる練馬区民の虐待相談と合わせると1,000件を超える。最悪の結果を防ぐために、区ではこれまでもチェックシートの活用や会議での判定のあり方などに工夫をしてきたが、今回さらにAIの導入で対応の迅速化、リスク管理の強化を図る。
用いられるのはFRONTEO社が開発したAIエンジン「KIBIT(キビット)」だ。KIBITは、過去の例や経験者の勘・感覚といった「暗黙知」をもとに選んだ文書を「教師データ」として与え、文書の特徴を学習させることで、その判断軸に沿って見つけたい文書を効率よく抽出する。
ちなみに暗黙知とはハンガリー出身の哲学者・社会学者のマイケル・ポランニーが提唱した概念で、言葉で説明するのは難しいが確かに存在し理解され使われている知のことだ。
たとえば児童虐待に関わる場面では、関連施設や相談機関の職員は暗黙知も駆使して危険なケースを察知している。その部分をAIにも担わせ組織で共有することができれば、判断のスピードアップや職員の経験の多寡をバックアップすることに繋がる。
人間の蓄積からAIがスコア化
練馬区は、子ども家庭支援センターが管理している「児童家庭相談システム」の児童記録内容を個人情報を除いた形で提供し、KIBITが解析する。KIBITは、東京都児童相談センターに一時保護を要請したケースを分析し、危険につながりやすい順に高いスコアを出すことで、早期に対応が必要なケースを見極める判断をサポートする。
なお、この実証実験は東京都児童相談センターの協力と、法的側面で弁護士の助言を得ながら進められる。
多くの公的施設職員が長年かけて蓄積してきた判断基準を、AIがクールに学習し、人間を助けるために活用する時代がやって来た。こうしたテクノロジーの進歩も取り込みながら、痛ましい虐待につながりかねない事案が速やかに把握され、適切な対応がなされる地域社会の構築が望まれる。
DATA
Text:平井達也