これをみれば大体分かる! 育休にまつわる事象を詳しく解説【基礎編】
2020/04/06
まずは日本の育休男性が置かれている状況について知ろう。今回は2月6日(木)に東京で行われた緊急フォーラム「パパ育休は今度こそ本当に進むのか?」を取材。フォーラムの内容から日本の育休の現状に迫った。
男性の育休取得率は約6%
国も本腰を入れて推進
今年2月、NPO法人ファザーリング・ジャパン主催で『パパ育休は今度こそ本当に進むのか?〜男性育休は社会を変えるボウリングの一番ピン!』が開催された。ファザーリング・ジャパンでは「イクボスプロジェクト」を推進している。
イクボスとは、職場で共に働く部下・スタッフのワークライフバランス(仕事と生活の両立)を考え、その人のキャリアと人生を応援しながら、組織の業績も結果を出す。
その上で自らも仕事と私生活を楽しむことができる上司(経営者・管理職)のことを指す。厚生労働省では近年、育休取得率が40%まで向上。2016年、当時の塩崎恭久厚労大臣をはじめとする職員がイクボス宣言をし、以降育休を推進している。
また、男性の育児休業率100%や育休有給化を目指す企業が増えてきた。その一方で、男性の育休取得率は6%代に止まっている。国は13%の目標を掲げており、対策が待ったなしの状況だ。そこで来年度から、国は男性公務員に対し、1ヶ月超の育休を取得するのが原則とする方針を打ち出した。
小泉環境大臣の育休取得で
高まりつつある機運
なぜ、男性の育休取得率がなかなか向上しないのか。少し歴史をさかのぼりつつ、その原因を探ってみよう。育休促進の第一の波は2010年、育児・介護休業法の改正だ。
これで父親シフトの法律となったが、働き方改革が進まなかったため週末育児に止まった。第二の波は2016年、国会議員が育休宣言したことだ。だが諸事情で週刊誌を騒がせ、下火になってしまった。
そして第三の波が2019年、小泉進次郎環境大臣が育休宣言したことで、空気が変わるきっかけになるか注目されている。
育休にまつわる問題が
”パタハラ”や ”とるだけ育休”
日本では6歳未満の子供がいる男性の家事育児時間が、海外と比較として3分の1程度に止まるなど、以前として男性の育児参加が進んでいない。男性の家事育児時間が高くなるほど出生率が上がるという相関性も出ているため、これが少子化の原因ともいわれている。
育休が進まないのは、夫側には「上司や同僚に理解がない」「昇進・昇給に悪影響がある」といった不安があること、また妻側には「育休をとっても夫がゴロゴロしているだけ」という一部の不満の声があるからだ。
仕事が忙しいという理由で育児時間が取れないと、家庭はどうなるか。夫が子供とどう向き合っていいか分からず、出産後に夫婦関係が悪化する。つまり、家庭が「ホーム」ではなく「アウェー」になる恐れがある。そうなれば離婚したり、親が子供に虐待したりする。また、妻が産後うつになり、自殺につながるケースすらあるのが実情だ。
男性育休を取ることで
得られるメリットは多い
男性が育休を取るメリットとして、子供に対しては父親の育児参加で子供の父親への親近感が増加する。配偶者(妻)に対しては、育児不安やストレスの軽減、養育態度に好影響を与え、就業継続など社会復帰への意欲の維持が図れる。
夫婦関係においては、コミュニケーションが活発になり、家事育児だけでなく稼得責任も2人で担うことで精神的不安定が軽減される、といったことが挙げられる。
さらに妻が正社員で就業継続した場合、パート・アルバイトをするよりも生涯所得で約2億2700万円もの差が生まれるとも指摘されている。それだけ家計メリットが見込めるのだ。
企業側としても、職場の業務を見直し、風土を改革するチャンスでもある。成果を落とさず職場メンバー全員が休みたいときに休める。そんな職場づくりのためには、コミュニケーションの活性化と育休を取得しやすい雰囲気づくりが必須だ。
ピンチをチャンスに!
育休取得でスキルが上がる
社員が育休に入れば業務に穴が生じるというデメリットはある。だが、他の社員たちがそれぞれ1つ上のランクの仕事をこなせば、みんなのスキルアップにつながりチーム全体がパワーアップしているという効果が期待できるのだ。
また「両立支援等助成金」といった、育休取得した男性社員がいる事業者に支援金が支払われる制度も利用できる。男性の育休取得こそが、日本社会に山積する多くの難題を解決する、最初のきっかけとなるのではないだろうか。
男性育休の効能
①子供の父親に対する親近感が増し、父親側は子供への愛着が増す親子関係が良好になり、父親からの虐待の危険性が減る。
②妻の育児負担とストレスが軽減され、妻の精神状態が安定する産後の夫婦関係が良好になる。母親の虐待の危険性が減る。
③夫婦間のコミュニケーションが活発になる子供を育てるという同じ目的を共有することで、夫婦間でコミュニケーションをとる機会が増える。
④妻の就労機会・意欲が増す妻の就労所得がアップし、家計にもプラスになる。
育休解説
男性の育児休業率100%や育休有給化を目指す企業
男性育休取得率100%の実現に向けて、経営者が宣言し、目標を持ってアクションや発信をしている企業が、いわゆる「男性育休100%宣言企業」である。株式会社ワーク・ライフバランスが2019年3月より始動しているプロジェクト。2020年1月現在、77社が登録。
育休促進
国でも様々な育休取得促進の取り組みをしている。その中の一つが育児休業給付金だ。厚生労働省が推進している国からの支援金。会社が負担しているわけではなく、雇用保険から支払われている。支給には1歳未満の子供がいること、取得希望者が雇用保険に加入していること、育児休業開始前の2年間に、11日以上就業している月が12ヶ月以上あることが条件となる。
パタハラ
積極的に育児参加しようとする男性に対して、上司や同僚が嫌がらせをすることを、パタニティ・ハラスメント(略して「パタハラ」)と呼ぶ。パタニティ(Paternity)は英語で〝父性〞を意味する。育児休業を取得したり、育児のために短時間勤務やフレックスタイムなどを活用したりする男性に対しての妨害、ハラスメント行為をいう。妊娠中の女性社員に退職を促すなどの嫌がらせを指すマタハラ(マタニティ・ハラスメント)と対になる言葉。
とるだけ育休
育休を取得したものの、家事や育児にほとんど時間を使わない状況をいう。ママ向けQ&Aアプリ「ママリ」を提供しているコネヒト株式会社が昨年10 月に行った調査では、「育休取得男性のおよそ3人に1人が、1日あたりの家事育児時間が2時間以下」という結果になった。育休を取得した男性が、家事や育児で何をすればいいかわからないためであると予想されるが、根本原因には、夫婦のコミュニケーション不足があると考えられている。
男性の家事育児時間が、海外と比較として3分の1程度に止まる
2019年12月の世界経済フォーラム発表の、グローバル・ジェンダーギャップ指数ランキングで、世界153ヶ国中、日本は121位、先進国中では最下位となった。家事・育児・介護といった無償ケア労働について、先進国は概ね男女差が1:2であったが、日本は1:4以上の開きがあった。ここから家庭内で男女の不平等が刷り込まれ、その環境で育った子供にも、その意識が植え付けられてしまう。
産後うつ
出産後の女性はホルモンバランスが不安定になり、涙もろい、抑うつ、頭痛などの症状などが起こりやすい。通常は、出産直後から数日で収まるが、それが長引くと、産後うつ病となる。重症化すると、子供への虐待や自殺にまでつながることも。
父親の育児参加
父親の育児参加を促す活動として、両親学級(父親学級)がある。妊娠中の母体や、産後の赤ちゃんのお世話の仕方などを学ぶことができる教室。平日参加できない人のために、土日も開催していることが多い。妊婦のお腹の重みや動きにくさを体感できる妊婦ジャケットを着用したり、沐浴の方法を赤ちゃんの人形を使って練習したり、そのほか、抱っこの練習など、実践的なことが学べる。主に出産予定の病院や産院のほか、地方自治体が開催しているが、最近では、就業先の企業が開催するケースも。仕事を休まなくてもいいので参加しやすく、男性の育児参加を促すきっかけになると好評で、今後、取り入れる企業が増えることも予想されている
育児不安やストレス
最近メディアなどで多く取り上げられているのが、「孤育て」という言葉。夫や両親、親戚などの協力が得られず、近隣住民や友人との付き合いも希薄で、孤立した状態で母親が子育てをしている状態のことをいう。背景には、少子化や核家族化、親と離れ都市部で暮らす夫婦の増加などがある。
DATA
Text >> KOSUKE ONEDA
FQ JAPAN VOL.54より転載