親は子に感染する。仲間を大切にしない無感情でつまらない人を生産すると日本経済は終わる。
2020/02/01
現代の親、子ともに感情の劣化が進んでいる。その背景には地域との交流、仲間集団を大切にしないからである。その原因はお祭りや森という共同体験の場がなくなったからだと、社会学者の宮台真司氏は提言する。
定住的流動社会では
共同体存続規範がない
かつては地域で「共助」があり、仲間を大切にする場がありましたが、今はそれが崩壊しています。日本の子供の教育を考える上での最大の問題です。
僕の幼少期、日が暮れて外遊びから帰宅しなくても、ヨソんちで夕食を食べているんだなと親は心配しませんでした。それが、60年代の団地化=『地域空洞化×専業主婦化』、80年代のコンビニ化=『家族空洞化×市場化&行政化』、という二段階の郊外化で、なくなったのです。地域もヨソんちもコントロールの及ばぬ危険な場所だという不安が蔓延。田舎を含めて外遊びが消え、劣化した親が子供を抱え込むようになりました。親と教員以外の大人と親しくなった経験のない大学生が大半で、彼らが『感情が劣化した親』になっていきます。
縄文時代は不思議で、狩猟採集段階から定住していました。山だらけで、住める場所が小さな沖積平野に限られたからです。それは日本地図を見てもわかります。日本以外は違います。狩猟採集段階の定住はなく、農耕で定住を決断した。だから、仲間に従えという「共同体従属規範」に加え、「共同体存続規範」があります。なんとしても定住共同体を存続させよというのが「共同体存続規範」。日本は定住共同体が当たり前すぎて「共同体存続規範」がなく、共同体解体の動きに抵抗しないのです。
共通体験の場がなくなり
地域はつまらなくなる
潜在的成長率(短期変動をの除いた経済成長)が先進国で日本だけが過去20年間ゼロ。最低賃金は欧米の高い地域の半分以下。1人当たりGDP生産力は米国の3分の2。次世代プラットフォームの鍵である5Gの基幹特許数は、日本に比べ、中国が7倍、アメリカが4倍、人口が日本の半分以下の韓国でも3倍。そしてどこより激しい人口減少。
盛れる株価や失業率と違い、これらの盛れないデータから見て、日本経済は終わっている。
だから政治が使える金も急減し、システム=市場化&行政化はもう頼れなくなります。地域を頼っていたのが、地域空洞化で家族(主婦)を頼るようになり、家族空洞化で市場化&行政化を頼るようになった。でも市場化&行政化にはもう先行きがないのです。加えて、地域と家族の空洞化で下世代になるほど感情が劣化します。だから経済や政治と同じく社会も荒野です。だから「社会という荒野を仲間と生きる」営みが大切なのです。
「社会という荒野を仲間と生きる」世代をどう育むか。キーワード”森”。森は共同身体性と共通感覚の場。自分の恐怖は仲間も感じ、仲間の振舞いの意味が自分にも分かります。街も同じです。かつて新宿は”森”のような街だった。渾沌が誰にとっても同じ感覚を与え、街にいる者たちの振舞いの意味が自分にも分かった。そう、なりきりbecomingの時空。
森で遊ぶうちに日が暮れ、様々な動物の奇声が聞こえて誰もが怖くなる。蛇やスズメ蜂に出会えば誰もが脅えた行動をとる。得体の知れない時空で、誰もがなりきりあうのです。森を長く一緒に歩けば「言外・法外・損得外でのシンクロ」が自動的に生じます。森から出た定住後にそれを定期的に取り戻すのが祭りでした。森が消え、森を思い出す祭りもなくなり、僕らは「言葉・法・損得勘定」に閉じ込められています。それが感情の劣化をもたらし、仲間を大切にできなくさせているのです。
PROFILE
宮台真司 SHINJI MIYADAI
1959年宮城県生まれ。社会学者。映画批評家。首都大学東京教授。公共政策プラットフォーム研究評議員。東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了(社会学博士)。『日本の難点』(幻冬舎)、『14歳からの社会学』(世界文化社)など著作多数。
Text >> 大根田康介