今週末に子供と行きたい『魔法の美術館』って? パパママも楽しい体験型アート
2019/04/05
子供を連れて美術館へ出かける。「静まり返った空間へ子供を連れて行くなんてハードルが高い……!」そんな風に思ってしまう方が多いのでは? 実は、子供が走り回って楽しめ、さらに大人もじっくり楽しめる美術館がある。
子供も大人も
楽しめる美術館
『魔法の美術館』は、日本全国の美術館を中心に巡回している体験型アートの企画展です。2018年は国内10会場以上で開催され、今までにのべ300万人以上を動員しています。小さいお子さんのいる家族連れでも楽しめる作品構成で、普段アート作品や美術館にあまり馴染みのない人々が美術館を訪れる良いきっかけにもなっています。
2019年4月7日(日)まで静岡県の静岡市清水文化会館マリナートで、また、この夏には愛媛、新潟、沖縄など全国9ヶ所以上の美術館等で開催が予定されていますので、ぜひチェックしてみてください。
ここでは、出品作家のひとりである藤本直明氏が、静岡市清水文化会館マリナートの出品作品(全13作品)を中心にいくつかの作品を紹介します。わかりやすく、誰でも楽しめる作品の多い『魔法の美術館』ですが、自分なりの体験の仕方を見つけたり、それぞれの作家が何を考えて作品を作っているのか想像してみるのも面白いでしょう。
色のある夢
作者:藤本直明
©naoaki FUJIMOTO
壁に投影された映像は、3つのプロジェクタからの映像が重なったものです。それぞれのプロジェクタからは光の三原色のように異なる色が投影されていて、人の影は3色に分離し、映像の中の蝶を自分の影で遮ると蝶の色が変化します。
よるにおもう
作者:重田佑介+Zennyan
真っ白な絵本を開くと光輝くピクセルアニメーションの世界が広がる。©yusuke SHIGETA+Zennyan
《よるにおもう》は、ピクセルアニメーション(ドット絵)をテーマにした作品です。体験者は真っ白な何も描かれていない絵本を手に取
り、暗闇の中を歩きます。すると、絵本の中にはキラキラと輝くドット絵で表現された様々な物語が広がるのです。
ドット絵は、3DCGが全盛となる1990年代以前のテレビゲームで主流だった映像表現手法です。現代の高解像度で色彩豊かな映像に慣れた我々には一見すると低解像度で粗い映像に見えてしまうのですが、ひとたび作品の中に没入してしまうと、そこには「粗い映像を頭の中で補ってより豊かな映像を思い浮かべる」というまったく別の側面があることに気付かされます。
この作品で絵本の中に浮かび上がる映像は、夜空の中に浮かぶ様々な物語のようであり、星座の物語をモチーフにしているようにも見えます。星座もまた古代の人々が夜空の星々を見て、より豊かな物語を思い浮かべたものでしょうから、この作品にはドット絵と星座とのアナロジーがあるのかもしれません。
この作品のもう1つの見所は、ドット絵の中の「ひとつひとつの画素(ピクセル)」を鑑賞できることです。プロジェクタが作り出す映像
の画素は一見するとただの四角い光のようにも見えますが、よく見ると、とても複雑な形をしています。画素が見えてしまうことは、一般
的な映像の世界ではデメリットとして捉えられがちですが、この作品では純粋な画素の美しさを鑑賞する事ができるのです。
TRANSFORM
作者:岡田憲一+冷水久仁江(LENS)
キャラクターとなった体験者を待ち受ける様々な出来事。アニメーションの動きがとてもコミカルで面白い。©kenichi OKADA+kunie HIYAMIZU (LENS)
《TRANSFORM》(トランスフォルム)では、体験者はまず椅子に座って写真撮影を行います。すると顔認識によって顔の部分が切り取られ架空の世界の住人に変身します。変身した体は箱の中の世界に転送され、空を飛んだり、水中を泳いだり、コミカルに踊ったり…トランスフォルムの物語の一部になって動き出します。
箱の中には5つの実物の小さな部屋があり、体験者はキャラクターとなってトランスフォルムの世界に投影されます。キャラクターはフォトリアルなCGではなく、ペラペラとしたクラフト人形のようなルックスで、動きもぎこちなく、現実にはない不思議な世界を覗いているような感覚を演出しています。5つの内4つの部屋では、2人揃うとストーリーが動き出す仕掛けになっていて、池に落ちた人とそれを助ける人など、偶然居合わせた来場者同士がこの作品の中で少し関わり合うというのも楽しい要素です。
キャラクターは同じ場所にとどまっていると、足を掻いたり、暇そうに足をぶらぶらと揺らすなど、ちょっと見ただけでは気付かないような瞬間が隠されています。魚の入った水槽を観察するように、キャラクターの動きにじっくり注目してみましょう。
ところでこの作品、動く造形物の中にキャラクターが自然に入り込んでいてとても不思議です。どんな仕組みになっているのでしょうか?そんな事を考えながら鑑賞してみるのも面白いと思います。
衝突と散乱
作者:藤本直明
©naoaki FUJIMOTO
《衝突と散乱》は、床に投影された小さい丸や四角が、体験者によって弾かれお互いにぶつかりながら散らばったり、再び集まったりする作品です。現実の世界で物質や光がどのように動くのかをコンピュータで計算する事を「物理シミュレーション」と呼びますが、この作品では誰もが物理シミュレーションの世界の中に入り込むことができます。作品エリアの中に入れば体験方法を何も知らなくても楽しむことができますから、小さいお子さんでも夢中になって丸や四角を追いかける姿がよく見られます。
弾かれたたくさんの小さな四角が再び集まって来た時に形成されるパターンや、細長い四角がお互いにぶつかり回転しながら飛んでいく様子などが見どころです。
魔法の美術館リミックス
~光と遊ぶ春のワンダーランド~
開催期間:2019年4月7日(日)まで
会場:静岡市清水文化会館マリナート
主催:静岡市清水文化会館マリナート テレビ静岡
企画協力:ステップ・イースト
問/静岡市清水文化会館マリナート
TEL:054-353-8885
<2019年夏の『魔法の美術館』開催予定>
・愛媛県美術館
(愛媛県、6月15日~8月25日)
・新潟市新津美術館
(新潟県、6月15日~9月1日)
・浦添市美術館
(沖縄県、7月13日~8月25日)
・秋田ふるさと村(秋田県、7月13日~9月1日)
・福井市美術館
(福井県、7月19日~9月1日)
・盛岡市民文化ホール
(岩手県、7月20日~9月8日)
・豊橋市美術博物館
(愛知県、7月20日~9月8日)
・アスピラート[防府市地域交流センター]
(山口県、7月24日~9月1日)
・ぐんまこどもの国児童会館
(群馬県、8月3日~9月16日)
※他に開催検討中の会場もあります ※出品作品は会場によって異なります。また『魔法の美術館』という名称以外で開催される会場もあります。正式な情報は、公式Webサイト等でご確認ください。
『魔法の美術館』出品作家
藤本直明氏のその他の作品
●覗かれ穴
(岡田憲一氏との共作、“これも自分と認めざるをえない”展、21_21 DESIGNSIGHT、2010年)
壁の穴を覗いた体験者の頭上に、体験者の視線の先の映像が投影される作品。体験者は自分の見ている物が他人に覗かれ、独特の恥ずかしさを味わう。
●Immersive Shadow: Sphere
(新宿住友ビル、2015年)
体験者の影が映像上の物体を弾く、体験型のプロジェクションマッピング作品。
●Immersive Shadow: Light
(『魔法の美術館』富岡市立美術博物館・福沢一郎記念美術館、2016年)
壁面に映し出された自分の影によって映像の中のカラフルな水玉を弾く事ができる作品。自分のちょっとした動きによって映像が大きく動く「インタラクションの増幅」がひとつのテーマです。
DATA
藤本直明
アーティスト、フリーランサー
多摩美術大学 情報デザイン学科 非常勤講師/東京工芸大学 インタラクティブメディア学科非常勤講師
東京工業大学理学部物理学科卒業(素粒子物理学)。「体験」そのものの制作を目的とした作品制作を行う。代表作の《Immersive Shadow》は、国内外の美術館や建築物の外壁へのプロジェクションマッピングなどで50回以上の展示実績を持つ。他の作品として、《覗かれ穴》《衝突と散乱》《新しい過去》など。
構成・文 >> NAOAKI FUJIMOTO 取材協力 >> ステップ・イースト
FQ JAPAN VOL.50より転載