「夫婦は一つの在り方に過ぎない」今泉夫妻が考える「いいふうふ」の在り方とは?
2024/06/24
渡辺ペコさんによる漫画「1122(いいふうふ)」がドラマ化され、Prime Video にて世界独占配信中。監督・脚本を務めたのは、実際の夫婦でもある今泉力哉さんとかおりさん。2 人 の考えるいい夫婦とは? 作品の見どころや制作中のエピソードを伺った。
共同制作をとおして
新たな一面を知る一幕も
ードラマ「1122 いいふうふ」は、お二人が初めて共同で制作された作品です。夫婦での合作をとおし、どのような感想を抱きましたか?
今泉かおりさん(以下、かおりさん):お互いにあまり遠慮せず、意見を伝え合いながら作品づくりを進められました。意見が噛み合わずぶつかることもありましたが、本音を包み隠さずに言い合えたのは、夫婦だからこそだと思います。
今泉力哉さん(以下、力哉さん):僕は登場人物のセリフにはすごくこだわりがあるので、基本的には脚本に手を入れることを許してくれる脚本家としか組まないのですが、妻はそこには理解がありました。あと、やはり書き言葉と話し言葉は違うので、漫画のストーリーを脚本に落とし込む場合、登場人物のセリフを話し言葉として面白くなる言葉に変えたりします。ただ、この作品はすべてを自分の好みのセリフに寄せていかないほうがいいと思いました。そのくらい、渡辺ペコさん自身のセリフへのこだわりも漫画を読んでいて感じられたので。今回のドラマを制作するにあたって原作者の渡辺ペコさんと食事する機会があり、その際、登場人物のセリフを何箇所か話し言葉にしたい旨を伝え、許可をいただきました。どうしても伝わりにくいだろう部分だけ、直した感じですね。妻は、今回は脚本家として作品に参加していますが、話すうちに脚本の面でも演出の面でもいろいろとこだわりがあることがわかって。やはり、脚本家ではなく監督なんだなと、再認識しました。作品においてこだわる部分はそれぞれ違うんだな、と興味深く感じましたね。
ーこだわる部分は、具体的にどのように違っていたのでしょう?
かおりさん:私はストーリーの流れや登場人物の感情などを、明確に観客に伝えたいと思っています。なので本作の脚本にも、多めにセリフを盛り込みました。でも夫には、「演出を工夫すれば、セリフが少なくても伝わるはずだ」と言われて。最終的に脚本上のセリフは、当初に比べてかなり減らしました。
力哉さん:ただ、妻の脚本どおりに撮っておいてよかったな、と思うシーンもありました。作中、二也と、二也と不倫関係にある美月、そして美月の息子が公園で過ごすシーンがあります。そこで美月が、義母との関係や子育てへの不安を吐露するのですが、このシーンのセリフがある種、説明的に感じられて。それで「このシーンはセリフごと削ってもいいんじゃない?」と妻に言ったんです。でも妻は「このシーンがないと、後々、登場人物の感情が伝わりづらくなるよ」と、譲らなくて。結局、そのシーンは削らずに撮影したのですが、編集時には「あ、削っていたらまずかったな」と思いました。
「いい夫婦」だからこそ
行き着いたのは「公認不倫」
ー主人公である一子と二也は、「不倫公認」の夫婦。一風変わった夫婦ではありますが、彼らの関係は良好で、いわゆる「いい夫婦」でもあります。二人の姿や関係について、どのような考えをお持ちですか?
かおりさん:一子と二也は、嘘のない夫婦。表面を取り繕って、二人の間に起きている問題から目をそらすようなこともしません。問題と向き合った結果、「公認不倫」という独特な解決策に行き着いてしまうわけですが……。「夫婦関係を続ける」という共通の目標をもち、互いの気持ちを尊重する姿は、すごくいいなと思いました。渡辺ペコさんによる原作を読んだ時、そう感じたので、ドラマ化するにあたっては原作に対して忠実に、二人の姿を描きました。
力哉さん:妻の言うように一子と二也は、きちんと向き合えている夫婦です。というか、向き合っていくことにした夫婦ですかね。きちんと向き合わなかった時期があり、それではだめだと気づき、向き合うことにした二人。なにか問題が起きたら話し合い、お互いにとっての“ベスト”を見つけ出していく姿はやはり素敵です。また、二人とも相手に対してとても正直で。巧妙に嘘をついたり、相手を思って何かを隠したりするのが下手です。だからこそ、気がつかないうちに相手を傷つけてしまっている場合があるのですが。ちなみに気を遣ったつもりなのに、結果的に相手を傷つけてしまうというのは、僕と妻の間でも時々起きています(笑)。妻が作ってくれた料理が、不味かったことがあって。普通に「不味い」と言えばよかったんですが、言葉を選んだ末に、良かれと思って発した言葉が「どうやったら、こういう味になるの?」。最悪ですよね。
かおりさん:あの言葉の裏には気遣いがあったなんて、初めて知りました(笑)。「どうやったら、こういう味になるの?」って言われた時は、すごく頭にきましたよ。「おいしくないって言えばいいでしょ!」と私が言い返して、ちょっと険悪なムードになりました。
ードラマ「1122」のなかでも、一子が放った言葉を受けて、二也が傷つくシーンがありますね。
力哉さん:あの言葉の裏にも悪意はなく、むしろ二也への思いやりがあります。思いやりを起因とした言葉なのに、なぐさめやフォローになるどころか、相手の心を深くえぐってしまう。この点に「1122」という作品の、面白さのようなものがあると感じています。そして、こうしたトラブルや公認不倫などを経て、二人の関係や距離感はどんどん変わっていきます。最終的に二人が導き出した“答え”には、考えさせられるものがあるので、ぜひ注目してほしいですね。
子どもの誘いに乗ってみると
新たな世界に出会うことも
ーお二人には中学生と小学生の、合わせて3名のお子さんがいらっしゃいます。お二人がともに作品制作をすることに対し、お子さんたちはどのように感じているのでしょう?
力哉さん:う〜ん、どうでしょうね。基本的に家では、仕事の話はしないようにしています。仕事の話をし始めると、どちらも熱くなったり深刻になったりして、場合によっては喧嘩が始まってしまうので(笑)。パパとママが揉める姿を見て、子どもが嫌そうにしている姿を見ることもよくありますし。
ー中学生や小学生になると、興味や関心をもつ対象ができ、親と過ごす時間が減る傾向があります。お子さんたちとは、どのようにコミュニケーションをとっていますか?
かおりさん:子どもたちは動画やゲームが好きで、「この動画、すごく面白いからいっしょに観よう」とか「ゲームしよう!」と誘ってくることが多いですね。ただ、なかにはあまり共感できないものがあり、そういう時はつい「ママはこれ、面白いと思わないな」と言ってしまうのですが(笑)。夫はどんな動画やゲームであっても、子どもにつき合って長々と観たりしているので、その点は素晴らしいなと思います。
力哉さん:親子でも他人ですから、お互いに興味をもつものが違うのは当たり前です。でも、頭ごなしに興味ないと思わずに、子どもからの誘いに乗ってみると、自分が知らなかった世界に出会えることも多くて。それってすごく楽しんです。子どもに誘われて映画館で話題のアニメ作品を観たら、最終的に僕のほうが感動して泣いたこともありました(笑)。
ーありがとうございます。最後に「夫婦」や「家族」をテーマに、FQ JAPANの読者に向 けてメッセージをお願いします。
力哉さん:日本で認められる夫婦とは、すごく限定的なものです。現実では同性カップルをはじめ多彩なカップルがいるのに、限定的な法律のせいで、婚姻が認められない人たちもいる。そういうことをひっくるめて考えると、「夫婦は一つの在り方に過ぎない」と考えるのがいいように思います。たとえ夫婦という形をとっていたとしても「夫婦なんだから、こうでなくては」という考えにとらわれず、お互いの意思が一番尊重される暮らしを選択できたらいいなって思います。選択肢が広がればいいなと常に思っています。
DATA
『1122 いいふうふ』
Prime Videoにて世界独占配信中!
毎月第3木曜日。それは夫が恋人と過ごす夜-。
結婚して7年目をむかえる夫婦の一子(いちこ)と二也(おとや)。30代半ばの共働きで、子供はまだいない。フリーランスで仕事をしながら、女友達との交流を楽しむ一子。ワークライフバランスを保ち、趣味で生花教室にも通う二也。結婚記念日や相手の誕生日には美味しいものを食べてお祝いする。二人は気の合う夫婦であり、何でも話せる親友でもあり、側から見れば羨ましいほど理想的なパートナー同士……たとえセックスレスでも。そう、実は彼らの結婚生活は、ある秘密によって支えられている。それは“婚外恋愛許可制”の公認だった。
原作:渡辺ペコ「1122」(講談社「モーニング・ツー」所載)
監督:今泉力哉
脚本:今泉かおり
キャスト:高畑充希 岡田将生 西野七瀬 高良健吾 吉野北人 中田クルミ 宇垣美里 土村芳 菊池亜希子 内田理央 芹澤興人 前原滉 橋本淳 市川実和子 片桐はいり 森尾由美 宮崎美子 成田凌 風吹ジュン
©(c)渡辺ペコ/講談社 (c)murmur Co., Ltd.
PROFILE
今泉力哉
1981 年生まれ、福島県出身。
2010 年『たまの映画』で商業監督デビュー。13 年『こっぴどい猫』でトランシルヴァニア国際映画祭最優秀監督賞受賞。主な作品に『愛がなんだ』(19)、『街の上で』(21)、『窓辺にて』(22)、『ちひろさん』(23)などがある。また「時効警察はじめました(19/EX)や「杉咲花の撮休」(23/WOWOW)にも演出として参加している。最新作は映画『からかい上手の高木さん』(2024 年5月 31 日)が公開中。
今泉かおり
1981年生まれ、大分県出身。
地元の看護大学卒業後、大阪で看護師として務めていたが、映画監督という夢を追って2007年に上京。ENBUゼミナールで映画製作を学ぶ。卒業制作の短編『ゆめの楽園、嘘のくに』が2008年度京都国際学生映画祭で準グランプリを獲得。また子どもの心理描写を巧みな映像美で綴った演出が高く評価され、『聴こえてる、ふりをしただけ』は、2012年ベルリン国際映画祭「ジェネレーションKプラス」部門で、子ども審査員特別賞を受賞した。
文・写真/緒方よしこ