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インタビュー

松浦弥太郎さんに聞いた「人生100年時代」に取り組みたい“自己投資”とは?

「人生100年時代」を有意義に、なおかつ豊かに生きるために取り組みたいのが、自己投資。松浦弥太郎さんが考える自己投資についてお話いただくとともに、長い人生を生きるうえで道標となる言葉をいただいた。

未来について考えることが
自己投資の第一歩になる

エッセイストやクリエイティブ・ディレクターといった肩書きのもと、複数の業界で活躍する松浦弥太郎さん。暮らしや生き方にまつわる著作も数多く発表しており、そのユニークで説得力ある言葉は、幅広い層から注目を集めている。今回のインタビューのテーマは、自己投資。まず、松浦さんが考える自己投資とはどのようなものなのか、お話いただいた。

「『人生100年時代』といわれる今、先のことを考えるとさまざまな不安が頭に浮かぶでしょう。『高齢になってからも健康でいられるのか』とか『ずっとお金に困らずにいられるのか』とか。こうした不安を直視し、どうしたら懸念したことを避けられるか考えることが、自己投資の第一歩になります」。

それは、「今日1日が楽しければいい」「今が良ければいい」といった刹那的な考えの対極にあるものだ。現在ではなく将来に視点を据え、理想とする将来を実現するために必要な物事を洗い出す。これこそが、自己投資の第一歩にあたるという。「例えば、将来も健康でありたいと願うなら、日々の運動やバランスのいい食事が、必要な物事として挙げられると思います。また、実生活にこれらを新たな習慣として取り入れることで、病気にならない健康的な未来が実現できるはずです」。

新しい価値観のもと
新しい幸せを見出す

なお、自らの理想的な未来と合わせて考えたいのが、社会の未来だという。近年、日本の一人当たりGDPは世界で27位をマークした。また、国内における少子高齢化に歯止めがかかる兆しはみえない。こうした点を含めて考慮すると、日本が今後、大きく成長・発展することは望めない。かつての日本では、高級車や大きな持ち家、海外旅行が成功と幸せの象徴であり、誰もがこれを求めたが、今後の日本では、これらを求めてもなかなか手に入らないと予想される。

これをふまえたうえで松浦さんは、「自らの成功と幸せに対する価値観は、意識的に変えていく必要があると思います」と語る。「おそらく今後、日本人の給料は全体的に減るでしょう。また、日本に移住する外国人が増え、彼らが上司で、日本人が部下という図式が見受けられる企業も、どんどん増えていくと思います。けれども、給料が減ることや外国人がトップを務める職場で働くことが、決して不幸せに直結するわけではありません。ただ単に、社会における文化が変わっただけに過ぎないのですから。

今は、新しい価値観のもと、新しい幸せをそれぞれが見つけていく時。そして新しい幸せを実現するためには、自分がなにを変えていくべきか、自分にとってなにが必要かを考え、行動に移すことが大切です。また、これこそが、的を射た『自己投資』といえるでしょう」。

大きな家や高級車を持つことで得られた幸せは、過去のもの。多大なお金を使わずとも、得られる幸せはたくさんある。子どもの教育に関しても同様だ。十分な年収がないにも関わらず、子どもの教育に多額の資金をかけるのは、ナンセンス。だからこそ、従来の理想的な教育に惑わされるのではなく、それぞれが“我が家の幸せ”を見つける必要がある

そして“我が家の幸せ”を実現するため、具体的な行動を起こすことが大切なのだ。「例えば、『パパとママがいつも笑顔でいて、仲良くする』というのも、立派な幸せのかたちです。教育にお金をかけるよりも、こうした幸せを実現したほうが、子どもにいい影響があるのではないでしょうか」。

しかしいっぽうで、大きな家や高級車、お受験への憧れを抱き続ける人もいる。「『裕福になり、大きな家や高級車を手にしたい。子どもに高い学費をかけたい』という考えも、尊重されるべき考えです。また、そのような思いがある人にとっては、新天地へ移住するというのも一つの手です」。

アメリカをはじめとする大国や著しく成長している国へ移住し、現地企業で働けば、日本で手にしていた年収を遥かに超える収入が得られる可能性が高い。また、いわゆる富裕層としての暮らしをおくることも、夢ではないという。「日本で暮らしながら新しい幸せを見つけるか。あるいは従来の幸せを実現するため、海外に移住するか。どちらを選択するかは、個人の自由です。また、どのような選択もできる自由さが、現在の日本社会にはあると思います」。

習慣としての継続が
最高の自己投資になる

松浦さんいわく、どのような将来を目指すにしても、必要なものが3つあるという。それは、体力、知力、技術だ。

「長い人生を元気に生きるうえで、無論、体力は欠かせません。また、社会に溢れている情報を自分のフィルターをとおして正確に見たり、さまざまな物事に関心をもつためには、知力が必要です。最後は、技術。仕事で活きる技術はもちろん、日常生活で役立つ技術もぜひ、積極的に身につけてほしいと思います。体力、知力、技術の3つを兼ね備えることで、理想とした将来を叶えるための土台が出来上がります」。

松浦さんは、朝5時に起床し、その後10キロの距離をランニングするというルーティンを10年以上、ほぼ毎日こなしている。また、さらなる知力や新しい技術を身につけるべく、日々、語学やプログラミングなどを勉強しているそう。

「大切なのは、体力、知力、技術を身につけるための運動や勉強を毎日すること。毎日することで、ある時、日々の積み重ねによる成果が飛躍的に増し、自分自身を思いもよらぬステージに引き上げてくれるはずです。運動や勉強を習慣として続けることこそが、最高の自己投資になります」

自分らしい生き方が
自らを輝かせる

日本社会には集団主義の様相があり、人々は、他人に対して遠慮して行動する傾向がある。周りを差し置くようなかたちで成功したり、充実した生活を送ったりすることに対し、罪悪感に似た感情を抱く人が大多数を占めるはずだ。また、目指す将来を実現するために、運動や勉強を毎日こなす人は、周囲から“一風変わった人”と見られる可能性もある。しかし、このような風潮に対して、松浦さんは次のように提言する。

「自分の人生は、自分自身のものですし、あなたの家族は唯一無二のもの。他人の意見や社会の風潮に合わせて生き方を変えたり、理想とする将来や幸せを諦めるのは、とても勿体無いですし、愚かなことではないでしょうか。自分の人生なのだから、好きなように生きればいい。そして、“我が家の幸せ”を信じて、実現すればいい。そうした生き方や取り組みが、最終的に自分自身や家族を輝かせ、長い人生を豊かに生き抜くための力を授けてくれると思います」。

PROFILE

松浦弥太郎

エッセイスト、編集者、2002年、セレクトブック書店の先駆けとなる「COWBOOKS」を中目黒にオープン。2005年から15年3月までの9年間『暮しの手帖』編集長を務め、その後、IT業界に転じ、ウェブメディア「くらしのきほん」を立ち上げる。ユニクロの「LifeWear Story 100」責任編集。「Dean & Deluca マガジン」編集長。他、様々な企業のアドバイザーを務める。著書に「今日もていねいに」「しごとのきほん くらしのきほん100」など著書多数。


文・写真/緒方 佳子


FQ JAPAN VOL.68(2023年秋号)より転載

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