子供に”らしさ”を押しつけるのはやめよう。LGBTQ当事者が語る「これからの子育て」
2019/12/10
道徳や優しさではなく
「人権」が世界を救う
最後に、「多様性を対話する。」というビジョンを掲げて活動するlag(ラグ)代表を務め、LGBT当事者であり現在子育て中のしげさんが加わり、トークショーが行われた。
――今回のアンケートの結果をご覧になって、いかがですか?
鈴木先生:「らしさ」を押しつけない”これからの子育て”ということですが、「自分らしさ」を追求しすぎるのも自分が苦しくなる。「そのまま」が幸せで豊かであることが理想。そもそも「男らしさ」とか「女らしさ」は、人から強要されるものではないんですよね。
谷口先生:今回のような調査によって「可視化」されたことに大きな意味があると思います。こういうことを知らない人が多数者。何より「知ること」からしか始められない。
人権というのは道徳とか優しさじゃなく、学ばないと習得できないもの。優しい気持ちになったら世界が救えるという考えだけが正しいなら、とっくに戦争はなくなっているんです。
まずは他者は自分と同じように尊重されるべき存在である、ということをちゃんと理解して、好き嫌い関係なく誰もが尊重されるべき存在である、ということを意識できるかどうかにかかっています。
アナ雪の「ありのまま」や震災後に流行った金子みすゞさんの「みんなちがってみんないい」に感動した人たちが、LGBTQを否定するようなことはないはず。けれど、LGBTQのことを”わかっていない”。これからは、ブリッジ(橋渡し)となる人や機会が求められているのではないかと思います。
村木さん:私自身、七五三の時、みんなはキレイな着物を着られることを喜んでいたのに自分は違った。親の期待を裏切って生きてきたように感じます。今回のアンケートで、LGBTQ当事者も非当事者も、『社会を良くするためにこうしたほうがいいんじゃないか』という提案をたくさん書いてくれたことは、これからの大きな変化につながるし、心強いと感じましたね。
――しげさんは子育てする中で、何か社会の変化を感じることはありますか?
しげさん:自分は子供のころ、自分がまわりの女の子と同じ「ふり」をすることを、何よりも大事に生きてきました。結婚して、子供を産んでもなお違和感を感じて、今は男性として生きています。
今の保育園の先生たちは、LGBTQについてはよく学んでいて、“男だから女だからと押し付けない教育”をしてくれているのを感じます。しかし一方で、保護者のみなさんは性的マイノリティが身近にいるという現実をまだまだよくわかっていないんですね。
父の日や母の日など、お父さんの役割とお母さんの役割が明確に決まっていて、それを何も考えずに伝統的なものをただ踏襲している。もちろん、押し付けようという悪気がないのはわかっているのですが……。
同じ職場で働きながら心の性に合わせて性別変更していくことを「在職トランス」と言いますが、保育園では自分自身「在園トランス」として、「お母さん」と呼ばれると心にその言葉が突き刺さります。だんだん変化していく自分をどうやって先生たちに言葉で伝えていいのかわからないですね。
マイノリティの声に
マジョリティはどう応えるか
――谷口先生は、日本の教育環境をどう考えますか?
谷口先生:集団生活に馴染めない子は、性的マイノリティであれ、他のどんなマイノリティであれ、感じるのは「生きづらさ」でしかない。これを解消するには、マジョリティが人権についてちゃんと学ぶこと、理解することです。
1994年9月にエジプトのカイロで開催された国際人口・開発会議で採択された行動計画で定義された「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(生涯にわたる性と生殖に関する健康と権利)」というのがあります。これは人権の一部であり、すべてのカップルと個人が自分たちの子供の数や出産間隔、出産する時期を責任をもって自由に決定でき、そのための情報と手段を得ることができるという基本的権利です。
この権利が保障されている「すべてのカップルと個人」という部分に当てはまらない人は、世界中探してもどこにもいません。性的指向がどうであれ、その対象から外れるのはおかしいこと。子供を産み育てるかどうかを決めることは日本国憲法第13条の自己決定権でも、このリプロダクティブ・ヘルス/ライツでも保障されています。
国に対し、同性婚を認めて関連する法令の改正を求める初の意見書を公表するなど、同性婚のマイノリティのみなさんが大きな声を上げています。その声に対し、マジョリティはどう応えるのか、いま問われているのではないでしょうか。
マイノリティの人たちは常に問われます。例えば結婚して子供がいる女性に対して「どうしてあなたは働いているの?」と平気で問う。結婚して子供がいる男性に対してこんな質問をしますか? 傷ついているマイノリティの人の手を一緒に取って、どうしてそんな質問をするのかと、マジョリティが声を上げる局面にきているのです。
――最後にまとめの言葉をお願いします。
しげさん:同性愛のカップルが子育てしやすい環境になれば、異性愛のお父さんお母さんも子育てしやすい、生きやすい社会がつくれる。みんなで一緒に考えていきたいと思います。
谷口先生:親が安心して子供を育てられる環境=子供がすくすく育つ環境。LGBTQの方々がカミングアウトした時に感じる不安がどんどん減っていく社会をマジョリティ側がデザインしていくべきです。
鈴木先生:カミングアウトしたら全てのことが解決する、と考えていた。ところが何も解決などしない。やはり個人の力だけでは限界がある。法制度や枠組みでどう社会を変えていくかの本気度がいまこそ試されているように感じます。そろそろ覚悟を決めましょうよ、と。私も本気を出します。
村木さん:いま子供をもちたいと思っているLGBTQの人たちにとって年齢的なこともあり、待ったなしの状況。今回の可視化された調査結果を多くの人に知ってもらいたい。これからも追跡調査を進めていくつもりなので、みなさんの力をお借りしたいです。
<公開資料のダウンロードはこちら>
「にじいろ子育てアンケート」の結果を元に作成された「にじいろ子育て手帳」。アンケート参加者の声を活かした母子手帳と同じぐらいのサイズ。「らしさ」や「フツー」にしばられない子育てのヒントが詰まっているだけでなく、子供にも親にも先生にもLGBTQの人がいるということの可視化の一助にもなっている。
Text by MIKAKO WAKIYA