「夫が育休から復帰2日後に関西への転勤辞令……」これはパタハラではないか? “男の育休”に隠された新事実とは
2019/09/28
古い価値観と新しい常識が入り乱れる今の社会。あなたも知らないうちに、ハラスメントをしてしまっているかもしれない。育児休暇関連や妊婦とその夫に対しては特に難しくなる。知っておいて損のない基礎知識を紹介する。
新旧価値観の違いから
ハラスメントが生まれる
「夫が育休から復帰2日後に関西への転勤辞令……」というSNS上での一人の女性の悲痛な叫びが注目され、社会現象に発展。「これはパタハラではないか」と企業が批判を受けたのだ。
この事案が、日本が国として男性の育児休暇取得率を高めようとしているなかで起こったこと、また当該企業が名の知れた一部上場企業であったことも、注目を集めた理由のひとつ。育休復帰から2日後に転勤辞令を出したこと自体に違法性はないようだが、社員の家庭環境への配慮が絶対的に欠けていた。
本件の原因は、日本社会に存在している価値観の相違にある。当該企業のどこかに「社員は滅私奉公すべき」という雰囲気があったと推定できる。社会はそれを許さない雰囲気になってきているが、特に年配者が多い経営層や管理職に、そうした古い価値観のまま生きている人が残っている。「人事部からは育休取得を好意的に受け止められた」と妻が証言していのだ。育休から復帰する過程のどこかで、人事部と古い価値観を持った誰かの意見とが、入れ替わってしまったのかもしれない。
大企業の多くは社会における価値観の変化を感じ取り、女性や外国人、障がい者など、社会に生きる多様な人々が活躍できるよう、社内制度を整えつつある。働きやすい環境を整えれば優秀な人材を確保しやすくなるし、社員の定着率が高くなる。これが結果として会社に利益をもたらすからだ。「社員を手厚く守るのは会社のため」であると理解され始めている。その逆を行った当該企業に対して、一般社会が反対意見を表明した。
産休育休の取得にあたってのハラスメントを防ぐには、事前に取得予定を伝えておく、普段から仕事をテキパキとこなしておくなど、環境を整備しておくことが大切だ。上司や同僚への感謝の気持ちも忘れないでほしい。産休育休は労働者の権利なので、どんな社員でも取得できるべきではあるが、円滑な人間関係を築いておくことで、よりスムーズに休暇取得と復職が進む。
さて話題が少し変わるが、無意識によるパタハラ・マタハラをご存知だろうか? 妊娠している女性社員に対して過度に気を使うと、傷付けてしまうことがあるというもの。「会社に来ているからには、これまで通り働きたい」と考えている人もいるのだ。「座っていて」「そんなことは私がやるから」といった言葉が、妊娠しながら働く女性を傷付けることがあるかもしれない。
また、妻が妊娠した男性社員には「父親になるのだから、しっかり働けよ」「一人じゃないのだから責任重大だぞ」といった声が掛けられがち。こうしたステレオタイプの父親像は、本人が望む姿なのか? 産休を取得して子供を迎えたいと願っているパパ予備軍もいるはず。早目に帰宅して家族と過ごす時間を大切にしようと考えている父親も当然いる。定型の優しさを押し付けるような言動は、本当の優しさではない。
社会の常識は徐々に変わる
積極的に育休を取得しよう
厚労省が実施した平成30 年度雇用均等基本調査(速報版)によると、2018年度の男性による育児休業(育休)取得率は6.16%でしかない。それでも以前と比べれば制度としては整備されつつあり、申請すれば取得できるという段階まで進んできたのだ。これからパパになる方は、自発的に情報を収集して、どうかこの権利を行使して父親の育児参加を楽しんでほしいと思う。
かつて医師の世界では「男性の育休なんてもってのほか」という雰囲気だったが、最近は少しずつ育休を取得する男性医師がでてきている。育休取得者に話を聞いてみると「育児の大変さが良くわかった」「育休を取得する周囲の人に対して優しくできるようになった」といったポジティブな声が返ってくる。誰かが勇気を持って行動することで、少しずつ社会は良い方向に変わって行くのだ。
PROFILE
香山リカ RIKA KAYAMA
東京医科大卒。精神科医。豊富な臨床経験を活かして、現代人の心の問題を中心に、新聞や雑誌など様々なメディアで発言を続けている。著書に『ノンママという生き方 子のない女はダメですか?』(幻冬舎)、『50オトコはなぜ劣化したのか』(小学館)など。