多様性って何? 親が正しく学ぶべき「マイノリティ教育」の本質
2018/10/18
現状を見ても、与えられた環境に全人間が適応する訳でなく、適応できない人もいます。でも環境は否応なく変わり、これまで環境に適応してきたトライブ(種族)が生きにくくなり、適応しづらかったマイノリティトライブが新しい環境ではメジャートライブになる。でもその結果、別のマイノリティトライブが新たに生まれる。そうやって人類が変化しながら続いてきた。だから、生物的・文化的なダイバーシティを疎み、NMを差別する者は、単に「反人類的な間抜け」なのです。
今や北欧では4人に1人が体外受精で生まれます。男性の精子数が少なくなりすぎたからです。周知のように全哺乳類で精子が減少しつつあります。こうした自然的事情や、テクノロジーの発達で、どのみち子供の生まれ方、ひいては有性生殖の在り方が、多様になるでしょう。
古くから帝王切開か自然分娩かという出口=出産のダイバーシティはありましたが、今後は入口=受精のダイバーシティが重要なポイントになります。出口と入口だけじゃない。本体つまり子宮で妊娠するという形もどのみち多様化します。それを踏まえて100年のスパンで考えれば、男と女の二値的性別が維持される可能性は少ない。トラディショナルな男と女に対し、ニュータイプの男と女や男女中間体が、社会的に認知されるでしょう。
LGBTはまだセクシュアリティ(性的欲求)のバリエーションにすぎませんが、それを超えて、まず生物有機体として性別カテゴリーのダイバーシティが拡がり、それが社会的に認知され、社会的にも非二値的カテゴリーが登場するでしょう。LGBTはダイバーシティの単なる入口です。
いま「バイオ(生物的)ダイバーシティ」と「ソーシャル(社会的)ダイバーシティ」を区別しましたが、制度と自明性(当たり前さ)の変更が必要なので、後者は遅れがち。だからこそ前者つまり「バイオダイバーシティ」が進化的合理性を有する事実を、1人ひとり認識することが大切です。
そうした認識が拡がればーーいずれは拡がるし、拡がらない国は滅びますがーー、同調圧力に負けない合理性への信念が生まれ、現存の社会に適応できる人間ほど優れているという発想に陥らずに済みます。どのみち社会は変化しますが、その方向性次第では、NMが生き延び、社会に適応しすぎた社会的多数派(マジョリティ)が隘路にはまるでしょう。
PROFILE
宮台真司
1959年宮城県生まれ。社会学者。映画批評家。首都大学東京教授。公共政策プラットフォーム研究評議員。東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了(社会学博士)。『日本の難点』(幻冬舎)、『14歳からの社会学』(世界文化社)など著作多数。
FQ JAPAN VOL.48より転載