才能は子供自身が気づく 父親は褒めるだけ
2016/04/18
「1番の関心は子供の才能を伸ばすことだ」と語るのは、プロミュージシャンとして音楽の世界で活躍するピムさん。2人の子供の父親である彼は、とにかく褒めて自信をつけさせることこそが究極の接し方だというが、それにはちょっとしたコツがあるという。そんな彼の“褒め教育”とは?
「主夫の日」は週2回
“多忙は本望”としっかり働く
オランダ東南部・ネイメーヘン市にあるラドバウト医大に勤務するピムさんは、コミュニケーション学の教授で、週3日間教壇に立っている。きめ細かく丁寧な指導を行う彼は、学生から絶大な人気を誇る存在だ。
「多忙は本望」とばかりにしっかり働く彼は、2人の子供の父親でもあり、毎週水曜日と金曜日を「主夫の日」と決め、育児や家事に勤しむ。 彼の場合、家事も育児も手を抜くことがなく、主婦や母親の役割をほぼ100%果たしているその完璧さは、賞賛に値するだろう。
主夫・ピムさんの1日は多忙である。朝食後に子供たちを学校へ送ったら、その足で買い物へ行って食材をみつくろう。帰宅したら家の掃除、そして午後2時には子供たちを迎えに行く。そして、おやつを食べたら夕食の支度へ、とスケジュールは常にいっぱいだ。同じ大学で、精神心理学の教授として働く夫人のディネットさんも、仕事に打ち込めるのはピムさんのお陰、と心から感謝しているそうだ。
彼らは、家事と育児を両立させることを苦に思ったことが一度もなく、むしろ夫婦にとって、今最大の関心事は「子供たちの才能をいかに伸ばすか?」ということだそうだ。
「どんな子供でも、何かしら才能を持っているからね。それを開花させるか否かは親次第」とピムさんは断言する。いったいピムさんは、子供たちの才能を伸ばすために、彼らにどのような接し方をしているのだろうか?
大げさすぎるくらい褒めて
子供の挑戦意欲を育てる
「それには、まず褒めることが大切」 と彼は言う。例えば子供たちが、テーブル・セッティングを手伝ってくれたときや、観葉植物に水をやってくれたときなど、どんな些細なことでもいいので「よくできたね! ありがとう」と、感謝して褒める。
また、 得意とする科目やスポーツで好成績を挙げたら、大げさすぎるくらい褒めるのがよいという。
しかし、褒め方にはちょっとしたコツがある。たとえば算数で満点を取ったときには、「良い点を取って偉い!」と上から目線で褒めるのではなく、「すごいね!お前は数字に強いんだな!バッチリ計算ができて羨ましいなあ!」という風に、あたかも友達のような口調で褒めて、算数に長けていることに気づかせることが重要なのだそうだ。親に褒められれば子供たちも嬉しいだけでなく自信もつくため、どんなことにも挑戦してみよう、という意欲が湧くのだ。
音楽をきっかけに
他の才能を発見
ピムさんは、プロのミュージシャンとしての顔も持っている。幼少の頃、興味で始めたギターが実益を兼ね、ミュージシャンとしてこれまでに4枚のレコードをリリースしている。「好きこそものの上手なれ」というが、上手くギターが弾けることが「やればできる!」という自信に繋がり、学業に邁進するきっかけにもなったという。
こうした経験を踏まえ、夫妻は子供が音楽に親しめる環境を整えた。
長男・ニノくんは4歳からピアノを、長女・ジナちゃんは3歳でギターを手にしており、週末は家族全員が家で共演することもある。現在、子供たちの音楽の才能は未知数だが、楽器の演奏ができればそれもまた自信に繋がるし、演奏をきっかけに、他の才能を見つけられるのではないか、とピムさん夫妻は期待している。
家事という才能を磨くのは
いいお嫁さん探しのため?
ピムさんには、昨年の秋から実行していることがある。それは、ニノくんと一緒に家事を行なうことだ。オランダの子供たちは18歳で成人を迎えたら両親の家を出て、1人暮らしを始めるのが一般的だが、大人の第一歩を踏み出すときに、家事がお手上げ状態では生活していて不便だ。そこで、父親(時には祖父)が息子に家事を教えるのが習慣になって おり、ピムさんも同じように、子供の時はお父さんから全てを教わったという。
「家事ができないと、いいお嫁さんが来てくれないぞ」と冗談まじりに言うピムさんの横で、丁寧に食器を拭いていたニノくんは「勉強より、お皿拭きのほうに才能があったらどうする?」と笑い返す。共働きで多忙ながら、子供たちにしっかりと愛情を注いで育児を行なうピムさんとディネットさん。この姿勢があるからこそ、「新しい才能探しにチャレンジしてみよう」「才能があれ ばさらにそれを磨こう」といった勇気が、子供たちの中にも湧いてくるのではないだろうか。
夕食の後片付けは、ピムさんとニノくんの日課。オランダでは、男女差なく炊事を行うのが普通で、家事や炊事が出来ない男子は女子よりも肩身が狭い思いをするとか。
大学教授(コミュニケーション学)ピム・ファン・ ザーネンさん(35歳)、大学教授(神経心理学) ディネット・ポートマンさん(35歳)、長男ニノ君(12歳)、長女ジナちゃん(9歳) 家族の合言葉は、 「音楽でコミュニケーション」。 週末は家族で一緒に演奏するのが習慣だと言う。
Photo » THEO JANSSEN
Text » KAORU INABA
FQ JAPAN VOL.38(2016年春号)より転載