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母乳神話にエビデンスはない?母乳育児の危険性と本当の効果を経済学者が解説

「赤ちゃんには母乳が一番」。母乳育児のメリットはさまざま語られてきたが、果たして科学的根拠はあるのだろうか? 間違った情報に惑わされずに夫婦で選択せきるよう、正しい科学的知識のエッセンスを紹介する。

長期的なメリットはほぼゼロ!?
科学的にみる母乳育児の効果

「赤ちゃんには母乳が一番」。そんな情報が溢れています。これまで母乳育児は、健康面から知能、情緒の発達まで、多くのメリットが語られてきましたが、果たして本当なのでしょうか?

結論から申し上げます。近年の科学的研究では、長期的に見ると母乳神話にエビデンスはありません。間違った情報に惑わされずに家族にとって最も望ましい選択ができるよう、正しい科学的知識のエッセンスを紹介していきます。

信頼性の高い母乳育児の科学的研究は、ベラルーシの「プロビット」です。その理由は、医薬品の治験にも使われるランダム化比較試験と呼ばれる方法でデータがとられたことです。この方法であれば、家庭環境(経済状況や母親の学歴など)による影響が出ません。子育てに熱心で学歴の高いママのほうが母乳育児に積極的なため、これまでの研究方法では母乳育児の効果について正しく知ることは難しかったのです。

「プロビット」での分析結果からわかった母乳育児の主なメリットは4つのみ。一部の専門家の間でも語られてきた、子どもの肥満、アレルギー、喘息、虫歯の予防や、問題行動の減少、知能の発達などのメリットは確認されませんでした。

ベラルーシで行われた「プロビット」

1996年に17,046人の子どもとママを対象に行われたベラルーシでの母乳育児促進プログラムから生まれた研究で、健康状態、発達状態を16歳まで追跡調査。抽選で選ばれた16の病院(A)に所属する医師・看護師・助産師にWHOとユニセフ監修の研修を受けてもらい、ママが母乳育児を行う上で必要となる知識や手助けを提供。一方、もう15の病院(B)に対しては、研修は行わなかった。プログラムの目標は、研修を受けさせることによって、最終的にお母さんの母乳育児を促進すること。完全母乳の割合は、生後3ヶ月時点でAが43%、Bが6%という結果に。

母乳育児の4つのメリット

1 生後1年間、感染性胃腸炎の発症率が減少
2 生後1年間、アトピー性湿疹にかかる割合が減少
3 生後1年間、SIDS(乳幼児突然死症候群)」の発症率が減少
4 6歳半の時点で、母乳育児で育った子どものほうが「知能テスト」で成績が高い

ママを精神的に苦しめる
母乳信仰によるプレッシャー

母乳には感染症やアレルギー、SIDS(乳幼児突然死症候群)の予防など、乳児の健康に対する効果は間違いありません。母乳を与えることでママの産後回復を促す作用もありますから、ママが母乳育児を望むなら、ぜひ取り組んでほしいと思います。

ただし、母乳信仰があまりに行き過ぎると、何らかの理由で母乳育児ができないママは、精神的に追い詰められてしまいます。実際、個人主義に見えるアメリカ人女性ですら、多くが母乳育児は「良き母」の象徴的な行為だと信じています。もしも母乳育児を行わない/行えない場合でも、ママが過剰なプレッシャーや罪悪感を持たずに安心して子育てできる家庭・社会であることが大切です。残念ながら公共の授乳スペースはまだまだ女性専用のところが多いですから。

母乳育児を支えるのはパパの役割
家族の幸せのための子育て選択を

何より母乳育児の最大の障壁は、その手間です。働きながら子育てをするママには大変な苦労が伴い、働く時間や就業そのものが犠牲になることも少なくありません。歴史的に見ても、粉ミルクの普及による母乳育児からの「解放」が女性の労働市場進出を支えてきました。

カナダの研究では、半年だった育児休業制度を1年間に引き上げたところ、母乳育児期間の平均が5ヶ月から6ヶ月に伸びました。十分な育休が母乳育児をサポートすることを示しています。

また、日本の研究では、フレックス制を取り入れている会社のパパのほうが、母乳育児の実施率が上がり、母乳育児の期間も長くなる傾向があることがわかっています。ママの育児・就業支援策だけでなく、パパになった男性社員を支援することで、ママの育児と就業を支えることにつながるのです。

授乳スタイルをはじめ、理想の子育てのあり方は家庭それぞれで異なります。どんな子育てをしたいか? それを叶えるには、パパの協力が大きいことは明らかです。母乳信仰に惑わされることなく、家族の幸せのために何を選択すべきか。正しい知識を活用して、子育てを存分に楽しみましょう。

【まとめ】
● 母乳育児に長期的メリットはほぼなし。信仰に惑わされず安心して子育てを
● 母乳育児にはパパの協力がより重要。夫婦に合った授乳スタイルを選ぼう

PROFILE

山口慎太郎


東京大学経済学研究科教授。専門は労働市場を分析する「労働経済学」と、結婚・出産・子育てなどを経済学的手法で研究する「家族の経済学」。著書に『「家族の幸せ」の経済学』(光文社新書)『子育て支援の経済学』(日本評論社)など。1児の父。


文:脇谷美佳子

FQ JAPAN BABY&KIDS VOL.65(2023年夏号)より転載

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