【パパ座談会】銭湯が子育て世帯を救う?子育てのしやすい街について考える
2023/03/24
2022年7月、東京都中野区にて始動し、話題を集めた子育て支援イベント「託児銭湯」。イベントを企画した銭湯ライターのヨッピーさんと、中野区長・酒井直人さん、FQJAPAN編集長・林憂平の3名のパパが集い、子育てのリアルや銭湯の可能性について語り合った。その座談会の模様をお届けしよう。
座談会メンバー
銭湯ライター
ヨッピーさん
東京都中野区在住のフリーライター。WEBマーケティングのコンサルタントなども行う。銭湯とサウナが大好きで、週8回ほどのペースで利用。1歳男の子のパパ。
中野区長
酒井直人さん
1996年に中野区役所に入庁後、広報担当課長、地域包括ケア推進担当課長などを務める。2018年より現職。中野区を「子育て先進区」にすべく各種取り組みを行う。中学1年生の女の子のパパ。
FQ JAPAN編集長
林 憂平
2021年の長男誕生を機に「FQJAPAN」編集長に就任。計2ヶ月の育休取得を経験。2歳の男の子のパパ。
銭湯の持つコミュニティが
子育て世帯を救う?
ヨッピーさん(以下、ヨッピー):今は核家族化が進んでいるだけでなく、独身世帯も増えています。また、仕事とプライベートを分けようという意識が広まり、もはや会社はコミュニティではなくなっています。でも、人間は社会的な生き物ですし、何かしらのコミュニティを求めている人はたくさんいるはず。そんな中、知らない人同士でも「おはようございます」「こんにちは」と挨拶できる銭湯は、貴重なコミュニティでもあります。
子育てに視点を戻すと、子育て中のパパやママには、子供から離れて一息つける時間が必要だと感じています。それに同じ世代の親同士で交流できる場も、絶対に必要。パパやママにも、コミュニティの一つである銭湯を訪れて交流をもってもらいたい、一息ついてもらいたい、という思いを起点に、託児銭湯を企画しました。
酒井さん(以下、酒井):一定の時間、誰かと隣り合わせることが多い銭湯やサウナは、知り合いをつくりやすい場所です。託児銭湯の利用をきっかけに、パパ友やママ友ができる可能性は高いでしょう。中野区は、パパやママのコミュニティができる“仕掛け”として、児童館や保育園といった子育ての関連施設を積極的に設けています。パパやママのコミュニティになり得る託児銭湯は、最高の企画です。
林(以下、林):僕が暮らしている地域にも、子育ての関連施設は複数ありますが、そこにいるパパの数は、ママよりも圧倒的に少ないです。パパたちが集って情報交換などができる場所は、まだまだ少ないといえるでしょう。いっぽう銭湯は、男性が気兼ねなく訪問できる場所の一つ。託児銭湯であれば、パパも息抜きついでに利用しやすいと思います。
メンタル面の負担を減らすには
子供から離れる時間も大事
林:東京などの都市では、育児をしているパパやママが孤立しやすいもの。近くに頼れる人がおらず、子供と一対一で向き合う時間が長くなった結果、メンタル面で追い詰められてしまうパパやママもいます。地域や社会が主導し、子供を育てやすい環境を整備することで、多くのパパやママが救われるのではないでしょうか。
ヨッピー:託児銭湯を企画した目的の一つに、パパやママのメンタル面での負担軽減があります。オムツ替え、授乳といった子育てのタスクは、いずれも時間や労力がそれほどかかるものではありませんが、これらを一人で担う時間が長くなるほど、精神的にキツくなります。1時間でも2時間でも、タスクから解放されて銭湯でゆっくり過ごすことで、パパやママのもので、子供に対する愛情をつかさどるそうです。
子供が生まれた直後から育休を取得し、子供を抱っこする時間をきちんと確保することで、パパも早い段階で子供への愛情を深められると思います。
酒井:男性の育休がもたらす効果は、計り知れませんね。男性の育休取得は、義務化してもいいほど重要なものだと再認識しました。
林:ちなみに育休をとる際に懸念点になりやすいのが、給与です。育休の取得期間も給与が減る心配がなければ、もっと多くのパパが積極的に育休を取るはず。やはり、育休中の収入が保証される制度は必要です。まずは自治体や企業で、財務体制やマネジメントの見直しが行われるといいですね。気持ちは楽になるはず。
酒井:私も、子供がまだ小さかった頃は、子供から離れる時間の必要性を感じていました。また、手放しで子供を遊ばせられる施設も、当時の私にはとても貴重でしたね。
今、「中野東図書館」には「こどものへや」というコーナーがあり、そこであれば大きな声を出しても問題ありません。司書が読み聞かせもしてくれるため、子供が本を楽しんでいる間、パパやママはのんびり過ごせます。
男性育休の取得こそ
パパ育児のスタートライン
酒井:中野区は2017年に「中野区イクボス宣言」をし、全管理職が「イクボス」として職員の人生とキャリアを応援することを表明しました。以降、私たち管理職は、男性職員に育休を取るよう、積極的に声がけをしてきました。今では、中野区役所における男性の育休取得率は、ほぼ100%になっています。
ヨッピー:男性が育休を取得し、妻と一緒に育児のスタートを切ることはかなり重要です。それこそ子供が生まれてからの1~2ヶ月間は、夫がメインで育児をするべきではないでしょうか。
僕の妻は帝王切開で子どもを産んだので、産後1ヶ月ほど、安静に過ごす必要がありました。その期間、僕が主体となって子供の世話をしていたのですが、そうした経験があったからこそ、子供への深い愛情が養われたように思います。子供の成長は早く、生後1ヶ月の間で顔も仕草もどんどん変わります。最初から育児に関わり、一つ一つの変化を見守ることで、パパの内面に子供への愛情や責任が生まれるのではと思います。
林:弊紙で、“抱っこ”がパパの内面にもたらす効果を科学的に解説する特集を組んだことがあります。その際、専門家の方から「“抱っこ”という具体的な行動をとることで、パパのオキシトシンが分泌される」と伺いました。オキシトシンは“愛情ホルモン”とも呼ばれるもので、子供に対する愛情をつかさどるそうです。
子供が生まれた直後から育休を取得し、子供を抱っこする時間をきちんと確保することで、パパも早い段階で子供への愛情を深められると思います。
酒井:男性の育休がもたらす効果は、計り知れませんね。男性の育休取得は、義務化してもいいほど重要なものだと再認識しました。
林:ちなみに育休をとる際に懸念点になりやすいのが、給与です。育休の取得期間も給与が減る心配がなければ、もっと多くのパパが積極的に育休を取るはず。やはり、育休中の収入が保証される制度は必要です。まずは自治体や企業で、財務体制やマネジメントの見直しが行われるといいですね。
託児銭湯とは?
中野区にある銭湯「松本湯」で、毎月、最終の土曜日に開催されるイベント。パパやママが入浴やサウナを楽しんでいる間、保育士などが子どもを預かる。なおイベントの開催日は、日頃は休憩スペースとして使われている場所が託児スペースとなる。託児銭湯は中野区シティプロモーションの助成事業で、ヨッピーさんが企画を担当。
松本湯店主・松本元伸さんからヒトコト!
「その日の疲れはその日落とす、のが健康の秘訣。銭湯は家庭のお風呂とはまた違う、リラックスできる場所を提供します。育児に家事、仕事と、毎日頑張るパパやママのみなさんが、託児銭湯を通して安心して一息つける時間を作ってもらえれば嬉しいです」。
DATA
住所:東京都中野区東中野5丁目29-12
営業時間:平日・土曜 14:00~24:00
日曜 8:00~12:00/15:00~24:00
定休日:木曜(祝日の場合は営業。翌日振替休業)
料金(入浴):大人(12歳以上)500円、中学生 300円、中人(6歳~11歳) 200円。小人(6歳未満) 100円
文・写真:緒方佳子
FQ JAPAN VOL.65(2022-23年冬号)より転載